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第80話・裏切り


1月4日、午前8時。場所は朱天から南へ10数キロの魏延荒野にて。


「やれやれ、新年早々何やってるんだか……」


エラムの背中に乗り、眼前の軍勢を眺めながらケイジはそう呟いた。

条件通り、エリスは荒野に今用意できる全戦力を揃えてきたようだった。歩兵に騎馬兵、魔法隊など様々だ。

数はかなりのものだが、結局は数だけ揃えても仕方が無い。そのことはエリスも分かっているはずだ。エルとエラムは俺よりも強いんだし。


「よし、エラムいいぞ。ここら辺に降りてくれ」


バサッ、バサッと逞しい翼をはためかせながらドラゴン化したエラムの体が地面に降り立った。

敵軍はそこから前方約800メートル付近に陣を張っている。


「よっ、と。それじゃお前らは少し待っててくれ」


「え、ご主人は?」


「ちょっと話をしてくる」


まっすぐ、騎馬したエリスの元に歩いて行く。エリスはじっとこちらを見つめていた。


「な、弓兵! あの男を狙え!」


側近の1人がケイジを見、すぐさま命令した。それに応じて弓兵が攻撃態勢に入る。

だが、それをエリスが制止した。


「待て。彼とは私がやる」


「なっ、エリス様!?」


「彼には弓など通じない。お前達も敵わないだろう。結局のところ、私が彼を倒せなければこの戦いは負ける」


「そんな……」


側近の男は表情を暗くして、弱々しく呟く。


「だからこそ、お前達は私が彼を倒すまで持ち堪えるのだ。あの少女2人も只者ではない」


「エリス様……」


エリスは馬から降り、歩きながら後ろを振り向いて部下達に告げた。


「頼んだぞ」


「……はっ!!」


いい指揮官だな。やっぱりエリスが悪者だとは到底思えないんだよなぁ……。戦うのも気が引けるが、今この反乱を止めるにはそうするしかないのが辛いところだ。


エリスはゆっくりとこちらに歩いてくる。そしてまだ剣を抜く気配はなく、真面目な表情で言う。


「私達は少し離れよう。部下達を巻き込みたくない」


「同感だな。俺もアイツらに巻き込まれたくない」


ドラゴン化したエラムの攻撃に巻き込まれたりしたらシャレにならん。ホンマに。


「エル! エラム!」


遠ざかりながら兵士達と向き合う2人に向かって声を上げる。


「なにー?」


「1人も殺すな!」


「分かったー!」


「ケージ……」


エリスはそんなケイジ達を辛そうな目で見ていた。


うーむ、返事してきたのがエラムってのがどうも心配だが、まあ何とかなるだろう。アイツらに限って負けるなんてことはないだろうし、やり過ぎなければ大丈夫のはずだ。


「さーてと、こんだけ離れればいいか?」



歩き始めて十数分。軍隊とエル達が構えている場所から数キロ離れたところまで来た。ここならば巻き込んだり巻き込まれたりすることはないだろう。


「ああ……」


「まだ迷ってるのか?」


晴れない表情を浮かべるエリスに問いかける。


「迷っている、訳ではないが……」


「戦いたくないのか?」


「……ああ。私は、ケージとは戦いたくない」


「だったら今すぐこの国を出て行け」


「……」


「そんな甘ったれた覚悟しかないんだったら今すぐここから去れ! エリス!」


エリスは一層苦しそうな表情を浮かべた後、バッと顔を上げた。


「断る!」


その顔には決意が満ち満ちている。


「私は自分のために戦う! その相手がたとえケージだとしても!」


そんなエリスを見てケイジはニッと笑った。


「じゃあやろうぜ。手加減も邪魔も無しでよ」


ミルさんから貰った細剣を魔法で取り出す。懐のハンドガンも投げナイフもいつでも取り出せるようにしてある。


「上等だ……!」


エリスもスーッと腰の黒剣を抜いた。そしてアンチ魔法であろう魔力を剣に纏わせた。ビリビリと黒い雷のような魔力が伝わってくる。


「行くぞ!!」


「来いッ!」


ブーストをかけながら一瞬で間合いを詰める。エリスもそれに完璧に反応し反撃の動きに入っている。


「サンダーブレイド!!」


超高電力の雷が迸る剣を、目にも留まらぬ速さで振るう。正しく光の剣のようだ。


「はあああああッ!!」


ガキィィイィィン!!


