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隠密スキルカンストさせた俺、異世界生活始めました  作者: 颯来 千亜紀
第8章・ムシキ〇グに俺はなる!
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第63話・男はつらいよ


次の日。時刻は午前9時、ギルドのカウンターにて。


「……っていう事があってな」


笑いをこらえながら話すのはガルシュ。

そして隣でそれを面白そうに聞くジークとメル。その隣にはカウンターに突っ伏すケイジ。


「へぇ、そんなことが」


「ケージさんビビりすぎでしょ、あはははは!」


「うっせぇ! たまたまだアレは!」


「いや、終始腰引けてただろケージ……」


結局、ケイジが瞬転移で逃げた後はガルシュとテリシアがエメラルドコガネを捕獲。依頼主に品物を渡し、2人は解散した。テリシアが家に帰ると、エルに馬鹿にされ完全にいじけたケイジがベッドに潜り込んでいたそうな。


「あ、あれもたまたまだ!」


「いや意味分からんからそれ」


「ふふ、可愛らしいケージさんでしたよ」


テリシアが言う。昨日はまさに立場逆転、ケイジはテリシアに頼りっきりだった。


「ほんとに恥ずかしい……捕獲じゃなくて退治なら焼き払って終わりに出来るのに……」


「おいおい……」


とんでもない脳筋発言に呆れるジーク。

ちなみにジークとメルの2人は昨日何をしていたかと言うと、フィルカニウム近くの村で害獣の退治をやっていたそうだ。そう、以前ケイジが助けた村だ。魔獣ではなくただの害獣だから難易度も低い。


「虫取りなぁ……昔はよくやってたな」


ジークがポツリと呟く。


「え、ジークが子供の時?」


メルが尋ねる。


「ああ、まあ子供だったな。姉さんが死んだ後だ」


「……一応聞くが、目的は?」


ケイジが察したような微妙な顔で尋ねる。


「もちろん食料としてだ。ハチにゴキブリにアリ。捕まえたヤツはなんでも食ってたな」


「アリ!?」


ケイジ含めその場にいた全員がドン引きする。が、ジークは構わず続けた。


「懐かしいなぁ。色々食ったが、1番のハズレはゴキブリだったな」


「……不味いのか?」


「まあ上手い虫なんていなかったからアレなんだが、中でもゴキブリは特に不味くてな。パッサパサだしやたら生命力高いし」


「踊り食いかよ!?」


さらにドン引きする一同。さすがにゴキブリの踊り食いは狂気である。


「……その話はまた今度にしようぜ」


冷や汗をダラダラ流したガルシュが言った。こいつがここまで苦い顔をするとは……。


「んー。あ、そういえばエラムとエルは今日は来てないのか?」


「ん」


ケイジがクイッと大テーブルの方を指差す。するとそこでは、オークの男達に囲まれたエラムが上機嫌で酒を飲んでいた。


「……女王様みたい」


「だな。っていうかあいつアルコールいけるのか」


「結構強いみたいだぞ。飲み過ぎるなとは言ってるが」


「お、もうこんな時間か。じゃあオレはそろそろ行くぜ」


ふと時計を見て、ガルシュが言った。


「今日も仕事か?」


ケイジが聞く。


「ああ、今日は新入り共の依頼の手伝い兼様子見だ」


「ガルシュも大概な世話焼きだな」


「それは褒めてんのか?」


「もちろん。な、ジーク」


「ああ。ここの連中が良い奴らばかりなのも、ひとえにお前のおかげだろうな」


「そ、そんなに褒めんなよ! じゃあまたな!」


ニヤニヤしながらガルシュはその場を後にした。


「あいつも大概チョロイな」


笑いながら言うのはケイジ。それにジークも続く。


「まあ良い奴である事には違いないな」


すると、カウンターの中で働くテリシアを含め4人になったところにエラムが戻って来た。


「ただいまケージ。ジーク、メル、おはよう」


そのままケージの隣に行き、椅子を動かして寄り添うように座る。


「おはよう」


「おはようエラムちゃん。朝から凄い飲んでたね」


「ここも良いところ。飲み物も食べ物も美味しい!」


フリフリと尻尾が揺れている。気分が良いと揺れるようで、まるで犬である。


「そしてやっぱりケージにぞっこんなんだな」


「ぞっこん?ってなんだ?」


「大好きってことだ」


「うん、ケージも大好き! テリシアも好き!」


「ふふ、ありがとエラムちゃん」


カウンター内のテリシアが嬉しそうに応える。一方でケイジは不満げな顔をしている。


「ケージさんどうしたの? 嬉しくないの?」


「いや、そうじゃなくてな……毎度のことなんだが、あいつらの視線が痛い……」


ジークとメルが振り向くと、先ほどエラムと一緒に飲んでいたオークの男達がケイジに対してガンを飛ばしているのが見えた。


「……まあそういう事もある」


「そういうことしかねぇんだよ最近は」


「どういうこと?」


「ん」


再び何かを指差すケイジ。その先には、モッテモテのサーチェが沢山の男達に囲まれていた。カウンターだし、隣にミルさんもいるから危険はないだろうが。


「え、サーちんがどうかしたの?」


「いや、サーチェさんがな、ってなんだその呼び方」


「友達感覚でいいよって言ってくれたから」


「そうか。サーチェさん相変わらずモテモテだろ? よく告白されるんだと」


「そうだね」


「その度にあの……あれだ……俺のことを言っちゃってるみたいで……」


「ふんふん」


「全然知らない奴にめっちゃケンカ売られるんだよ……」


肘をつき、どんよりとした口調で言うケイジ。

それもそのはずだ。以前も記したが、サーチェのギルド内での人気はかなりのものである。持ち前の明るさと時々見せるクールな1面が堪らないらしい。何よりまだ男がいないこと。テリシア含めギルド内の受付嬢たちは競争率が高く彼氏or旦那持ちが多いのだが、サーチェはまだいないという話が広まっており、大人気なんだそうだ。


「ジーク、今日のお昼どうする?」


「そうだな、カレーとかどうだ?」


「聞いといて話変えんなよ!」


「だってそれ自慢と惚気じゃん」


「……すみません昼食の予定をお決めください」


呆れ、反論する気も失ったケイジ。

どちらも面倒な事には変わりないが、それでも嬉しくも思ってしまうのは仕方のないことかもしれないな。

だってよ、今まで人から好かれることなんて無かったんだぜ?こっちの世界に来てから今までの分が全部精算されていってるみたいでさ。すっげぇ楽しい。


ああ、明日はどんな楽しいことがあるだろうか。

そんな風に、日常は過ぎてゆく。

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