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こんとん大戦  作者: 寿
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たぬき娘の陰謀

出雲鏡花視点


「あら、それはおめでとうございます」

 咄嗟に口をついて出たのは、心にもない祝福の言葉でしたわ。

 なにしろ緋影さまがあの「へのへのもへじ」を、救国の供として認定されたのですから。

「ちなみに緋影さま、その若い海軍少尉さんの、どのあたりをお気に召されたのですか?」

 当然のように浮かぶ疑問を、緋影さまに投げかけてみましたの。

 すると満ち足りた微笑みを浮かべられて、緋影さまは申されましたの。

「んーー………また鏡花さんには呆れられちゃうかもしれないけど、勘っていうのじゃダメかな?」

「ダメなどということは御座いませんわ」

 そう、緋影………というか、出雲が出資する天宮一族というのは、そういうものだからですわ。

 世に曰く、巫女。あるいは霊能者。ときには呪術師。オカルトというのか、とかく数理や科学で証明できないことを司る職種のためか、私なら絶対にあてにしない、根拠としないものを大切にされる種族。

 それが天宮というもの。

 そして緋影さまが、「勘」を根拠とされるなら、出雲鏡花は黙って財布の紐を緩めるしかございませんの。

 何故ならわたくし、緋影さまのおっしゃることは、全面的に信頼しておりますから。

 疑いの余地などは、ミジンコの額ほどもございませんのよ!

 もっとも、私が出資するのはあくまで緋影さま只お一人。へのへのもへじに出資する気など、毛頭ございませんことよ。

 さてそうなれば、へのへのもへじ氏には緋影さまの能力をフルに発揮できるよう、そなりに素敵な紳士となっていただかなくてはなりませんが、さてどのようにしたものか。

「ときに鏡花さん?」

「なんでございましょう、緋影さま?」

「鏡花さんはウチのお兄さま………大矢健治郎少尉に、興味は無いのですか?」

「もちろん御座いますわよ? 緋影さまの盾、もとい下僕、でもありませんわ。オプションともあれば、出雲にとっても懸念事項ですもの」

「おぷしょん?」

「供になる者、とでも解釈してくださいまし」

 いけませんわ。

 いけませんわ。

 なりませんことよ。

 つい本音がダダ漏れになる、悪いお口ですこと。

「ううん、違うの鏡花さん。お兄さまのこと、一人の男性として、どう思うのかなぁって」

 なんですの、それ?

 どういうことですの?

 何故に緋影さま、そのようにしあわせそうな微笑みを浮かべてらっしゃいますの?

 千々に心は乱れましたけど、そこは私、ヤワラギ帝国に財閥ありと謳われた出雲鏡花。

 動揺を悟られぬよう、微笑みを返させていただきましたわ。

「そうですわね、緋影さま。お兄さまに関しては一人の男性………出雲の一員になるとすれば、いま少しのお勉強が必用かと」

「具体的には、どのような?」

 食いつきますわね、緋影さま。

「そうですわね、まず勉学で申しますと、士官学校主席卒業とのことでしたが」

「うんうん」

「士官学校主席など、出雲においては当然のことと申しますか………士官学校主席は毎年、誰かがなるものですわね」

「………でも鏡花さんのお兄さま、勉学はあまりお得意ではなかったような」

 ぐう………さすが緋影さま、痛いところに容赦がありませんこと。

「よろしいですか、緋影さま」

「はい」

「あのようなファンキー・モンキー・アニキーでも、出雲の血族であれば、豪放磊落とか天衣無縫とか極楽とんぼとか、勝手に良い方向に解釈してくださるんですの」

「はあ」

 イマイチ納得してらっしゃいませんわね。

 ですがこの出雲鏡花、甘い手ぬるい手は打ちませんことよ!

