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第54話・本当の気持ち


「……」


「……」


話を終え、酒場に戻ったケイジとサーチェだったのだが、目の前の光景に声を発することが出来なかった。


「ぷはぁ~! 美味かったなぁ!」


「もう……勘弁してくれぇ……」


そこには、テーブルと顔面を思いきり汚したエラムと、ぐったりとうつ伏せに倒れ込む猫耳の男がいた。


「……父さん? 何やってんのさ?」


サーチェが倒れ込む男をツンツンとつつく。


「参ったぜ……この歳になって俺を負かす奴がいるたぁな……」


「父さん……」


「エラムお前、もう少し綺麗に食えないのか?」


「十分綺麗だろうが! ほれ、食える部分は残さず食ったんだぞ!」


満足気な顔で話す親父さんと、綺麗に食い尽くされた骨を誇らしげに掲げるエラム。

そういう問題じゃなくてな……。


「あ~、まあそれは良いことだけどよ。とりあえず顔拭いてやるからじっとしてろ」


「んむぁ。あいがとえーじ」


隣のテーブルにあった布巾でゴシゴシとエラムの顔を拭くケイジ。

色々と教えないとな……。行く先々でこんなことやられちゃたまらん。


「おうサーチェ、そのドラゴンの嬢ちゃんも満足したみたいだしケージくんたちに宿でもとってやったらどうだ?」


「え、宿って、ケージさんたちはもう帰るんじゃ……?」


「バカヤローお前、いつまでも独身でいるつもりか。早くかーちゃんたちを安心させてやれ。ケージくんなら俺も納得するから!」


うつ伏せに倒れたまま、サーチェの首根っこを掴み話す親父さん。分かりやすくサーチェの顔が真っ赤に染まっていく。


「これでよし、と。ん? 何話してるんです?」


「おうケージくん、こいつバカだけど悪いヤツじゃうごぁ!」


満面の笑みで喋る親父さんの頭をゴッと床に叩きつけるサーチェ。

うわっ痛そ!


