表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こんとん大戦  作者: 寿
54/68

夜襲


 そしてインド。

 とにかくバルチック艦隊は、あちこちで閉め出しや追い出しを食らい、ようやっとの思いでインドまでたどり着いたようだった。

 しかしこのインドでも、接岸は禁止。石炭や生鮮食糧品、飲料水などは短艇で運搬しなければならないという、ほとんどイジメのような扱いを受けている。

 大使館で仕入れた情報だ。

 そのバルチック艦隊が、沖合いに並んで浮いている。

 夜の海だが舷燈が灯っているので、その位置は丸わかりだ。夜間は灯火を規制するのが常識だが、おそらくこれもインド政府の嫌がらせであろう。

 そう、夜の海だ。

 月は陸地からのぼっている。

 左舷で見張り(ワッチ)に立っている船員たちは、このかすかな明かりに目がくらんでいるだろう。

「お兄さま? 月がきれいですね」

「そうだね、緋影。この辺りは地元で、悲恋海岸と呼ばれているらしいよ」

 サクサクと砂を踏みながら、観光客の振りをしながら、砂浜を歩く。

 紅葉のように小さな、緋影の手を引いていた。

 ヤワラギの男女ならば腕を組んで歩くか、女性が三歩あとを歩くのが普通なのだが、海外の雰囲気と観光地の空気が、緋影の手を取らせた。

 俺たちは若い夫婦ということになっている。

 緋影は先程から、うつむいてばかりいた。

 幼な妻という設定に、ずいぶん入れ込んでいるようだ。

 俺もそれに合わせて、伊達メガネをいじってみたり空を見上げてみたりと、照れ臭さを演じてみたりした。

「悲恋海岸ですか………。私としては、恋路海岸の方が好みです」

「恋路海岸か、素敵な名前だね。誰も彼もが恋路に迷ったら、初めてのときめきを思い出すために訪れる場所。それですべての恋が成就するなら、すばらしいことじゃないか」

 月明かりが、俺たちを照らす。

 砂浜には二人の影が落ちていた。

 満天にかがやく星が、ささやくようにさざめいている。

 あなたが好きです、と告白するように。

 恋路海岸。

 迷える恋路を照らす浜辺。

「やあやあ、ひ~ちゃん。お仕事を忘れてもらっちゃ困るなぁ………」

 姿を消していた芙蓉が、突如として現れた。

「緋影さま、我が差し料はさきほどから、鍔鳴りをしてたぎっているのですが」

「あんなぁ、緋影さま。男という生き物は、みんなケダモノなんよ? どうせやることやったら、ヤリ捨てポイなんじゃからね?」

「………咲夜………やることって………どんなこと?」

「瑠璃さま。イヤ、それは!」

 急に辺りが騒がしくなった。

 使鬼たちがわらわらと現れ、好き勝手なことを口にしている。

「緋影、襲撃準備はできているのかい?」

「もちろんです。いつでもいけますよ」

 ちょっと不機嫌そうに、緋影は頬をふくらませた。

「輝夜、大丈夫ですか?」

「御命令あれば、いつでも」

「よし緋影、やってくれ」

 うなずくと、緋影は出撃を命じた。

 立ち上がった輝夜は袴の裾をヒョイと持ち上げた。

 そして波に一足。

 それから、海の上を走り出す。

 って、ちょっと!

「飛ぶとかなんとかできないのかよ!」

「お兄さま、使鬼に無理を言ってはダメですよ? お兄さまだって、空は飛べないじゃないですか」

「いや、それにしても面白すぎだろ、あれ!」

 いまにも「ぃやっほ~~っ!」とか叫び出しそうな、すごく楽しそうな輝夜の後ろ姿だ。

 とてもじゃないが戦争や軍事行動に出る姿ではない。

 つーかアレ、スキップ踏んでるだろ!

「あ~~あ、輝夜ってばもう。久し振りの大仕事で、はしゃいどるねぇ………」

「咲夜、お前はアレを止めんのか?」

「そんなことしたら、輝夜が可哀想じゃろ? せっかく張り切っとんのに」

 そういうものなのか?

 とにかく、輝夜の後ろ姿は見る見る小さくなってゆく。

 双眼鏡は持ってないので、芙蓉の使い魔に観測をたのむしかない。

「輝夜、バルチック艦隊へ順調に接近中。まもなく駆逐艦と接触するよ。………というか、通り過ぎた?」

 なにもしないでか?

 思わず咲夜の顔を見る。

「抜く手も見せず、斬って捨てた。というやつじゃよ」

 まあ、俺が直接見ている訳じやゎない。

 抜く手を芙蓉が見落とした。あるいは使い魔が見落とした、ということもある。

「ねぇ、大矢くん?」

「なにかな、芙蓉」

「駆逐艦が沈むってのは、かなり大きな損害なのかな?」

「戦場では、そうでもない。だけど停泊中に謎の沈没なら、特に今みたいな情況なら、効果は絶大だな」

 原因不明の沈没は、敵の接近を疑わなければならない。

 そして退避すべきか否かを判断しなければならない。

 すべては上意下達。すみやかに指示が通らなければならないのだが、パニックに陥ってしまうと思い通りにはいかないものだ。

「………って、沈んだのか! 駆逐艦が?」

「うん、大きく傾いてるね。………って、今度は巡洋艦だ!」

 輝夜、お前は通り魔か。

 いや、だとすれば、これほど頼もしい通り魔もいないだろう。


 この夜、バルチック艦隊は三隻の駆逐艦と一隻の巡洋艦。さらには、戦艦も一隻失うことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