月曜☆ちゃぶ台劇場
月曜☆ちゃぶ台劇場
緋影の勉強を見てやるために、資料をまとめていた。
俺の自室とされた部屋だ。他には誰もいない。
集中することができたので、作業は意外なほどはかどっていた。
数学の参考書をめくった時だった。
不自然に一枚、紙切れがはさまっていた。
抜き出してみる。
緋影の字で、こう書かれていた。
お仕事です
暦に目をやった。
月曜日だった。
今週もまた、ちゃぶ台劇場をやるらしい。
俺は「お仕事です」とだけ書かれた紙を握りしめ、呟いてしまった。
「………突然ガバチョかよ」
呟いておいてこんなことを言うのもなんだが、突然ガバチョとは一体なんのことなのか、俺は知らない。何かの呪文だろうか?
まあいい。どうせ茶番に付き合うことは確定なのだ。
これも仕事とあきらめて、俺は階段を降りた。
自然と歌が、唇からこぼれる。
「射手座、派手伊豆騎士~♪」
なんの歌だろうか?
日本語ではないようだ。
ただひとつ、これだけは言える。
「こんとん大戦は歌詞の引用など一切しておりません。あの歌じゃないか、この曲のことだろうと気づかれた方は………それは、あなたと俺だけの秘密です。ともに胸に秘めておきましょう」
独り言を呟きながら、居間に入った。
居間に入ると、忍者がいた。正座でちゃぶ台に着いている。
なぜ忍者だと判断したかというと、頭巾をかぶっていたからである。
忍者装束を着込んでいたのもある。
忍者袴を履いていたのもポイントだ。
忍者は覆面をしたまま煎餅を食っていた。なかなか器用な奴である。
肩幅や胸板の厚さから、女であると思われる。そのわりに、長い髪を無造作に束ねていた。というか、あまりに無造作すぎる結い方だった。
「………………………………」
忍者が座布団をすすめてくれた。
あ、どうも。
頭をさげて座布団に座ったが、ここは俺の家だ。頭を下げる筋合いではない。
忍者は縁側に向かい、閉ざされた障子を眺めている。
俺は隣に座布団を移す。俺も煎餅をつまむためだ。
煎餅に手を伸ばした。
忍者にピシャリと打たれる。
「………………………………」
目だけを出した忍者。
ちょっと怒っているようだった。
「これはウチの煎餅だ」
俺は言った。
忍者は煎餅の入った盆を、俺にむかって差し出してきた。
そうだ、それでいい。
美味しいものを独り占めしたい気持ちはわかるが、我がヤワラギの国の精神は、共にあるところにある。
飢えているなら飢えているなりに、豊かであるならば豊かであるなりに。
共に分かち合い、手をたずさえ合って支え合うこと。それこそがヤワラギ魂の極限なのだ。
などと、士官学校で仕込まれたヤワラギ精神を反復していると、忍者が拍手を始めた。
つられて俺も拍手する。
障子に、影が映った。
どう見ても、巨大な羽根と巨大な花を背負った、娘の姿だ。
その影は、ふたつ。
ふえた!
瞬時に俺はそう思った。
思ったときには、障子が左右に開いた。まるで自動開閉である。便利なものだ。
いや、そうじゃない。
縁側には巨大な羽根と巨大な花を背負った、緋影と出雲鏡花がポーズをとっていた。
豪華な前奏が流れ始めた。
どこから?
