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こんとん大戦  作者: 寿
23/68

ズンダ餅を求めて


 晩酌の席、中将は上機嫌であった。

「健治郎、戦鬼と護鬼を懐柔したそうだな」

「えぇ、まだ代表的な二人だけですが、緋影のそばにいることを許されました」

「二人だけでも上等上等。海軍部内でも緋影の能力には、疑問視する声があるからな。戦鬼と護鬼に気に入られたことは、非常に大きい。デカしたぞ、健治郎」

 しかし、手放しで喜んでもいられない。

 緋影の祝福はまだ前進しておらず、行動予定すら立っていない。

 ただただあちこちから、要請の電報が届くばかりなのだ。

「まあ、近場のヨコスカから攻めるのがスジなんだがな」

 行動予定すら立っていないのには、理由がある。例えば遠い地方まで出向き、そこに主力の船がいないとなっては、話にならない。

 つまり、主力艦の日程を調整しなければならないのだ。

「お父様、お船の都合を調整するのは、時間がかかるかと思います。不本意かもしれませんが、ここは陸軍の祝福から手をつけてはいかがでしょう?」

「うむ、確かに海軍としては不本意な選択だがな……」

 緋影の鼻の穴が、プックリとふくらんでいる。

 必要以上に入れ込んでいる証拠だ。

 その入れ込みの理由は何か?

 緋影の袴の腰板に、折り込んだ紙切れが挟まっていた。

 緋影に気付かれぬよう、そっと抜き取る。

 開いてみた。

『仙台名物 ズンダ餅

 宇都宮名物 餃子とシモツカレ

 秩父名物 わらじトンカツ

 名古屋名物 天むす

 ですわ/はあと

 by 貴女の鏡花』

 どこもかしこも、海とは無縁な地域だ。名古屋以外は。

 そうか。

 緋影が陸軍祝福を押しているのは、その地域のグルメを堪能したいがためなのだな?

 そして緋影の煩悩を後押ししているのが、あの出雲鏡花である。

 ヤツなら命懸けで、緋影の望みをかなえようとするだろう。

 だから言う。

「お父さん、陸軍詣りは俺も推したいと思います」

「健治郎、お前もか」

「はい、ですが条件がありますね」

「言ってみろ」

「我々ヨコハマ学校は新設部隊。変な動きをすれば海軍部内のみならず、陸軍からも白い目を向けられるでしょう」

「それはあり得るな」

「ならば俺と緋影の行脚は、到着後すみやかに任務をこなし、それをクリアしたらとんぼ返りをするのが妥当かと」

「え?」

 緋影がうろたえた。

 しかし俺は話をさらに進める。

「いや、とんぼ返りでは手ぬるいですね。一日のうちに二ヶ所は回りたいところです。そこまですれば部内の口うるさい連中も、納得せざるを得ないでしょう」

 がぼ~~んという音が聞こえてきた。

 緋影の心の音だ。

 絶望を表しているのだろう。

 グルメ旅行を期待していたのに、お仕事三昧。

 そりゃあ絶望のどん底に落ちるのも仕方ないことだ。

 が、しかし。

「大丈夫なのか健治郎、無理な日程は緋影がマイるだろう?」

「御心配にはおよびません。朝イチバンで出発すれば、一ヶ所目の到着は午前中。仕事をこなして現地で昼を摂り、二ヶ所目へ移動。そこで祝福が済んだら、夕食を摂り帰還という行程です」

 え? という感じで緋影の顔が輝いた。

 そう、グルメ旅行は一日一ヶ所などではない。

 二ヶ所を巡るのだ!

「しかもお父さん! 前夜出発の一泊予定ならば、夕食でグルメをもう一品追加できるという、素晴らしい計画も立てられます!」

「バカモン! お前たちは物見遊山で出かけるんじゃないんだぞ! ………と、怒鳴りたいところだが、緋影のヤル気が軍の成果を左右するのだから」

 中将も緋影の顔を見た。

 キラキラ輝いているというより、もはや発光している。

 中将は頭をかいた。

「………仕方ないよなぁ」

 俺は列車の時刻表を手にした。

 そして鏡花の走り書きを広げる。

 走り書きを見た緋影は、あっという顔をしたが、俺の意図を察したようだ。ニッコリと微笑む。

「緋影、まずは何を食べたい!」

「宇都宮の餃子と、仙台のズンダ餅です!」

「お父さん、次の土日はその二ヶ所を成敗して来ます!」

 さあ、緋影のきらきらグルメ旅行、出発だ!

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