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隠密スキルカンストさせた俺、異世界生活始めました  作者: 颯来 千亜紀
第8章・ムシキ〇グに俺はなる!
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第62話・支え方


虫ってさ。何考えてるんだろうな。ハラヘッタとヤリテェくらいしか頭に無いんじゃないかな。お願いだから人間に喧嘩売るのやめて欲しいんだよね。


「……」


「ケージさん大丈夫ですか?」


「大丈夫かと聞かれれば大丈夫じゃない」


相変わらずへっぴり腰のケイジ、それを支えるテリシア、構わず進むガルシュ。

とてもキャラ崩壊の激しい絵になっている。


1箇所目のポイントから歩くこと約10分。3人は2箇所目のポイントに辿り着いた。


「んー、ここもハズレか……?」


このポイントは、何本かの細い木が複雑に絡み合って1本の気になっているかのように見える場所だった。

隙間や影を見逃さないように、ガルシュが慎重に探している。

ケイジはと言うと。


「神様早くなんちゃら虫を出してください」


神に祈っていた。


「ケージさん、私達も探しましょう?」


そう言ってテリシアはケイジに懐中電灯を渡し、ガルシュに続いて木の周りを調べ始めた。


「仏様早く帰らせてください」


ケイジは仏にも祈っていた。

すると、木の周囲を調べ終えたガルシュが言った。


「うーん、ここにもいねぇな。次のポイントに……ってケージ、お前胸のそれ……」


次のポイントという言葉を聞いた途端、分かりやすく絶望するケイジの胸元。そこに止まっている黒い影。


「え……?」


そ~っと胸元を見るケイジ。


「お前、それエメラルドコガネじゃんか!」


「ヌギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


ガルシュが言うが早いか、ケイジは胸元にくっついたエメラルドコガネを認識した瞬間にコートを脱ぎ捨て、その場から飛び退いた。

そして魔力を一瞬で充填させ、瞬転移を使ってその場から消えてしまった。


「…………」


「…………」


「……捕まえた。依頼達成だな」


取り残されたガルシュとテリシア。ガルシュは冷静にコートごとぶん投げられて若干弱ったエメラルドコガネを虫籠に入れた。


「まさかケージさん、ここまで虫が苦手だとは……」


ケイジのコートを拾い、土や枯れ葉を払いながらテリシアが言う。

するとガルシュが苦笑いを浮かべながら言った。


「まあなんつーか、あいつも人間らしいところがあって安心したなオレは」


「どういう事ですか?」


「オレやギルドの連中から見ると、ケージとジークの2人はなかなか取っ付き難い印象があってな。まあオレは慣れてるが、強いからこそ話しかけにくいっていうか」


「あ~……」


「ほんとは初心者連中のクエストを手伝ったりもして欲しいし、あいつらなら引き受けてくれるんだろうけどよ。パーティ連中の方がビビっちまいそうでな」


「なるほど……」


ガルシュが言いたい事。

要約すれば、能力のある物は敬われも畏れられもするという事だ。1度打ち解ければそれ以上ないほど頼りになるが、打ち解けるまでが難しい。能力がある=高圧的だったり自己中心的だったりする、と思い込んでしまう事でもある。

すると、歩きながら腕を組みうんうんと言っていたテリシアが、


「でも、私だから言えますけどケージさんって言うほどしっかりしてないですよ?」


「え? そうなのか?」


「はい。朝は私より起きるの絶対遅いですし、すぐ浮気しますし。それに、結構寂しがり屋さんなんです」


「へぇ……」


「1人だけで生きていける人なんて絶対にいません。でも、ケージさんはこの世界に来るまではずっと1人ぼっちだったそうなんです」


「そうなのか……」


「私もケージさんが大好きですからケージの為になることなら何だってやります。でも、きっとそれだけじゃ足りないから。私だけじゃ力不足だから、ジークさんやガルシュさんにも、ケージさんを支えてあげて欲しいんです」


「……ははは」


テリシアが少し寂しそうな顔で言うと、ガルシュは不敵な笑みを浮かべた。


「な、何で笑うんですか?」


「いや、相変わらずテリシアも謙虚だなと思ってな。ケージの為にそこまで言えるテリシアが、あいつを支えることに関して力不足な訳ないだろ?」


「え、そ、そうですか? でも、私だけじゃケージさんは……」


「うーん、何て言えばいいんだろうな。とりあえずテリシアが力不足だってのは違う。結局、どんだけオレら外野が頑張っても、テリシアが居なきゃケージは崩れちまうだろうよ」


「…………」


「要するに面が違うんだ。オレ達は友達付き合い的な支え方。テリシアはもっと内面の、嫁さんとしての支え方って事だ。ケージにとってはどっちも必要だが、より大切なのはテリシアの方だ」


「でも、私はケージさんに助けてもらってばかりで……」


「……もしそうだとしたらケージの野郎はオレ達の前であんなに惚気たりしないだろうよ」


ガルシュは少し呆れた風に言った。


「テリシアに自覚が無くても、間違いなくお前はケージの1番の支えだ。オレ達も出来る事があれば手助けはするけどな」


「ガルシュさん……。ありがとう、ございます!」


「おう! オレみたいな下層種族でも役に立てるんなら何だって言ってくれよ!」


そうして、2人は来た道を戻っていった。

テリシアは思った。自分もケイジも、本当に周囲の人々に恵まれていると。


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