表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
182/227

168・おじい様の秘密

 翌日の朝、私とシンがカルヴァーニ邸で開かれるパーティーに出席する為の準備が始まった。

 私の準備は普段よりも簡単だ。化粧をせずにガーデンパーティーに合うドレスを着て髪を結い、帽子を被るだけ。だから何の問題もない。

 しかし、シンの衣装選びには苦労した。

 兄の服で間に合わせるつもりが、残念ながらサイズが合わなかったのだ。その為、衣装部屋に保管してある服の中からシンが着られそうな物をすべてかき集めて片っ端から試着をさせた。

 その中からやっと見つけたのが白いブラウスにクラバット、下は黒いズボンでグレーのベストと濃紺のロングジャケットといういかにも貴族らしいコーディネート一式だ。

 仕上げにおじい様の秘蔵ウィッグコレクションの中から黒い長髪を譲っていただき、シンに似合うようにカットして形を整え、長い後ろ髪は紐で一つに結んだ。

 シンは変装用の眼鏡を掛けなくてもこれだけでガラリと雰囲気が変わった。

 雨乞いの時に着せたコスプレ衣装もよく似合っていたが、背が高くてスタイルの良い彼は何を着せても様になる。

 何度も着替えさせられたシンは、衣装が決まるとぐったりして椅子に腰かけた。


「ハァ……もう一生分くらい着替えた気がするな……。少しくらい丈が短くてもオーナーの兄さんの服で良かったんじゃないのか?」

「ダメよ、あれじゃいかにも借り物に見えるでしょう?」

「そうですよ、シン様。カルヴァーニ邸にお集まりになる方々の中に入っても見劣りしない服装でなくては、お嬢様がお困りになります」

「ふふふ、ところでこれは誰の服なのかしら? 見た事がないけれど、お父様かおじい様の若い頃の物……?」


 衣装部屋を管理しているメイドに尋ねると、彼女もよく知らないのか首を傾げた。


「私がこの屋敷でお世話になり始めた頃にはすでに衣装部屋にありましたが、いつでも着られるよう手入れしておくよう指示された他は、何も聞いておりません」

「そう……どなたかの預かり物なのかしら?」

「そうかもしれませんね。でも大旦那様はどれを着ても構わないと仰っていましたし、問題無いとは思いますが、確認して参りますか?」


 そんな話をしていると、おじい様が様子を見に衣装部屋へやってきた。


「どうだ、シンに合う物はあったか?」

「まあ、おじい様! こんな所へ足を運ばずとも、後でお見せしましたのに……」


 まさか衣装部屋へ来るとは思わず、メイドは慌てて壁際に控え、シンは席を立った。するとおじい様は驚いた顔をしてシンの所へ行き、上から下までじっくりと眺めだした。

 

「おお、何と、これは……!」

 

 私とシンは何が起きているのかわからず、お互いに目を合わせた。


「おじい様、もしやこれには手をつけてはいけなかったのでしょうか? もう十年以上誰も袖を通していないとお聞きしましたが……この衣装はどなたの物なのですか?」


 私が質問をすると、おじい様は軽く息を吐き、それに答えた。


「それはお前が生まれたばかりの頃、アルフォード王からあるお方宛に送られてきた物だ。当時は受け取りを拒否されて、必要になったらいつでも取りに来るようその方には伝えていたのだが……まさかこんな形でとは思わなかった」

「おじい様、どういう事ですか? 話がよく見えないのですが……」

「お前達、着る物が決まったなら私の書斎へ来なさい。会わせたい者が居る」


 おじい様はそう言って衣装部屋を出て行った。

 シンはすぐに衝立の陰で着替えを済ませ、脱いだ衣装を大事に抱えて出てきた。なぜか難しい顔をしている。


「なあ、俺……小さい頃ここに来た事があるかもしれない。気のせいかとも思ったが、屋敷の中のところどころに見覚えがあるんだ」

「え?」

「いや、まずはお前の爺さんから話を聞くのが先だな。書斎に案内してくれ」

「え、ええ。シンの話も気になるけれど、おじい様を待たせる訳にいかないわね」


 私はシンの発言が気になりながらも、彼と二人でおじい様の書斎へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