133.1・あの日シンに起きた変化
雨乞いの日、ラナは女神の加護を受けて力を増幅させ、多くの村人を救った。
そしてヴァイスもまた、加護を受けた影響で霊力が無い者にも姿が見えてしまうようになった。
ラナはあの場にいた俺にも何かしらの影響があったのではないかと気にしているが、影響は勿論あった。
あの日俺は、自分が何者なのかを知った。
正確には、前世の自分が何者だったのか思い出した、と言うべきか。
あの時はかなり動揺したものの、何よりも優先すべき事が目の前にあったお陰ですぐに気持ちが切り替わり、俺の異変をラナに気づかれずに済んだ。
俺は魂に刻まれていた記憶を強制的に引き出され、前世の記憶を思い出した。
一瞬の出来事だった。
俺がたまに見ていたおかしな夢は、前世の記憶だったのだ。
今思うと、ラナの作る日本の家庭料理が俺の魂に刻まれた記憶を思い出させていたのだろう。
前世で会社員だった頃の俺が人生の幕を下ろした日、コスプレが趣味の女友達に付き合い、イベントに参加する予定だった。
徹夜で作り上げた衣装を持って会場に向かう途中、楽し気に話す彼女の声に耳を傾けながら、俺はある決心をしていた。
今日こそは結婚を前提とした交際を彼女に申し込む。
俺は照れを捨てて彼女の好きなキャラクターになりきり、コスプレした姿で一世一代の告白をするつもりだった。その時が刻一刻と近づき、口から心臓が飛び出そうなほど緊張していた。
しかしもうすぐ会場に到着するという時。
俺達が信号待ちをしていると、暴走した車が猛スピードで俺達めがけて突っ込んで来た。
すべてがスローモーションのように見えた。
俺は呆然と立ちすくむ彼女を抱きかかえてその場から逃げようとしたが、抱きかかえた次の瞬間、強い衝撃を受けて地面に叩き付けられた。
頭を強打して意識が朦朧とする中、彼女の名前を呼んだが返事は無く、好きな人に告白も出来ないまま、俺の人生は二十八歳で呆気なく終わった。
そしておかしな事に気づく。
あの日俺達がイベントで着る予定だった衣装といい、彼女の部屋にかかっていた他の衣装といい、思い起こせばどれもラナが自作した服とよく似ている。
偶然と呼ぶにはあまりにも不自然だ。
だからもしかしたら、ラナは波野葉名の生まれ変わりではないか、という考えが頭に浮かび、俺を悩ませている。
だが本人に訊いたところで前世の記憶などある訳が無い。おまけに異世界だ。そんな話題を出そうものなら笑われるのがオチだ。
ラナの前世が女神の娘という事はわかってるが、その後何度か転生しているのか、今回が初めての転生なのか、気になるが調べようがない。
せめてレヴィエントが居てくれたら何かわかったかもしれないが。
そして思い出した前世の記憶はそれだけではない。
俺は日本人として生きた記憶よりももっと古い、前前世の記憶までもよみがえっていたのだ。




