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22歳よ語れ

作者: ライムギ

初投稿です。いろいろ大目に見てください。感想、アドバイスなどいただけるとありがたいです。

 ウサギは寂しいと死んじゃうんだよって中学の頃の友達がよく言っていた。それの元ネタが何なのかは結局知らないままだけど、人間だってずっと一人だったら気が狂うぐらいのことはあるんじゃないだろうか。もしかすると今の俺もいくらか狂ってしまっているのかも知れない。雨の日にずっと一人でパソコンに向かってりゃ寂しくだってなるさ。そうでなければ突然こんな小説だかエッセイだかわからないような書き出しを作ってみようとは思わないだろう。

 この世に生まれてからようやく20年とちょっとが経ったぐらいの青二才なら、何か無性に自分の中の何かモヤモヤしたものを吐き出したい衝動に駆られるのはきっと普通のことなんだろうと信じているけれど、そんなものは地面に穴を掘って叫んでいればいいわけで、わざわざ文字にしてみる必要はないはずなのだ。そもそも今俺はレポートを書こうとしていたんじゃなかったか。明後日の授業で出さないといけないんだから、こんなことをして油を売っている時間は全く無いのだ。文学研究のレポートを書くつもりが自分で小説を書き始めただなんて、さすがにこれは笑っている場合じゃない。

 大丈夫、もう論文も読んでるし、アウトラインは昨日考えてあるのさ。タイトルはそう、「『一塊の土』における芥川の

〈ピンポーン〉

あれ、なんだったっけ?

変なところで邪魔するから度忘れした。まあいいや。どちら様ですか?

〈あ、もしもしシロネコ運輸です。〉

あ、はい。ん?俺なんか注文してたかな。

「石橋真吉さまにお届け物です」

はいどうも、ありがとうございます。結構でかいなこれ。

 差出人の名前は俺の母親だけど、字が汚いのと雨で消えかかっているのとで中身がわからない。たぶん食糧とかだと思うけど。

 

 たとえばこんなのはどうだろう。この箱の中身は魔法の鏡で、映ったものは鏡の向こうの異世界に吸い込まれていく。そしてそこで俺の冒険が始まる―――

いやいやいや。既視感が半端ない話の展開だなおい。何番煎じの茶を淹れる気だ。流行りに乗るのは俺の趣味じゃない。


 じゃあこういうのは?

〈プルルルル、プルルルル―〉

段ボール箱を開けようとカッターの刃を勢いよく滑らせたその時、一本の電話が静寂を切り裂いた。

「もしもし真吉か。今日お前のところに荷物が届くはずだ。会社の機密書類だ。父さんは会社と闘わなくちゃいけない。その書類があれば奴らの悪事を世に…しまった、もう来やがった。」

「ちょっと待って、全然話についていけな

「理解は後でいい、とにかく誰にも渡すんじゃないぞ!」

「え、ちょっと、父さん!?」

〈ツー、ツー、ツー…〉

どうした、いったい父さんに何があったんだ。俺はこれからどうすればいいんだろう―――

 さすがにちょっと突然すぎるだろ。それに働いたことも無い奴が会社の悪の話なんか書けるわけがないじゃないか。父さんには平和に働いてもらうのが一番だ。俺が一人前になるまでは、よろしく頼みます。


 ザザッ―――

粘着テープを切り裂く気持ちいい音。だけど、箱の中身がどうやら思っていたのとは違うらしい。

「ハジメマシテ、ボクハロボム。キミノトモダチサ!」

 全然だめだ。続きがまるで想像できない。ロボットとの友情物語か、それともまさかのドタバタコメディだろうか。世間の小説家と呼ばれる人たちはこういう現実のちょっとした出来事から物語を紡いでいくことができるんだろうけど、俺はそんなイマジネーションは持ち合わせてないのさ。

 さすがにこの箱一つではこれ以上ストーリーが浮かびそうにない。本日の妄想タイムセールはこのへんでおしまいにしよう。

 

 本当に静かだ。ストーブの上のヤカンがカタカタ音を立てているのと、目の前のキーボードがやはりカタカタ言っているほかはこの狭い部屋のなかで存在を主張するものは何もない。雨は相変わらずシトシトと降っているみたいだけど、音は聞こえない。大学の授業も今年はほとんど無いし、そういえばここ数日はずっとこうやって家でパソコンの前に座っている。特にやるべきこともなく好きなことをしてのんびり過ごせるなんて、大学生というのはいったいどれだけ偉いんだろうか。さすがに最近は少し退屈気味なぐらいだ。

 まあしかし、この生活もそろそろ終わりが見えてくる頃なのは確かなわけで。就職のこともちゃんと考えておかないといけないだろう。小学生のうちはサッカー選手でも宇宙飛行士でも言いたい放題だったけど、年齢を重ねるってことは見られる夢が減っていくってことなんだろうか。高校のときにはもう将来の夢を訊かれたって「全然決めてません」としか言えなかった。でも、ものを書くのはずっと好きだったから、心の中ではいつか物書きで有名になりたいといつからか思うようになっていた。小説家に年齢制限はないってよく言われるから、俺もいつか書こうと思う時が来るのかもしれない。とりあえず今は無事に働く先を見つけて、大学を卒業しないと。そのためにはこのレポートをしっかり書き終えないといけないわけだけど…。

 少し休憩しよう。頭を使い続けるのもなかなか疲れるものさ。お湯が沸いてるからコーヒーでも飲もう。


 そういえばまだ段ボールを開けてなかったな。結局何が送られて来たんだろう。ええと、米、野菜、カレー粉。やっぱり食糧だったか。事実は小説より奇なりって言うけど、今回は1ミリの奇もなかったみたいだ。

 あれ、もう一つ中に入ってるのは、これは、封筒かな?手紙なんてらしくない。明日は雪でも降るんじゃないだろうか。


 急に光が差してきたと思ったら、いつの間にか雨が止んでいたらしい。冷たい冬の雨も寂しいけど、冬の夕陽もまた寂しいものだ。最近帰省してなかったけど、今度の年末は実家に帰ろうかな。手紙なんか送らなくていいって言わないといけないから。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 唐突に異世界物スタートなんてことにはならず、あくまでそれらは空想で、現実は特に波風立たずな感じ。 [気になる点] 語っている感はあまりない。 [一言] 個人的にはウサギ以上に人の方が、寂し…
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