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こんとん大戦  作者: 寿
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ひげ


 リョジュンから出て来たオロシヤ艦隊の目的は、あくまで我々に上陸させないこと。

 そしてマイヅル艦隊の目的は、敵を俺たちに近づけないこと。

 船の性能が同じ、大砲の数が同じなら、やる前から勝敗の決まった戦いだ。

 ということで、ここから先は後日聞いた話になる。


 まずオロシヤの艦隊とヤワラギ艦隊。

 先んじて敵影を発見したのは、ヤワラギ艦隊の側。すみやかに気を付けから戦闘準備へと移行する。

 敵の数から速度から、その予想進路に至るまで、充分に把握した上で砲門を開いた。

 対するオロシヤ艦隊は、その時点でこちらを発見しておらず、いまだ索敵をしていたという。

 まったく比較にならない状態で、ヤワラギの第一射。これが旗艦の戦艦と、従属する巡洋艦にいきなり命中。

 本来第一射は、試し撃ちの意味合いが強い。それが命中したのだ。すぐさま艦隊は第二射を命じられる。

 オロシヤからすれば、敵がどこにいるかわからない、試し撃ちが命中すると、いいところがない。

 これが緋影による祈祷の効果であるならば、オロシヤからすれば本当に「呪い巫女」のような存在となる。

 弾を込め撃ちまくり、第四射が終わる頃、ようやくオロシヤの大砲も火を吹いた。

 しかし、足並みが乱れているので散発的だ。

 砲は数であり、面である。まとめて一斉に同じ場所へ、隙間なく撃ち込むのことが必要である。こうすれば、「どれか当たる」確率が高くなるのだ。

 オロシヤの弾はパラパラと、至近弾こそあれ命中はしない。

 だがこちらの弾はよく当たった。先述の巡洋艦が火柱を上げたのだ。続いて戦艦に、二発三発と命中する。

 たまらず進路変更。オロシヤ艦隊は、ヤワラギの後ろを通過せんと舵を切る。

 しかし高速のヤワラギ巡洋艦たちが、その進路をふさいだ。命中こそ少ないが、次々と砲弾を送り込む。

 その間にヤワラギの戦艦たちは、オロシヤ艦隊の横へ着いた。さらなる砲撃で、リョジュンのオロシヤ艦隊を、たっぷりと痛めつける。

 オロシヤ艦隊にとっては、まさに右から左からだ。たまったものではない。沈没こそまぬがれたものの、戦艦一、巡洋艦二に大破を被り、早々にリョジュンへと帰航した。


 とりあえず、先制したのはマイヅル所属のヤワラギ艦隊。

 駆逐艦に導かれ悠々とジンセンに上陸した俺たちは、本当に戦闘したのかと疑いたくなるほど無傷な、マイヅル艦隊を出迎えることになった。

「何はともあれ、緋影の祝福が効いたみたいだな」

「いえいえお兄さま、これは海軍のみなさんが、日々鍛練を怠らなかった成果です」

 ふむ、例えば海軍が自分たちの立案である「天宮の起用」を誇ったとすれば、それは「お祈り」で得た勝ちであり自分たちの鍛練を否定することになる。

 そのようなことがあってはならない。

 兵の士気が下がり、訓練を怠けるようになるからだ。

「二人とも」

 今西大尉が呼んでいる。

「宿舎はこちらだよ、特別に別棟を用意してある」

 俺たちにあてがわれたのは、上陸区画にある小さな平屋の一軒家。寝床に風呂に専用の井戸と、ヨコハマ学校並の快適さだ。

「とりあえずヤワラギの円が使える。出雲財閥が将兵に不便がないようにと、配慮してくれたものらしい。感謝しよう」

「まあ、財閥がですか」

 感心したような顔をしているが、緋影にもわかっているはずだ。

 そんな配慮をするのは、出雲鏡花だけだと。

「この先に市場があって、食料品は………すまないが自腹で賄ってくれ。どうにも軍は、そちらの予算をつけていないんだ」

「わかりました」

「市場まで案内するかね?」

「いえ」

 と言って、緋影は俺の手をとった。

「二人で行ってみたいと思います」

「仲の良い兄妹だな」

「はい! とっても仲良しです!」

 緋影は俺の腕にしがみついてきた。

「それじゃあ俺は、そこの詰所に控えている。なにかあったら、声をかけてくれ」

「何から何までありがとうございます」

 俺は頭を下げた。

 その耳元に、大尉は唇を寄せる。

「移動中、刺客に狙われたそうだな。陸軍も海軍もない、いつでも頼って来い」

 俺の胸をポンと叩くと、大尉はニヤリ。背中をむけて去ってゆく。

「うんうん、いい大尉さんじゃないか」

 いつの間に姿を現したか、芙蓉が満足そうにうなずいていた。

「武侠ここにあり、ですな」

「………………………………コクコク」

「同じ軍人なら、アンタもあんなイイ男になるんじゃよ?」

 うちの使鬼どもは、好き勝手言ってくれる。

「ねぇ咲夜、大矢くんがあんなイイ男になるために、何が必要かな?」

「え? それは、えっと………」

 咲夜のことを、緋影が見上げている。

 期待に瞳をキラキラと輝かせながら。

「………ちょ、輝夜!」

「まったく、咲夜が問われているというのに」

 仕方ないという風に、輝夜が出て来る。

 というか、俺がイイ男になる条件って、そんなに答え難いか?

 どれ、と言って輝夜は口を開いた。

「瑠璃さまはいかがお考えでしょう?」

 お前もかっ? お前も俺がイイ男になるのに必要な条件、答えられんってのかっ?

 言うたれ瑠璃! 言うてこの二人、いてこましたれ!

 その瑠璃は、右にうつむき左にうつむき、伏し目がちに答えてくれた。

「………大矢がイイ男になるには………ヒゲ?」

 は? ヒゲ?

「ヒゲで、御座るか………瑠璃さま」

 コクコク。

「………それも………立派なやつ」

 立派なヒゲ………あぁ、あの男爵みたいなやつか?

「………だんでーな………おヒゲ。………芙蓉が大好き」

 芙蓉が吹き出した。真っ赤になってムセている。

「ちょ………瑠璃! な、なにを言い出すかなぁ!」

「………芙蓉は………オジサマ好き」

「やあやあやあ、そこまで言うなら瑠璃。おねえさんも瑠璃の秘密をバラしちゃうぞ?」

「………秘密の数では………芙蓉が上。私………負けない………」

 なにか不毛なドロ試合が始まりそうな、そんなきな臭い予感がプンプンとしていたが、緋影の言葉が二人を制する。

「………おヒゲですか?」

 緋影、お前もそこを離れろ。兄もヒゲ発言には、心を痛めているのだ。

「ふふっ、お兄さまにおヒゲは、まだまだ貫禄が足りてません」

 わりとキビシイね、この娘も。

「いえいえ、そうではなくて。まだまだ若々しいお兄さまでいてくださいな。緋影のお願いです」


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