194・再会
「久しいな、二人とも」
聞き馴染みのある声を耳にして、私はその声のした方に目を向ける。
神殿の裏手から現れたのは長身のスラリとした男性で、白くて長い髪をなびかせながらこちらへやって来た。
「レヴィエント!? どうしてあなたがここに?」
なぜかレヴィエントが苦笑いを浮かべる。
「ああ、私は……そなたらに詫びねばならぬ事があってな」
「私達、別にあなたから謝られるような事は何も無かったと思うけれど」
「いいや、ある。同胞が人間界で犯した罪は、妖精界の王である私が償わねばならぬ」
身に覚えの無い事で謝られても、困ってしまう。
レヴィエントとは王都の神殿で別れて以来の再会だ。
まだ懐かしいと思うほど時は経っていないけれど、もう会えないだろうと諦めていた人との思いがけない再会に、じわじわと嬉しさが込み上げてくる。
しかし再会を喜ぶ私の耳元で、シンが呆れ気味に囁く。
「あー……話の途中で悪いんだけどな。お前、レヴィしか目に入ってないのか?」
「え……?」
「上、上だよ」
そう言われてシンの視線を辿り、目の前の巨木を見上げた。
「……!!」
確かに洞くつに入ってからはずっと神の気配を感じていたけれど、まさか姿を現してくださるなんて思いもしなかった。
私はなぜこれほどの存在感を放つ方に気が付かなかったのだろうか。
巨木の太い枝の上には大きな白いライオンを従えた女神の姿があった。
先ほどの強い揺れの正体は、間違いなくこの方が降臨された影響だ。
「ライナテミス様……」
まさか、先ほどの私の声を聞いて……?
気づくとシンが膝をついて女神に頭を下げている。ハッとした私はシンの隣に並んで膝をついた。
『二人とも、かしこまらずとも良い。……我がいとし子よ、そなたがここに来るのを待っていた』
「待っていた……のですか?」
『そなた達に頼みがあるのだ。承諾してくれるなら、私もそなたの願いを叶えよう』
「ほ、本当ですか!? 私に出来る事でしたら何なりとお申し付けください!」
『そうか。では、この土地のどこかに我が娘の宝が埋まっている。そなた達にそれを探し出してほしい』
「宝……? 女神様はその場所をご存じないのですか?」
『知らぬ。だが、そなたの隣にいる男が知っているはずだ』
え? なぜシンが?
訳がわからず、バッと勢いよくシンの方を見る。するとシンは、気まずそうに私から目を逸らした。
「……?」
シンはこの国の王子ではあるけれど、ここに来たのは初めてで土地勘だって無いのに、女神の娘の……つまり、前世の私の宝物が埋まっている場所を彼が知っているはずがない。
女神が探してほしいと言うくらいだし、わかりやすく目印になる何かがある訳ではないのだろう。
なのになぜ「シンが知っているはず」などと言えるのかしら?
疑問は残るけど、私達がその頼みを聞きさえすればアルテミを救えるのよね。
シンの意見も聞いてみようと、もう一度彼に視線を向けると、今度は目を逸らさず私を見て頷いてくれた。
「わかりました。必ず捜し出してみせます。ですからどうか、この国を元の姿に戻していただきたく……」
『その願いなら先ほど叶えた。他には?』
「え?」
『他にも願いがあったであろう。申してみよ』
他に?
そんな事を急に言われてもパッと思い浮かばない。
「いいえ。アルテミを救ってくださっただけで十分です」
『欲の無い娘だ……。では、川の下流の村に、人間だった頃の私が住んでいた家を残してある。そなたにやろう。好きに使うと良い』
「あ、ありがとうございます……?」
女神様はそれだけ言い残してスゥッと光の中に消えた。
私とシンは完全に消えたのを確認してゆっくりと立ち上がる。
「昔の家を下さったのには何か意味があるのかしら。前世の私が暮らしていた家でしょう? そこに宝物が隠されているとか?」
「うーん……よくわかんねーから、レヴィ、知っている事があるなら教えてくれ。それに、俺達に謝りたい事って何なんだ?」
「……何から話せば良いのだろうな。女神の依頼と私の謝罪したい事は根が一緒なのだ。実は、天界での調べで我が兄弟の被害に遭った者のひとりに、そなたが含まれていた事がわかった」
レヴィエントはなぜかシンに対して後ろめたそうな顔を向けている。
どういう事? 妖精に憑りつかれたサンドラにタキが命を奪われそうになった時の事を言っているの? それとも、ご両親の死にあの妖精が関わっていた?