「ななななんでもないから! ほんとに何でもないから!」


「そ、そうですか?」


「サーチェ、いいのかそれで……無念……」


無念て、ベタだなぁまた……。


「あー、お腹空いたー!」


「おう、ここの料理メチャクチャ美味いから期待してていいぞ!」


「ふぅ……あ、ケージ、お前もここにいたのか」


ちょうど親父さんが力尽きたタイミングで、ジーク達が酒場に戻って来た。


「ん、お疲れ諸君。俺も腹減ったし、飯にするか」


「はいよ! 腕によりをかけて作らなきゃね! ちょっと父さん、食材はまだあるよね?」


「あ……る……」


「はーい。そこ邪魔だから休むんなら座敷か奥にして!」


親父さんのネタをガンスルーして料理を始めるサーチェ。

さ、さすが親子。


「じゃあそこのテーブルに、って……エラム?」


立ち上がろうとしたケイジは、体の右側に何かが寄りかかっているのを感じ、それを見た。


「スー……スー……」


寝てるし……。

食って腹一杯になったら寝るて、子供かよ……。いや、実際この姿じゃドラゴンの中でも子供の方、なのか?それでも俺らよりは全然年上なんだからおかしなもんだな……。


「仕方ないな。よっ、と」


気持ち良さそうに眠るエラムを持ち上げ、親父さんの休む座敷の隣に寝かせる。


「ったく、満足気に寝やがって。それはそうと、この時間に食ったら昼飯でも夕飯でもない微妙なアレになるが、いいのか?」


「お腹空いて死んじゃいそうだからいい!」


と、メル。


「同じく!」


と、ガルシュ。


「いいんじゃないかな」


と、ジーク。

そのネタは分かる人少ないからやめておけ。


「それよりもケージ。あの子が本当にあのドラゴンなのか?」


「ああ。間違いない」


「不思議なもんだな。多少なりタチの悪いヤツはいるにしても、俺らのいた世界とは大違いだ」


「まあそうかもしれないけどな。あんまりそういう話をするのはやめとけ」


「……心得た」


「ジーク、それかっこいい! 心得た!」


「オレも使わせてもらおうかな! 心得た!」


割と深刻な話をしてるにも関わらず、笑顔で話す2人につられてジークがクスッと笑う。


「昔のことはいいんだよ。今は、今のことを考えて笑ってりゃいい」


「そうだな。その通りだ」


すると、サーチェが山盛りの料理を器用に運んできた。


「はい、お待ちどうさま! お代は気にしなくていいからたらふくお食べ!」


「うわぁ、美味しそう! 頂きます!」


「頂きます!」


「頂きます」


「頂きます」


大きな肉厚のステーキに熱々のスープ、シャッキシャキのサラダに焼きたての魚。やはり美味い。


「美味っしい~!」


「これは美味いな」


「だろ! あーあ、お前ら朝も来れば良かったのにな~」


「相変わらず良い腕ですね、サーチェさん」


「そ、そんなことないよ……あ、それよりもさ。ケージさんたち、この後はどうする?」


「あ~、ガルシュ、どうする?」


「うーむ、今出発したらちょうど夜に山越えになっちまうしな……。宝石の整理もあるし、今日はこの村で休んで、明日出発にするか」


ん、山越えなんてあったか?


俺が寝てただけ?

あ、そう。


「オッケー。ってことになりました」


「そ、そっか」


嬉しそうな恥ずかしそうな表情を浮かべ、顔を赤らめるサーチェ。


「どうかしましたか?」


「いや、何でもない! 何でもないよ!」


大げさに両手を振って誤魔化すサーチェ。


「ケージさんってほんとさぁ……」


「タラシだよなぁ」


「だな」


「何でだよ!」


「無自覚な所が余計ムカつくな」


「ね~」


うっざ!


「うっせえ! タラシじゃねぇしお前らこそ朝からサカりすぎなんだよ!」


「な、何それ! 私はただジークが大好きなだけだし!」


「はい惚気乙~。うえ~甘いわ~」


「何をぉ!」


「痛ってえ皿を投げるな皿を!」


涙目で皿やら何やらを投げるメルと、それを余裕で避けるケイジ。そして慣れた顔でそれを見守るジークとガルシュ。


「あはは、みんな仲良しなんだね」


「少しうるさいくらいなんですけどね」


と、ガルシュ。

お前がそれを言うか。


「まあ、これもケージのお陰だよな」


と、ジーク。


「そうなのかい?」


「ああ。俺がギルドに馴染めたのも」


「オレ達が無事に今生きてるのも」


「みんなあいつのおかげなんだ」


本人たちは滅多なことがない限り口に出さないが、ケイジへの信頼は絶大なのだ。

ジークにとっては元居た世界でも何度も助けられているし、メルと共にギルドに馴染むキッカケになったくれた。

ガルシュにとっては命を救われた恩人で、信頼出来る仲間で、数少ない親友と呼べる存在になっている。

そんな2人を見て、サーチェは穏やかな笑みを浮かべた。


「……素敵な人なんだね」


「ああ。でも、あいつにはもうむぐっ」


テリシアの事を告げようとしたジークの口をガルシュが抑え、こっそりと言う。


「待て。とりあえずまだ黙っておいた方がいい」


「いいのか? このまま知らずにってのも可哀想じゃないか?」


「まあそうかもしれないけどよ。ちゃんと伝えるべき事は伝えるべきだ。それに、この国は一夫多妻制もアリだからもしかしたらもしかするかもしれないだろ?」


「……だな」


一夫多妻制、というワードを聞いた途端、ジークの顔がニヤッと歪んだ。怖い。


「どうしたんだい?」


「いや、何でもない」


「サーチェさん、オレ達は明日の昼には出ますから、ケージに言うなら早めに、ですよ」


「えっ!? べ、別に私はそんなんじゃ……」


「言える時に言った方がいい。大事な事には終わってから気付くもんだ。受け売りの言葉だけどな」


「……うん」


すると、そこにボロボロになったケイジと疲れ果てたメルが戻って来た。


「はあ、はあ、投げすぎだろメル……。ん、サーチェさんどうかしました?」


「ううん、何でもないよ……」


「……?」


「ケージお前喰らいすぎじゃないか?」


「手を抜いてやっただけだ」


「はーん、負けたからって言い訳は見苦しいなぁ」


「負けてねーし! ってか勝ち負けなんてないだろ!」


「……ふふっ」


早くも第2Rが始まりそうなケイジとメルに、ジークとガルシュは苦笑いを、サーチェは含みのある笑みを浮かべているのであった。



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