そんな俺の疑問を無視するように、二人の小娘どもは歌い出す。
光がこぼれるやらあふれるやら。歌が流れるんたか生まれるんだか。
とりあえず、ちゃぶ台劇場にウェルカムという内容の歌だ。
二人はシルクハットを頭にのせていた。
歌うたびにその帽子を振り回し、踊りの小道具にしているようだった。
が。
振り付けがまるで歌に合っていない。
緋影も、出雲鏡花もだ。
この場合、緋影と出雲鏡花、どっちの振り付けが正解なのか? 疑問に思うのは無粋な行為なのだろう。どうせ二人とも間違えた振り付けなのだ。
黙って二人の歌と踊りを拝見することにした。
だが確実に言えることは、二人の歌と踊りは不快でしかなかったのだ。
緋影がちゃぶ台に、「よっこらしょ」と登る。
出雲鏡花もまた、ちゃぶ台に「どっこらせですわ」とよじ登った。
ちゃぶ台劇場のふたりは、シルクハットをつきだして、ハーモニーなのだろうか。不快な不協和音をかなでる。まさに「デュ~ワ~」のポーズだった。
しかし最後のコーラスがコケたせいで、ますます俺は不快になる。
もちろんちゃぶ台の上の二人は、オープニングセレモニーの出来映えに、御満悦の様子であった。
よっこらしょと緋影がちゃぶ台から降りれば、出雲鏡花もまたどっこらせですわと、ちゃぶ台から降りる。
背中の花やら羽根やらをおろして、ちゃぶ台に着く。
ちなみにちゃぶ台劇場本編は、まだ始まっていないのだから、前フリが壮大すぎると俺は思った。
これで本編がショボかったら、この二人どうしてくれよう。
「今日も作者はケツカッチン! 天宮緋影です!」
「おかげで私どもが茶番を演じなければなりませんわね、出雲鏡花ですわ」
「さて鏡花さん、本日のお題はこちらです! ちゃらん♪」
忍者が皿を出してきた。
刺身が乗っている。
「緋影さま、これはホタテとツブのお刺身ですわね」
「いま現在作者は、バイクで海を目指しています!」
「まあ、存分に翼を開いてますのね?」
「バイクにはきっと野心を乗っけてることでしょう!」
うんうん緋影、ちゃぶ台劇場なのはわかるが、第二回にして早くも若年層に解りづらいネタはやめようか。
俺も突然ガバチョとかホザいたけど。
「ですが緋影さま、バイクということは身体が野ざらしですわよね?」
「そうですよ鏡花さん! 雨が降ればずぶ濡れロックなんです!」
「では作者地方のお天気を、気象センターの忍者さんにうかがってみますわね? 気象センターの、忍者さーーん!」
忍者はいつの間にか縁側のむこう、庭先に立っていた。
レインコートを着ている。
傘をさしていた。
そしてバケツの水が断続的に降っている。
「………………………………」
忍者は無言だ。
おそらくロクでなしの主に、言いたいことがたまっているのだろう。察することができてしまう。
「ありがとうございました。………緋影さま? 作者地方は大雨のようですわね」
「きっと今ごろずぶ濡れですね。こんな時、鏡花さん。かけてあげる言葉はひとつですね。………せーの」
「「ざまあ!」」
「一人で美味しいお刺身を食べようとするからです!」
「これは天誅ですわね! もう一度言って差し上げましょう」
「「ざまあ!」」
「ああっ! いけません鏡花さん! こちらも巻きが入りましたよ!」
「それではこの辺りでお開きですわね!」
二人は花と羽根を背負う。シルクハットをかざして、すみれの花がなんたらかんたらと歌い踊る。
「それではお兄さま、オチをよろしくお願いしますアーーッ!」
緋影が縁側から落ちた。
「ああっ! 緋影さまご無事でアーーッ!」
もう一人落ちた。
悪は滅んだ。
身体を張ってオチをつけて、悪は滅んだ。
その犠牲は、たとえ悪であろうとも尊いものである。
「お兄さま、ここで次回予告などを」
「華麗に決めてくださいませ」
「………お前たち、首が曲がってるぞ?」
次回予告!
待ってくれ!
俺は刺身を独り占めなんかしてないんだ!
雨の中、バイクはひた走る!!
片道150km !
出雲鏡花(生)に刺身を送り届けるため、命を懸けて走る!!
次回、「ザ〇ングルの主題歌をネタにするって、どうよ?」
に、御期待ください!