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155・私に懸賞金!?

「ラナさん大変です! エレイン・ノリス公爵令嬢を見つけたら懸賞金が出るらしいって町で噂になってます!」

「何ですって!?」


 いつものように和の国から届いた荷物を港へ受け取りに行っていたチヨは、そこで今までとちょっと違う私の噂を耳にして帰ってきた。

 チヨの話を聞いたシンとタキも、思わず作業の手を止めてチヨの所へ集まる。シンはカウンター越しにチヨと話をしていた私の隣に来ると、険しい表情でチヨに尋ねた。


「チヨ、どういう事だ? オーナーの家族は居場所を知っているし、爺さんは定期的に様子を見に来てる。一体誰がそんな余計な事をしているんだ?」

「私にもわかりません。念の為掲示板を確認してきましたけど、尋ね人の張り紙の中にラナさんのものはありませんでした。それにその懸賞金を誰が出すのか聞いても人によって答えがバラバラで……」

「肝心なところを誰も知らないって事はデマかもしれないな。誰かが冗談で話していたのを真に受けた奴が居たのか……何にしても迷惑な話だ」


 私は頭の中で、この事態をどう対処すべきか考えていた。下手すれば今の穏やかな生活が続けられなくなるかもしれないのだから、絶対に対処の仕方を間違える訳にはいかないのだ。

 すると今度は、オロオロするチヨを落ち着かせるようにタキが静かに問いかける。


「チヨちゃん、とりあえず椅子に座って。何を聞いてきたのか詳しく話してくれる?」

「はい、それがですね……」


 チヨが聞いてきたのは、エレイン・ノリス公爵令嬢を見つけた者は金貨千枚が貰えるというものだった。

 一体誰が言い始めたのか、何か重大な事件に巻き込まれて行方不明になったのでもなく、追放後に自らの意思で失踪した公爵令嬢の懸賞金が金貨千枚とは、とても現実的な数字とは思えない。

 しかし割と最近、聖女を見つけた預言者が国から金貨二十枚を貰うという前例があり、噂に妙な説得力を持たせてしまったようだ。

 王家やノリス公爵家が正式に私を探しているなら皆にもそう伝わると思うのだが、どうやらそういう事にはなっていないらしく、人によっては元婚約者の第二王子が謝罪する為に探していると言っていたり、隣国アルフォードの王が激怒して孫娘を探しているという話をする者も居たらしい。

 だけど向こうのおじい様とおばあ様にはきちんと説明済みだし、居場所ももちろん知っている。

 冷静になって考えてみると、目的もわからず家族以外の何者かが金貨千枚もの懸賞金をかけて私を探し出そうとするならば、おじい様が黙ってはいないだろう。

 おじい様は私を貴族社会に戻すつもりはなく、自由にのびのびと暮らす道を応援してくれる強い味方なのだから。

 

 そして人探しをするにはその対象の特徴を知らなければならない訳だけど、誰が教えたのかその情報に偽りはなかった。

 身長はこの国の女性の平均的な高さ、スレンダーで肌が白く、目の色はブルー系。プラチナブロンドの長い髪、まつげや眉も髪と同じ色の為顔の印象は薄く、服装は地味で清楚な物を好む、という外見上の特徴だけではなく、大人しくて控えめな性格とまで伝わっていたのである。


「……なあ、大人しくて控えめな性格って誰の事だ?」


 チヨの話を聞いて皆の間に重苦しい空気が漂う中、シンが真面目な顔をして首を傾げ、ボソッと呟いた。すると一気に場の空気が和み、タキは吹き出し、チヨにも笑顔が戻った。


「フハッ、それ言っちゃダメだよ兄さん」

「ですよねー! 私もこの話を聞いた時、違う人の話かな? ってちょっと思っちゃいました」

「なによ……悪かったわね、気が強くて」


 私がわざとふてくされて見せると、シンは私の肩にポンと手を置き、ひとまずこの話を切り上げた。


「とりあえず、その件はしばらく様子を見た方がいい。デマだとしたらすぐに収まるだろうし、そうじゃなかった時には……それはその時に考えよう」

「だね。それにいざとなればラナさんの家の人が動いてくれるだろうし、きっと大丈夫だよ」

「ハア……そうですよね、懸賞金と聞いて慌ててしまいました。金額もすごいですし、ラナさんがここに居られなくなったらどうしようってそればっかり考えてしまって……じゃあランチの準備を再開してください。遅れてしまった分、私もお手伝いしますから!」


 しかし、金貨千枚の懸賞金に目がくらんだ民衆は、その後思わぬ行動を始めたのだった。

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