月曜☆ちゃぶ台劇場
毎週月曜日は本編を離れて、ちょっと息抜き
居間に降りると、無人だった。中将は出かけているらしい。
ただ、ちゃぶ台の上に、書き置きが一枚。中将の文字だろう。走り書きだ。
月曜日は「ちゃぶ台劇場」をこなすべし。
たったそれだけ。
それだけしか書いてない。
はて? ちゃぶ台劇場とはなんだ?
すると、背後に人の気配が。
「………お兄さま」
「緋影か………」
それきり、言葉を継げなかった。
緋影が花を背負っていたからだ。巨大な鳥の羽のような、フサフサを背負っていたからだ。いつも以上にトンチキな姿に、「気は確かか?」と、正気を疑ってしまったからだ。
よっこらしょと呟きながら、緋影はちゃぶ台の上にのぼる。袴の裾からのぞくソックスの爪先で、仁王立ちになっているのがわかった。
ふたつの小さな拳を腰にあてた。無い胸を張って反らせる。
表情は、どーだ! という顔だ。それから右手の人差し指を、天井にむけて突き上げる。
熱狂!! 土曜日の夜! な、ポーズだ。それから緋影はちゃぶ台を降りて正座する。
「お兄さま、話は聞いております」
「で? いまの前フリは何だったんだい、緋影?」
「月曜・ちゃぶ台劇場ですね? わかります」
緋影は背負っていた花や羽をおろした。どうやら背負い式の担ぎ物だったらしい。
「で、緋影。そのちゃぶ台劇場とは、何なんだい?」
「週に一度月曜日、本編を離れてあれこれと小品をお送りする、小ネタ劇場。あるいは内輪ネタの暴露大会です」
「前者はかまわないけど、後者はやめておこうな、緋影」
いろいろと差し障りがある。とりあえず俺は釘を差しておいた。つまり、これから先どのようなことがあろうと、俺は悪くない。
「まあ簡単にいうと、本編を進行するのに飽きた作者が、本編を離れて何も考えずに書く、ガス抜きでしょうか?」
「うん緋影、少し黙ってような」
あまり不用意な発言はしないでもらいたいものだ。
「ちなみに、お兄さま?」
「なんだい?」
「なぜ月曜日に、このような演芸場を開催するのでしょうか?」
「日曜日は本編をしっかり進めるからじゃないかな? 基本的にお客さまは、それを欲している」
うむ、我ながら鋭い推察だ。
「さすがお兄さま、読みが深くていらっしゃいます。浅慮な緋影は日曜日に遊びたくった作者がケツカッチンになって、月曜更新分をでっち上げているのかと」
「待て、緋影待て。せっかく当たり障りないように返答した、俺の努力を無にする緋影待て」
「なにかございましたか、お兄さま?」
「緋影、君は作者が嫌いなのかな?」
「花の乙女、天下の女学生を田舎娘とか表記する人間、お兄さまは許せますか?」
「………………」
返答に窮する。
というか、ここで緋影に同意すれば、俺の身が危ない。ここは保身に徹するのが良策。
なにか良い手はないだろうか? 考えるまでもなく、するりと知恵が湧いてくる。
「緋影、確かに君は田舎娘と表記された。でも、それだけかな?」
「どういうことですか?」
「田舎娘の前に、純朴なと、書かれていただろ? 世の男たちは、みんな化粧臭い女なんかより、純朴な娘がすきなんだよ」
かく語りきこの俺も、純朴な田舎娘というのは「大変にヨロシイ」と思います。そして全国全世界に、同志は数多く存在すると知っている。
いや、俺は地味子さんが好きだね! と、のたまう君! そこの君!
………我々がいさかい、憎しみ合う理由など、どこにも無いだろ?
「そうですね、お兄さま。純朴な田舎娘は、騙してコマして捨てやすいですからね」
「お前、少しは純朴設定活かせよ」
「ちゃぶ台劇場の登場人物は、まったくのフィクションです。本編の登場人物おもに天宮緋影とは一切関係ありませんので、ご了承ください」
「汚い逃げを打つなーーおい!」
「ああっ! いけません、お兄さま!」
「今度はナニさ!?」
「今回はここで幕らしいです!」
緋影はそそくさと後片付けを始めた。別な言い方をすれば、逃亡準備だ。
唐草模様のドロボウ風呂敷に包んだ、羽やら花やらを背負って、緋影はシュタッと手を上げた。
「それではお兄さま、オチをおまかせします!」
「馬鹿野郎っ! 突然そんなフリなんかすんなっ!」
窓から逃げようとする緋影を、ポンと蹴飛ばした。「あーーっ!」と声を上げて、緋影は姿を消した。
悪はほろんだ。
人にオチを押しつけておきながら、自ら体を張ってオチをつけてくれた。
尊い犠牲である。我々はきっと、この犠牲を忘れないだろう。
「あ、お兄さま。次回予告もお願いしますね」
「お前結構タフだよな」
次回予告
スペシャルゲストで、歴史上の人物がそれとなく登場しております。しかし史実とは若干、年代が違っておりますが、気にしたら負けです!
合言葉は、瞳を閉じて全力疾走!
人生は、理不尽を越えて駆けるもの………。