月曜☆ちゃぶ台劇場
月曜☆ちゃぶ台劇場
「郵便でーーす! 小包届けにまいりました!」
緋影は学校、中将も出掛けている。
つまり家には俺しかいないので、玄関まで降りて行った。
しかし、世の中にはおかしなことがあるものだ。
郵便のはずだった。
小包の配達のはずである。
しかしそこに配達員はいない。
いるのは忍者だった。
しかも出雲の忍者である。
小包を抱えていた。
俺を待っている。
「はいはいお待たせ、ここにサインですね?」
なにも気づかないふりをしてやる。
この場合、ツッコんだら負けなのだということを、俺は知っている。
それにしても忍者。やはり声は娘のもの。ただし、ちょっぴりハスキーで男前ボイスだった。
小包を受け取ると、忍者はなにごとも無かったように、玄関から出て行った。
俺のボケ殺しは成功したようだ。忍者は肩を落としていた。
今日は月曜日。ちゃぶ台劇場の日だ。どうせ小包を開けたら、「お仕事です」と書かれた紙切れが入っているのだ。
しかし緋影は学校だ。
これからどのように、ちゃぶ台劇場をこなすと言うのか?
と思っていたら。
小包が爆発した。
さすがの俺も深刻なダメージを被る。玄関で突っ伏してしまった。
だが、頭にかすかな感触が。
手を伸ばしてみると、一枚のカードが乗っていた。
「お仕事です 怪盗セイ〇ト・テール」
さすがに怒りが込み上げてきた。
馬鹿者、セ〇ント・テールは運動が得意なんだぞ! 緋影、出雲鏡花! お前らどっちもドン臭いじゃん! 自慢じゃねぇが俺ぁ、リアルタイムで一度もアニメを見逃さなかったクチなんだぞ! 舐めるな、小娘どもが!
猛然と立ち上がる。
居間を目指した。
絶対に説教してやるとの信念を胸に。
しかしそこで俺を待っていたのは、〇イント・テールではなかった。
緋影がいる。
出雲鏡花がいる。
どちらもお澄まし、脚を組んでちゃぶ台に腰かけている。
俺としては、ちょっとアングリィだ。二人ともセイン〇・テールのコスは着用していないのだ。
二人はレオタードだった。
茶色のストッキングを履いている。
そして頭には、ウサギの耳をのせていた。
いわゆるバニーガールだ。
緋影が口ずさむ。
「山田山田は山田は、ウィー山田は、童話♪」
出雲鏡花が続ける。
「法っ被、鳶山田は♪ 山田山田は山田は♪」
二人は立ち上がった。
お互いの腰に手を添えて踊り出す。
「山田は山田は♪」
「山田は山田は♪」
右膝あげて、右脚あげる。左膝あげて、左脚あげる。ちなみに緊張感は乏しいものの、二人は美脚である。
「山田はだ、うぃ山田だ」
「山田はだ、うぃ山田だ」
『どぅわ~~♪』
フィニッシュのポーズを決めているが、俺の疑問はただひとつだ。
お前ら、学校はどうした?
学校の時間じゃなかったか? と思ったが、壁にかかった時計に目をやる。
時刻は午後十一時を示している。外も真っ暗だ。
敗北の屈辱に心砕かれていたが、「相変わらず作者、若年層に容赦が無い」と呪いの言葉を吐きつけた。
「本日もやってまいりました! 月曜☆ちゃぶ台劇場、えむし~の天宮緋影です!」
「緋影さま、ちゃぶ台に腰をおろしては、進行がはかどりませんわ!」
「鏡花さん? それでもはっする! 力押しのゴリ押しですよ?」
それでも二人は尻をちゃぶ台からどけて、キチンとお座りした。
うんうん、わかるよ二人とも。
でも、いつ運営からお叱りを受けるか、お兄さんいつもドキドキハラハラなんだ。
「では緋影さま、本日のお題を発表してくださいませ!」
「本日のお題は~~………こちらっ! ちゃらん♪ 出雲鏡花VSちゃぶ台劇場!」
「嗚呼、緋影さま………貴女はタブー中のタブーに触れますのね」
うんうん緋影、そこに触れると作者が泣き出すんじゃないかと、お兄さんは心配しちゃうなぁ。
「先週日曜日、満を持しての鏡花さんだったのですが、なんと月曜☆ちゃぶ台劇場の方が、ヒット数が多かったのです!」
「作者ざまぁですわね」
「というかドングリの背比べで一喜一憂とは、お尻の穴の小さなやつですね」
ちょ………お前ら………そのくらいで止めてあげてくれ。作者のライフはもう0だぞ?
「そんな作者に贈る言葉は………」
「緋影さま、タイミングを合わせますわよ………せ~~の」
『カーーッ………ぺっ!』
痰ツバ吐いた! こいつら痰ツバ吐きよったぞ、オイ!
どうなってんだよ、ウチのヒロイン!
「さあ、毒を吐いてスッキリしたところで………」
「ちょうど時間となりましたわね!」
緋影と出雲鏡花の間に、紐が一本垂れ下がってきた。
「それでは清らかなヒロインは、退場させてもらいます!」
緋影が紐を引いた。
床に穴が開き、華麗に落下してゆく。「アーーッ!」という声と、ドボーーンという水音を残して………。
「嗚呼っ、緋影さまっ! どうぞご無事でアーーッ!」
ドボーーン!
穴をのぞき込んだ出雲鏡花も、やはり落ちてゆく。
悪は滅んだ。
しかし体を張ってくれたことには、感謝しなくてはならない。尊い犠牲だ。
「………お兄さま、次回予告とオチの方を、お願い………」
ずぶ濡れではい上がってきた緋影だが、言葉はそこで途切れた。
背後から伸びてきた巨大なタコ足に、からめとられたのである。
穴の底から、出雲鏡花の声が聞こえてくる。
「この野郎ですわ! コンチキショーですわ!」
「鏡花さん! 目と目の間をねらうんです! そこがタコの急所です!」
ドボドボと水音が聞こえてきたが、俺はそっと床の蓋を閉じた。
次回予告!
神さまが実在することが証明され、我らがヒロイン天宮緋影清純派は、クレにヨコスカにマイヅル、サセボと飛び回る!
勿論同伴者はこの俺、大矢健治郎!
しかし行く先々で旨いものを見つけ、天宮緋影は美食を堪能する!
次回、「緋影さんは広島よりも、大阪のお好み焼きを選ぶ」に、絶対期待しないでください。
どうせ予告通りにはなりませんから。