エリスは的確に黒剣でそれを受け止めた。勢いも魔法も打ち消され、ケイジの攻撃は失敗に終わる。

だがすぐさま第2撃目に移る。


「ボルケイノ・クロー!!」


細剣を左手で持ちながら右手に魔力を集める。そして左上から右下へと巨大なマグマの鉤爪がエリスに襲い掛かった。


「スノウ・バースト!」


エリスは1歩引いたかと思うとすぐに魔法を発動させ、ボルケイノ・クローよりもさらに巨大な雪の刃で反撃した。

雪の刃はボルケイノ・クローをかき消し、ケイジの眼前まで迫った。


「シールド・ダブル!」


左手で細剣を地面に突き刺し、右手でシールドを展開。威力を考えて今回は二重のシールドだ。魔力消費は1枚よりも多いが致し方ない。

シールドを張っていても体はどんどん後ろへ押されていく。突き刺した細剣がガリガリと地面を削る。


エリスの攻撃の勢いが止むとすぐに次の攻撃へ。右手の魔力を地面に送り込み、エリスの足元からの攻撃をイメージ。


「はぁぁッ!!」


しかし、地面から突き出した土の棘や刃をエリスは黒剣で尽く斬り裂いた。

そして剣戟を止めることなくケイジの目の前まで走り寄り、容赦無く急所を狙って黒剣を振るった。


「ぐっ、おおおおッ!!」


とてつもない速さの一撃一撃をどうにか受け流す。

バックステップで距離を取り、続いた流れが一旦途切れる。


「ふぅーっ、厳しいね全く……」


「それはお互い様だ」


早くも若干息を切らしながら、それでも2人は微笑を浮かべて剣を振るった。





間。





戦闘開始から1時間近くが経った。

エリス相手に手加減などする余裕もなく、魔力残量も体力もどんどん削られていく。投げナイフは使い切りハンドガンも真っ二つにされてしまった。

だが、消耗しているのはエリスも同じのようで、だんだんと剣の速度は落ちてきている。


「はーっ、はーっ……」


「はぁ、はぁ……やれやれ、いい加減倒れてくれよ……」


大きく息を吐きながら泣き言を言うケイジ。それを見ながらエリスも苦笑いを浮かべる。


「だったらケージが倒れてくれ……私はもう疲れた……」


「へっ」


「ふっ」


悲鳴を上げる体を引きずり、魔力を捻り出して前へ。1歩でも前へ、1秒でも早く剣を振るう。


ギィン、ガキィィン!


火花を散らして打ち合われた互いの剣も、もうボロボロだった。


「私は、負ける訳にはいかないんだぁぁぁああぁぁぁッ!!」


何百と繰り返した剣戟の中でも一際力の篭った攻撃が来た。剣を持つ左手は間に合わず、右手に急いで魔力を溜める。


「シールド!」


ガキン!!


「はあああああああッ!!」


「ぬぐぐ……!」


ビキビキとシールドにヒビが広がっていく。このままでは破壊されてしまう。


「だったら……!」


ケイジは敢えて右手をシールドから離し、左手の剣を持ち上げた。瞬間、エリスはシールドを破壊し横薙ぎの一閃でケイジの胴を狙った。

そしてケイジは下からの斬り上げでエリスの黒剣を弾き飛ばした。黒剣は宙を舞い、2人から数メートル離れた地面に突き刺さる。


「どうだ、剣がなけりゃ……!」


「ふっ!」


「おわっ!?」


ところが、エリスはケイジの予想とは裏腹に下がることなく攻撃してきた。素早い足払いでケイジは体勢を崩し、その場で転んだ。


「終わりだッ!」


バチバチとエリスの振り上げられた右手に黒雷が溜まっていく。馬乗りされたケイジに魔力を溜める余裕はなかった。


「ッ!!」


反射的に両腕を構えたが、それで防ぐことも無理か……と思い覚悟を決めた。

だが。


「……ゴフッ!」


目の前のエリスは手を止め、口から大量の血を吐いた。そしてそれと同時に。


「ゲホォッ!」


自らの口からも大量の血液が逆流してきた。襲い来る激痛に必死に抗いながら状況を確認する。

すると、2人の腹の部分に長い槍が突き立てられていた。エリスの鎧もケイジの体も貫通し地面まで届いている。


「なっ……!」


「ヒュー、ヒュー……」


当たりどころが悪かったのか、エリスは喋る余裕もないようでどんどん衰弱していく。


「ハ、ハハハ、ハーッハッハッハ!!!!」


笑い声の主を必死に睨む。


「ま、まさか2人諸共始末できるなんて! エリスゥ、なんか企んでるとは思ってたけど残念だったなぁ!」


ティルである。軍勢の中にも姿は見えず、ここに来るまでも全く気配を感じなかった。気配を消す程度の魔法ならば使えるのだろう。完全にこちらの落ち度だった。


「ティル……てめえっ……!」


喋る度に激痛が走る。ここまで致命傷になってしまうと治癒魔法も難しい。そもそも槍を抜くこともできない。


「無様だなぁ賊よ! お前が消えれば姉さんもすぐに見つけ出して殺せる!」


「やら、せるか……!」


「ははは、そんな体で何が出来るんだ、よ!」


「がっ……」


より深く槍を突き立てられ、痛みに悶絶する。意識もどんどん遠くなっていく。


「クソ、が……」


目の前が真っ暗になり、凄まじい眠気に襲われた。

そして、最後に何か聞こえた気がした。

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