「ですが出雲の血族足り得ない大矢健治郎さまが、私と契りを結び今日から出雲と名乗りを上げましても、世間の目は厳しぅございますわ」

「そうなんですか?」

「そうなんですの!」

 申し訳ありません、緋影さま。ここはひとつ、言い切る形を取らせてもらいますわね。

「ですから少尉にはここで満足することなく、より練磨鍛練にはげみ学びしてもらわなくては、出雲の一員には相応しくありませんの」

「鏡花さんは欲張りなんですねぇ」

 だからどうしてそのような解釈になりますの! 緋影さまっ!

「緋影はお兄さまがそばにおられるだけで、生きよう、貫こう、このしあわせを、みんなと分かち合おう。となるんですけど、鏡花さんがそのようにおっしゃるのなら、きっとそれが一番の方策なんでしょうね」

 博愛ですわね、緋影さま。出雲鏡花は緋影さまへの想いで、パンパンですのに………。

「ですが鏡花さん? 家柄をすててまで、一途に貫く愛は、尊いものですよね?」

「緋影さまは、私に何をお求めで?」

「お兄さまと仲良くなることかな?」

「わたくし、そこまで外道な振る舞いを?」

「刑罰を与えている訳ではありません。鏡花さんは大げさですねぇ」

 いいえ緋影さま、あなたの口からそのような、他の殿方などはいかが? 的な発言。私にはハリツケ獄門にも等しい仕打ち。この私は、出雲鏡花は………あぁっ!

「んーー………鏡花さんが以前お兄さまのことを、結ばれるには理想的とかおっしゃってたから、これは恋の始まりかと期待したのですが」

「あらあら緋影さま、恋の始まりでしたら、すでにわたくし緋影さまにフォーリンラブですのよ?」

「またまた、鏡花さんったら、もう」

「ふふふ、緋影さま。世の中には百合というものもございまして、御興味をお持ちになられましたら是非、この鏡花にお知らせくださいませ」

「さすが鏡花さん、物知りですねぇ」

 まあ、緋影さま。

 私のお話、何ひとつ理解されてませんわね。

 夢見るように、瞳がキラキラとしてらっしゃいますわ。本当に愛くるしい方でらっしゃいますこと。

「ときに鏡花さん」

「なんでございましょう、緋影さま」

「お兄さまってば酷いんですよ? 私の霊験効能を、まるで信じてくれないんです、ぷんぷん」

 そんな奴、呪って差し上げなさいな。

 ………ハッ! またしても私ともあろう者が。

 どれほど顔に出していないとは言え、そのようなことを考えるとは。

 なりませんわ、いけませんわ、許されませんわ。

 やはり財閥令嬢たる者、仇は手下に捕まえて来させて、目の前でいたぶるのが王道覇道ですのに。

 見えない場所でもがき苦しみ、挙げ句、亡き者にしようなどとは。

 御先祖さまに顔向けできぬ発想でしたわね。

「ですから鏡花さん、今度の休日にはお兄さまと、港へ出向こうと思っているんです!」

「そうなんですの?」

 あんなへのへのもへじと緋影さま、二人きりという訳にはいきませんわね。

「そこで、ヨコハマに寄港している軍艦を片っ端から祝福して、天宮緋影の実力を思い知らせてやろうかと!」

「その祝福は、軍艦の中でなさいますの?」

「はい! お父様の紹介状がありますから、天宮緋影、天下無敵です!」

「いずみ、いますわね? お父様に言って、私の分も乗艦手続きを済ませてもらえるかしら?」

 いずみに命じますと、緋影さまはいたく喜ばれましたわ。

「鏡花さんも一緒なら、天下無敵の天下無双です! いきましょう、お兄さまに目にもの見せてやるために!」

「そうですわね緋影さま。たとえ少尉がフカの餌になろうとも、それはあくまで事故ですわよね!」

 決戦ですわ!

 首を洗って待ってるがよろしいですわ!

 私の緋影さまに近づく者が、どのような末路をたどるか、その身で思いしるがよろしくってよ!

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