決着
回せ回せと長官は命じる。
第二艦隊がバルチック艦隊の前を通過したあと、すぐにまたその進路を妨害できるような位置へと、艦隊を走らせていた。
おかげで第二艦隊の奮戦ぶりがよく見える。
撃ちてし止まんの精神で、ドンドン撃ってバシバシ当てる。
第一艦隊の攻撃も勇猛果敢なものだったが、第二艦隊はさらに輪をかけていた。
まるで野獣だ。
不気味に輝く牙が見える。
バルチック艦隊は自信からみて左舷、取り舵に取ってヤワラギ艦隊の最後尾をかわした。
これでウラジオまで一直線。
と思ったら、第一艦隊とすれ違う形で第二艦隊が現れた。
すでに第一艦隊の鬼の攻めで傷だらけになっていたところに、まっさら新品の上村艦隊が現れたのだ。
さぞや気落ちしたことだろうが、オロシヤ帝国はヤワラギ帝国の一〇倍の国力を誇っているのだ。
気にかけてやる義理など、毛頭ない。
それに国家のためには異民族の血など、いくら流してもかまわないという、誇り高き軍人を相手に情けなど無用。
そんなことをすれば敵将は身を処するに違いない。
「おう、見てみい諸君。上村どんはヤリにヤリまくっとるぞい」
三笠の砲撃をどうにか耐えたクニャージスワロフだったが、巡洋艦出雲の猛攻に屈しその火砲を閉じた。
その後クニ艦は、ただただ後方にさがるばかりなり。
上村艦隊の奮戦はそればかりではない。
出雲の砲撃を的確かつ猛然と注ぎ、バルチック艦隊の足止めに成功したのだ。
その上村艦隊が、バルチック艦隊から逸れてゆく。
当然第一艦隊は、バルチック艦隊の頭を押さえる形に入っていた。
いけいけドンドン!
長官の口から、そんな言葉が吐かれた。
「そうですよ。ここは行くべき時です!」
緋影までが鼻息を荒くしている。
芙蓉は拳を握りしめていた。
輝夜は拳を突き上げている。
そして瑠璃が茶をすする第一砲塔が、連続して吼える。
瑠璃の神通力により、理不尽なまでに威力を増した砲弾を、次からつぎへと敵艦に叩き込んだ。
あっという間もなく、アレキサンダーが沈黙した。
もちろんのことだが、沈黙の前には断末魔とばかり、盛大な爆発を起こしてだ。
「なんじゃい、戦艦はほとんど脱落しちょるのか?」
長官の言葉に目をむけると、確かに。
大型艦船はほぼ沈黙。生き残りも散発的に、反撃してくる程度だ。
第二艦隊が旋回を終え、残存の巡洋艦や駆逐艦を逃さぬよう、頭を押さえているところだった。
敵艦が白旗を揚げた。
参謀たちがバンザイを叫ぶ。
「喜ぶのはまだ早いぞ、射撃を続けんしゃい。敵はまだ機関を停止しちょらんじゃろ」
そうだ。国際法においてそのように取り決められている。
三笠はさらに砲撃を加え、敵の機関停止を確認したところで、ようやく勝負が決まった。
無敵と讃えられたバルチック艦隊に、小国とあなどられ続けた連合艦隊が勝利したのである。




