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172・持つべきものは友 ~後編

「エレイン様、お待たせしました。あの……」


 私とシンがマリアの連れてきた団体を警戒していると、その中から女性が一人スッと前に出てきてマリアにアイコンタクトをした。


「この方達がどうしてもエレイン様と話をしたいそうなの。ちょっとだけいいかしら?」

「ええ、それは構わないけれど……」

「よかった。ではコーネリア様、どうか手短にお願い致しますね。私もエレイン様とたくさん話をしたいのですもの」

「わかっているわ。マリア様、我がままを聞いてくださってありがとう」


 一体彼らは何を話したいというのだろうか。私の前に並ぶ男性達は神妙な面持ちでジッと地面を見つめており、楽しい話では無い事だけはわかる。

 コーネリアはゴージャスな巻き髪がいかにも貴族令嬢といった雰囲気の迫力美人だ。目力が強く、ついでに気も強い。私の記憶では髪は黒かったはずだが、今はド派手なブロンドに染められている。

 彼女はフレドリック殿下と同じ学年の為、一つ年下の私とはあまり交流の無かった人物だ。

 しかし学園の創立記念パーティーで私が無実の罪で責められた時、殿下やサンドラを誰よりも鋭い目つきで睨みつけていたのを覚えている。


「お久しぶりです、エレイン様。私の婚約者とその仲間達が、あなたに心から謝りたい事があるそうですわ。聞いていただけますか?」

「え……ええ」

「ありがとう存じます。さあ、聞いてくださるそうよ。早く謝罪なさいな」


 殿下の取り巻きだった男性達は、自分の後ろに立つ婚約者に睨まれながら私の前に整列し、謝罪を始めた。何となく、前世で観た小中学生向けの道徳の番組を思い出させる光景である。 

 彼らの謝罪内容は、エヴァンに余計な事を吹き込んで、私がサンドラ襲撃の黒幕だと信じさせてしまったというものだった。


「エヴァンはエレイン様の無実を信じようとしていたのに、僕達が嫉妬した女ならやりかねないなどと適当な事を言ってあいつの判断を鈍らせてしまったのだ。そのせいで君は孤立した。本当に申し訳ない事をしてしまったと反省している」


 この言葉を皮切りに、男性達は口々に謝罪の言葉を述べて私に頭を下げた。

 パーティー会場に居る人達は何事かとこちらに注目している。これではせっかくの誕生パーティーの雰囲気が台無しになってしまう。

 そう思ってマリアに目を向けると、彼女は満足げに笑みを浮かべていた。

 しかしそれとは対照的に、コーネリア率いる女性陣は不満顔のまま自分の婚約者を睨み続けている。

 

「お待ちなさい、他にも謝らねばならない事があるでしょう。あなた達は大人に植え付けられた古い価値観でエレイン様を差別し、陰で悪く言っていたわよね」

「コーネリア! それは言わなければバレないのに……!」


 本気でバレていないと思っていたのか、男性達は気まずそうに俯いて私から目を逸らした。でも、たまたま通りがかりに悪口を耳にしてしまったのは一度や二度の事ではない。

 それに、良かれと思って私に告げ口をしてくる人も居るので、嫌でも耳に入るのだ。

 コーネリア様はこの機会に彼らを改心させるつもりなのだろう。軽いお説教が始まった。

 マリアは私と彼女達を一度に救済する為にこの場を貸してくれたに違いない。やはり持つべきものは友だ。ここはひとつ、コーネリア様に加勢して差し上げよう。

 

「えーっと確か……幽霊のよう、滅びた国の亡霊、他には何と言われていたかしら……?」

「えっ!?」

「私が何も知らないとお思いでしょうが、あれだけ堂々と陰口を叩いていれば、嫌でも本人の耳に届きますわ」


 これを聞いた男性達の顔色はサッと蒼くなり、一斉に頭を下げた。


「すっ……すまなかった! この通り! きっと聖女と王太子殿下の友人になれて調子に乗っていたんだと思う。ごめん……いや、本当に心からお詫び申し上げます!」


 会場内を見回すと、気まずそうな顔をした人がチラホラ確認出来る。そしてその内の何人かがササっとこちらへ来て一緒に頭を下げた。

 サンドラが現れる前から陰口を言われていたのを知っているけれど、コーネリアに免じてそれは黙っていよう。

 

「ハア……情けない。こんな人が私の婚約者だなんて……」


 コーネリアは呆れて頭を抱えた。

 男性達が頼りにしていた聖女とフレドリック殿下はすっかり影響力を失い、もう当てには出来ない。

 その上私の件でノリス公爵家に睨まれていては、婚約者にまで肩身の狭い思いをさせていたのではないだろうか。

 ああ、だから男性達は私の到着をあんなに喜んでいたのね。

 今日私に謝罪出来れば、社交界で後ろ指差される事も減り、信頼回復に繋がると期待したんだわ。


「皆さん顔をお上げになって。誕生パーティーの雰囲気を台無しにしてしまいますわ」 

「しかし、まだ君から許すという言葉を聞いていない」


 私は小さく息を吐き、チラリとシンの様子を見た。懸命に感情を押さえようとしているが、鋭い目で男性達を見下ろしている。

 シンの袖をツンと引っ張ってこちらに注意を向けさせると、特に怒るでも悲しむでもなく穏やかに微笑む私を見て、シンは複雑な表情を浮かべて怒りを収めた。


「許します」


 私がそう答えると、会場内から拍手が巻き起こった。


「ありがとう! 僕らが間違っていた。君を偏見の目で見る事で優位に立ったつもりになって……恥ずかしいよ。もう誰の事も外見で差別したりしないと誓う」

「はい、もちろんそうしてください」


 コーネリアと他の婚約者の女性達は私に深くお辞儀をし、この機会を与えてくれたマリアに会釈してこの場を離れていった。


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