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10・シンの弟 タキ

 昨日、料理長のシンに弟を連れて出勤しても良いと言ったのは私だけれど、弟と聞いて5歳の妹エイミーが居る私は勝手に小さな男の子だと勘違いしてしまった。

 良く考えてみればシンは19歳なのだし、普通その弟ともなれば……。


「オーナー、こいつが弟のタキだ。悪いがすぐに休ませてやりたいんだが……」

「あ……ええ、部屋はこっちよ。はじめまして、タキ。私はオーナーのラナよ。慣れるまで落ち着かないかもしれないけれど、ゆっくり休んでいてね」

「うん、ありがとう。お世話になります」


 シンの弟タキは、兄に劣らぬ美少年で、兄よりも礼儀正しく、見た感じは12~13歳といったところか。

 体が弱いとは聞いていたが、骨と皮だけのようなガリガリの身体で顔色は青白く、見るからに不健康そうな少年だった。食が細いせいか背はあまり伸びておらず、私と並んで立てばそんなに変わらない位だろう。

 医者にかかるには大金が必要で、何の病なのか、体調不良の原因も分からず黙って寝ている事しかできないらしい。


「ねえ、タキは今何歳なの?」

「あ? 言ってなかったか? 体は小さいが、今年17になる。オーナーより一つ上か」

「……そう」


 まさか自分より年上の男性にベッドを使わせる許可を出していたとは。これには流石に少し動揺してしまった。弟を第一に考えているせいなのか、シンはどうもその辺の事に無頓着のようだ。


「なあ、引っ越して来たばかりとは言っても、随分飾り気が無いんだな。それに半分は作業部屋か。ミシンまであるなんて、本格的だな」


 興味深そうにミシンを見ている兄とは対照的に、彼に背負われている弟は私に申し訳無さそうな視線を向けていた。


「あの……シン、実は使っていないベッドがあるの。今すぐ整えるから、少しだけ待っていてくれる?」

「あ、そうか、そうだよな。オーナーはタキを小さな子どもだと思ってたのか。こいつの年を言わなかった俺が悪い。知っていれば、ベッドを貸すなんて言わないよな、普通」

「いいえ、気にしないで。聞かなかった私も悪いのよ。でも、タキの様子を見る限り、連れて来て正解だったと思うわ」


 寝室には老夫婦が使っていたベッドが2つ並んでいたのだが、使わない方は部屋の端に寄せてあり、今はちょっとした物置状態になっている。私は慌てて荷物を除けて、ベッドを使える状態に戻した。

 相手が病人とはいえ、17歳の男性に自分のベッドを使わせるわけにはいかないだろう。

 タキも少しホッとした表情を見せた。


 支度を待つ間、シンはこの殺風景な部屋を観察していた。シンが言った通り、前オーナーが住んでいたこの部屋は居間と寝室の2部屋あるが、居間の方はすっかり衣装を作る為の作業部屋と化してしまっている。

 作った衣装はクローゼットに仕舞ってあるが、作りかけの物はごちゃごちゃして見苦しいので、布をかけて隠してある。


「兄さん、女の子の部屋をジロジロ見るものじゃないよ。ごめんね、ラナさん。僕がこんなだから、兄さんは女の子と付き合ったことが無くて、扱い方が分からないんだ。それに、オーナーがこんなに若い人だなんて聞いてないよ、兄さん。知ってたら付いてこなかったのに」


 タキは兄からどんな説明を受けたのか、オーナーは中年女性だと思っていたようで、最初に私を見た時は明らかに動揺していた。思春期の男の子が同年代の女の子の寝室で寝るのはかなり気まずいだろう。


「だと思ったから言わなかった。一人で家に置いておくのは心配だったんだよ。この前だって、無理して家の事をやろうとして、熱を出して寝込んだろ? お前は何もしなくて良いから、まずは健康になることだけを考えろ」

「僕だって何か出来る事があると思ったんだ。17にもなって、兄さんに全てを任せた生活をしているのが辛いんだよ」


 可哀想だが、原因が分からないのでは対処のしようが無い。


「タキ、お兄さんの言う事を聞いた方が良いわ。無理をして、どんどん身体が弱ってしまったらどうするの? どうしても何かしたいのなら、ベッドの上でも出来そうな軽い仕事を考えてあげる。でもとりあえず今日はゆっくり寝ている事」

「……うん、わかった」

「あなたが元気になるように、お昼になったら栄養価の高い、消化のいい物を作ってあげるから。さあ、このベッドを使って良いわ。待たせてしまってごめんなさいね」


 そう言ってタキを落ち着かせて、用意したベッドに横にさせると、私はシンを連れて厨房に戻った。この兄弟は仲が良く、お互いを思いやるからこそこうして言い争いになってしまうのだろう。


「ねえ、シン。タキは生まれた時から体が弱いの?」

「いいや違う。体調が悪くなったのは、5年前に親が事故で死んじまって、俺が働きに出るようになってからだな」

「原因はわからないの? 何か思い当たる事は無い?」

「そんなのわかってれば対処してるって。それでもここに就職して近くに越して来てからは、少し調子が良くなったんだぞ」


 シンは笑って倉庫に向かい、今日の分の食材を用意しに行った。


「できればお医者様に診てもらいたいけれど……。残念ながら今の私には、そんなお金は無いのよね。せめて体力をつける為に、しっかり栄養のある物を食べてもらいましょう。私に出来る事なんて、その程度の事しか無いわ」


 私はタキを健康にするために、食欲が湧くようなメニューを考えていた。

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