第60話・この依頼主開き直りすぎだろ
あのさ。1つツッコミを入れてもいいか?
俺、戦いすぎじゃね?
え?これのタイトルって「隠密スキルカンストさせた俺、異世界生活始めました」で合ってるよな?
なんか番外編以外じゃ戦ってばっかりな気がするんだが。異世界生活じゃなくて異世界戦闘になってないかこれ。
何が言いたいのかって?
まあ端的に言うとだな。
ほのぼのクエストをさせろ!
って事だ。いや、何もクエストじゃなくてもいいから本編でほのぼの系イベントをやらせてくれ頼むから。
ほらあれだぞ?ちゃんとタイトルに沿った内容にしないと大賞にも選ばれないしアンチコメも増えるぞ?颯来さんいいのか?
え?もうイベントは用意済み?
……ならいいけどよ。何でそんな含みのある笑みを浮かべてるんだよお前ら。嫌な予感しかしないんだが。
まあ、とりあえず用意してあるってんなら行ってみるか。変なイベントだったらぶっ飛ばすからな。
間。
時刻は午前8時。場所はギルドにて。
エラムとサーチェがユリーディアの街に来てから1週間ほどが経った。
2人ともすっかり街に馴染んだようで、サーチェはギルド内で人気の受付嬢に、エラムは子供からハンターまで沢山の友達が出来たそうだ。
「くああ、平和だなぁ」
オークの男達と腕相撲をするエラムをカウンターで欠伸をしながら見守るケイジ。
なんだ、あの樽は腕相撲するために置いてあるのか。モン〇ンのオンライン集会〇じゃあるまいし。
「エラムちゃんもサーチェさんも、沢山お友達が出来たみたいで良かったですね」
今日はあまり仕事が無いそうで、テリシアはカウンターの中ではなくケイジの隣に座っている。ジーク達はまだ来ていないため、珍しく2人水入らずの状態だ。
「だな。サーチェさんなんてプロポーズしてくる男が後を絶たないって嘆いてたよ」
「えっ、凄いじゃないですか」
「まああの人がモテるのは分かる」
「え?」
「スミマセン何でもありません」
その「え?」の声質が明らかにおかしかったのを聞き逃さなかったケイジはすぐさま謝罪の意を示した。
すぐ謝る、これが良夫婦でいる秘訣だ。まだ結婚してないけど。
「ケージさん、今日はどうしますか?」
「あー、特に用事は無いな。でも最近休みすぎな気もするんだよなぁ……」
相変わらず資産に関しては裕福である。毎食、エルとエラムの2人を腹一杯にするほど食わせているが家計には大きな余裕がある。
生活費が足りていれば無理して働く必要が無いのがハンターのいい所なのだが、半ば仕事中毒気味のケイジはフリーターのような生活には違和感があるのだった。
ちなみに、便宜上はギルドに所属している時点で職業は『ハンター』という括りに入れられる。だが、この世界では『ハンター』=『狩人』という訳ではない。ハンター全員が狩りや用心棒的な依頼を受けている訳ではないし、極端な例を挙げれば所属はしていても依頼を全く受けず、自営業だけで生活している者もいる。もちろん掛け持ちも可能で、仲間と焼肉屋を営んでいるガルシュがいい例だろう。
「うーん、無理して働く必要もないと思うんですが……」
「なんかこう、上手く言えないんだけど手持ち無沙汰が続くと微妙にソワソワするっていうか、落ち着かないっていうか」
あれだ。社会人とか部活が忙しい高校生とかで、待ち侘びた休みが来たはいいけど普段休みが無さすぎて何をすればいいか分からなくなるアレだ。
「だったらまた手伝ってくれねぇか、ケージ」
振り向いた2人の先にいた声の主は、虫籠と虫取り網を持ったガルシュだった。
「……一応聞くが、何をだ?」
「虫取りだ!」
「ですよね!」
「む、虫取り?」
テリシアが微妙な顔で尋ねる。すると、ガルシュは懐から依頼書を取り出した。
「これだ! ちょっと人手が足りなくてな。危ないヤツじゃないから、良かったらテリシアも手伝ってくれないか?」
依頼書の内容。
「晩期直前に現れるという珍虫、エメラルドコガネ。名前の通り、背中に大きなエメラルド鉱石を精製する魔虫だ。だが魔力はかなり弱く、気性も臆病だから怪我する危険もないぜ! 嫁に渡して機嫌直してもらわないと離婚の危機なんだ! 頼むぜ!
byサーチェ嬢のファン第1号」
「…………」
「……こいつ、さっさと離婚した方が身のためじゃないか?」
「私もそう思います」
「テリシアまで!? ま、まあまあ、それはオレらには関係ない話だからさ! 手伝ってくれねぇか?」
「うーん……テリシア、どうする?」
「まあ、いいんじゃないですか? ケージさんちょうどお仕事欲しかったところですし、私も行きますから」
「決まりだな! じゃあ今夜8時に南西の森で!」
「はいよ。また今夜」
そう言ってガルシュはギルドを出ていった。
何故あいつは夜スタートの仕事道具を今持ってきていたのか。
「虫取りなんてやったことないぞ……」
「そうなんですか?」
「ああ。基本は眺めてる方が好きだったからな」
「大丈夫ですよ! 走って網を振るだけですから!」
テリシアは満面の笑みで素振りを始める。
「……ひょっとして、楽しみなのか?」
「あ、分かります? 子供の頃大好きだったんですよ虫取り! もう、血が騒ぎますね!」
アンタは虫取りの血族か。
「じゃ、昼間は準備だな。色々買いに行くか」
「はい!」
そうして、2人は虫取り道具を揃えに街へ繰り出していった。




