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第68話・頼るという事


「んむ……」


窓から射し込む光で、ケイジは目を覚ました。二度寝してはいけないと思い、寝惚け眼のままベッドから半ば落下気味に降りる。

ふと街を見ると新年初日ということもあり、大勢の人で賑わっていた。


初日の出、見に行きそびれちまったな……。


ケイジの隣のベッドには、穏やかな寝息を立てるテリシアが居た。時刻は午前7時、普段ならとっくに起きているはずの時間だが、今日はまだ目を覚ましていない。


「……ごめんな、テリシア」


指先で触れた金髪は、いつもの暖かさを取り戻している気がした。


あそこまで取り乱すテリシアは滅多に見たことない。それこそ、最初の依頼の時、あの村が襲われてたのを見た時以来だ。

俺が、1人にしちまった。

何だかんだで、俺とテリシアが出会ってからは1人でいる時間が極端に減ったんだと思う。すぐに同棲も始めたし、エルやエラムたちもいてそれなりに賑やかだった。

けど、昨日は俺が何も言わずに1人ぼっちにしちまったんだ。それが引き金になって、辛い記憶が呼び起こされたのかもしれない。


そんなんじゃダメだ。

絶対に。

テリシアを悲しませたくないんだ。

ずっと、ずっと笑っていて欲しい。


「ん……」


綺麗な金髪の毛先で遊んでいると、テリシアがゆっくりと目を覚ました。


「……おはよう、テリシア。どうした?」


朝日の光に目を細めていたテリシアは、ケイジの姿を目に映すとすぐに、何も言わずケイジに抱き着いた。

その腕が微かに震えている事に、ケイジは気付いている。


「凄く怖い夢を見たんです」


「夢……?」


「みんな、ケージさんもメルもみんな居なくなって、1人ぼっちのまま死んじゃう夢、です」


胸が締め付けられた。

間違いない。

俺の行動が原因だ。


「……ごめん」


「え、どうしてケージさんが……?」


「昨日、勝手にいなくなって済まなかった」


「……いえ、そんな」


「辛かっただろ?」


「……」


「約束する。もう、絶対に1人にはしない」


「ケージさん」


一旦体を離し、ケイジの目を見ながらテリシアが言う。


「何だ?」


「愛しています」


「俺も、愛してる」


この気持ちだけは、何があっても嘘じゃない。俺の行動全てが偽善だったとしても、嘘偽りで満ちていたとしても、この想いだけは、絶対に。


「私はケージさんが大好きです。側にいてくれれば他に何も要らないくらい……。だから、1人で抱え込まないでください。出来ることがあるかは分からないけど、話せば楽になる事もありますから」


はあ……。

言われちまったな。

本当に、俺はバカでどうしようもない奴で、幸せ者だ。


は?惚気乙?

うるせぇ、仕方ないだろ。

こんな素敵な嫁さん他にいないぞ?大丈夫かお前ら彼女くらいいるんだろうな?


「……そうだな。ちょっと長くなるが、聞いてくれるか?」


「もちろんです」


全てを話した。1度話した事も含めて、全てを。

俺がどうして殺し屋になったのか。

どんな思いで人を殺し続けたのか。

この世界に来てどれだけ救われたか。

この世界で生きて行くことが、俺のやるべき事だと思ったということ。

そして、昨日の『あの声』のこと。

包み隠さず、取り繕わず、全てを吐き出した。

テリシアはずっと、穏やかな顔で聞いていてくれた。


「……と、こんな所だ。ホントにごめんな、昨日は出て行ったりして」


「とりあえず」


「はい」


「その声の主は分からないんですか?」


「……分からない。俺の事をあんなに知ってるやつなんて、見当もつかない」


「分かったら教えてください。私が引っぱたきますから」


どこか恐ろしげな笑みを浮かべながらテリシアは言う。


「一応理由を聞いても?」


「だって、私のケージさんを散々貶したんですよ!? 許せないです! 絶対に訂正させてやります!」


「ま、まあまあ……」


まさからそこに食いつくとは……。やはり天然と言うべきか何と言うべきか。

でも不意打ちで「私のケージさん」とか言うのはやめて欲しい。照れるから。


「……ケージさんは、私のヒーローです。誰が何て言っても、私を救ってくれた英雄である事に変わりはありません」


「テリシア……」


違うんだよ……。


「絶対に大丈夫です。ケージさんは間違ってなんかない。私が証明します」


俺は、弱いんだ。

そんな俺を、君が支えてくれたから、だから俺は……。


「もしケージさんが間違った道に進んでも、私が引っ張ってあげますから。だから……ケージさん?」


思わずテリシアを抱き締めていた。

離れたくない。

そんな想いが、頭を埋め尽くしている。


「ありがとう……!」


その一言がまず先に零れた。


「……ケージさん」


「何でしょう」


「もしまたそんなに思い詰めるまで1人で抱え込んだら許しませんよ?」


「す、すいません……」


「ふふ、冗談です。でも、ほんとに抱え込むのはやめてくださいね?」


「ああ、もちろんだ」


「私も、ケージさんも、もう1人じゃないんです」


仲間達のことが頭に浮かぶ。

ジーク、ガルシュ、メル、ミルさん、レニカさん、サーチェさん、クロメ、ハク……。

他にも沢山の人たちに支えられて、俺は生きてる。


「私に話しにくいことならジークさんやガルシュさんがいます。みんな、きっとケージさんを助けてくれます」


「そうだな……」


「みんな、ケージさんに感謝してるしケージさんを尊敬してるんです。だから、もっと周りの人を頼ってください」


「ああ、分かった」


「た、だ、し」


「え?」


「今回のこと、許してあげるには条件があります」


「じ、条件?」


あれ、これもうイイハナシダナーで終わる流れじゃないの?


「はい」


「うおっ」


テリシアはケイジに抱き着いたまま、自分のベッドに倒れた。

そして。


「んっ……」


ケイジの口を自分の唇で塞いだ。


「んぅ……」


最近はあまりしていなかったテリシアとのキス。心地好くて、幸せなキス。なのだが。


……な、長い!

これは俺の理性がヤバい!

誰か助けてお願い!


「ぷはっ……。えへへ、ビックリしました?」


「ああ、お陰様でな……」


あっぶねぇ、もう少し長かったら完全に襲ってた……!


「ケージさん」


「何でしょう」


「条件、です」


「はい?」


テリシアはケイジの肩を掴み、自分の顔近くにグイッとケイジを引き寄せて言った。


「今日はエルちゃんたちは帰ってきません。だから、だから……」


そのまま顔を赤くして、だが目は逸らさずに、


「私を、今日1日愛してください」


まさかの1日宣言。

そんなに持つかは分からないけども、とりあえずぶっ飛びそうになる理性を何とか抑えながらケイジは言った。


「じゃあ、俺からも1つお願いがある」


「何ですか?」


「これからは、ケージって呼んでくれ。さん、なんて付けなくていい。それと敬語じゃなくて普通に話してくれ」


「え、そ、それは……恥ずかしいと言いますか……」


今やってる事の方がよっぽど恥ずかしいと思うんだけどなぁ……。


照れ臭そうに目を逸らすテリシアだったが、真っ直ぐ自分を見つめるケイジを見て観念したのか、恥ずかしそうに言った。


「ケージ、私を、愛して?」


超☆エキサイティング!!!!


そうして、ケイジの理性は無事に成層圏の彼方まで吹き飛び、2人はオトナになった。


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