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第49話・指輪の宝石は高けりゃいいってもんじゃない


時刻は午前9時。

ギルドの賑わいは相変わらずだが、漁師や農家、商人がいた机や依頼カウンター周りは今はギルドのハンターたちで埋め尽くされていた。

そんな中、わっせわっせと働くテリシアとミルを横目に色々な話をしていたケイジたちの元へあいつがやって来た。


「おっす、3人とも! 今日暇か?」


ニカッと屈託のない笑顔を浮かべてそう言うのは、背中に大きなハンマーを背負ったガルシュだった。


「よっす。別に俺は暇だが」


とケイジ。


「俺たちも、特に用事はないな」


「だね」


とジークとメル。

それを聞いて、ガルシュはそう来なくてはと言うように懐からある紙、1枚の依頼書を取り出した。


「じゃあ、この依頼片付けるの手伝ってくれ! もちろん報酬はキッチリ分ける!」


「珍しいな、わざわざ俺らに頼むなんて」


「いやあ、いつもなら新人とか狩慣れしてない仲間を連れて行って色々教えながらやってたんだが、それはさすがに本気で行かないと余裕がなくてな」


受け取った依頼書を3人でまじまじと眺める。


『様々な宝石を背中に精製する、ジェムドラゴン。その中でも特に長寿の個体の背中には、文字通り七色に輝く「七聖石しちせいせき」というレア度7の宝石が精製されることがある。そして、つい先日ノーム湿原の奥地で大型のジェムドラゴンが発見されたらしい。何とかしてそのドラゴンから七聖石を回収して来てくれ。

by宝石好きのイケメン王子』


「……」


う、うさんくせぇ……。

宝石好きのイケメン王子って誰だよ……。


「レア度7、で最高難度のノーム湿原、おまけにドラゴンって……これ、私たち4人でもキツくない……?」


引きつった顔をしたメルが言う。

が、ガルシュは食い下がり、怪訝な顔をするケイジとジークを説得しにかかる。


「だ、大丈夫だ! お前ら2人がいればこのくらい大したことはないだろうし!」


横ではガルシュが必死に大丈夫だ、俺たちなら何とかなる、とか言っていたが、ケイジとジークの頭は別のことで一杯だった。

いや、正確に言えば別のことではないのだが。


「……ジーク」


「ああ。これは受けるしかないな」


真面目な顔でそう言う2人に、メルは驚きを隠せなかった。


「ええ!? ちょ、ジーク!? いくら何でもノーム湿地は難易度高いって!」


「いや、それでも挑戦する価値はある」


え?

さっきジークと何話してたかって?

そのドラゴンが背中に精製するっつー宝石の話だ。その中のどれか、七聖石じゃないけどいい感じのやつを選んで、結婚指輪にしようってアイデアだ。

悪くないだろ?


ああ、もちろんジークのとは別の宝石を使うつもりだ。出来ればテリシアには内緒にしたいな……。


「オッケ、それじゃあ受注してくるぜ!」


真面目な顔で乗り気な2人を見て、ガルシュが喜びながら依頼カウンターへと向かっていった。そんな3人を見て、メルが不安げに言う。


「ほ、ほんとに大丈夫かなぁ……」


「大丈夫だって。この4人なら絶対、何とかなる」


「なあメル、そのノーム湿原ってどこにあるんだ?」


ふと疑問に思ったことをメルに尋ねるケイジ。


「えーと、フィルカニウムとその奥の街の、べレナスって街とのちょうど間くらいの場所。ここからだと馬車で1日くらいかな?」


だよなぁ……。

あのアホ、今日暇かって聞いたよな……。まあ依頼内容的に日帰りで済むとは思わなかったけどよ。


「とりあえず、テリシアに事情説明しに行くか……」


ガルシュが戻ってくるまでの間に、ケイジはテリシアの元へと歩いていった。




間。




1時間後。


「……って訳でな。しばらく帰れなくなるんだ」


昼近くになって忙しくなってきた合間を縫って、テリシアに事情を説明する。


「あー、そうですか……。寂しいですね……。」


「ゴメンな……出来るだけ早く帰ってくるから」


分かりやすくしょぼくれるテリシアの頭をぐりぐりと撫で回す。


「えへへ……約束ですよ?」


「ああ、約束だ。それじゃ行ってくる」


思ったより駄々こねられなくて良かった……。ま、それだけ信用してくれてるってことなのかな。嬉しい限りだ。


身を乗り出して手を振るテリシアに軽く拳を上げて応え、ギルドの入口に向かう。

そこには、既に準備を終えた3人が立っていた。


「おう、悪いなケージ。準備出来たか?」


「ああ。お前らは行けるのか?」


「もちろんだ」


「準備オッケー!」


「じゃ、行くか」


気合十分に、4人はガルシュが手配しておいた馬車に乗り込んだ。


そうして、様々な目的が入り乱れる、七聖石争奪戦が始まるのだった。


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