第39話・やるべき事
「隠密スキルカンストさせた俺、異世界生活始めました」
第39話です!
まさかのケージくん主人公疑惑!?
よろしくお願いします!
「それじゃあ行くか」
「いや、ちょっと待ってくれ。行きたいところがある」
男に依頼を持ちかけられ、渋々引き受けることになってから数十分後。準備を終え、ギルドを出ようとしたジークにケイジが言った。
「行きたいところ?」
「ああ。行きたいって言うより、あいつと話をしたい」
「あいつ……? ああ、あいつか」
少し考え込み、そして察したジークがケイジの後に続く。2人の足はギルドの地下牢に向けられていた。
約2階層分の階段を降り、牢屋の前まで行く。
「あ、ケージさんとジークさん。どうしました?」
「すまないが3人で話したい。外してくれるか?」
「わ、わかりました」
犬耳の青年は緊張した様子で階段を上っていった。
ケイジ達の前で、牢屋の中で座り込み、じっと書を読み込んでいるのは、防衛戦で1度ケイジの命を奪ったローブの男だった。
ケイジ達が来たことに気付いても視線を向けることすらなく、黙々と読書を続けている。
「おい。ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「…………」
男は答えない。
「お前があの時に言ってた、姫さまの願いとか手遅れだとか、あれはどういう意味だ?」
「……それを今聞いて何になる」
「さあ、知らん。念の為だ」
ふっ、と男が失笑した。
「答える義理はない。さっさと消えろ」
「はぁ。じゃあこう言えばいいか? 俺たちは今から、王都にいる王様と姫さんを助けに行く。お前があの時言った言葉が無関係だとは思えないから、意味を教えろ」
「何だと……!?」
王と姫を助けに行く、とケイジが口にした途端、男は血相を変えて話に食いついた。
「何故貴様らが……?」
「さっきヒューマンのおっさんがギルドに来たんだよ。で、助けて欲しいだなんだって言って聞かないから仕方なく」
「……だからと言って、それだけで引き受けるメリットが貴様らにあるのか?」
「あるんだよ。メリットじゃないが、お前に殺されたせいで断れない事情がな」
男は不思議そうな顔をしていた。疑ってこそいるものの、もうあの時のような敵意は抱いていないようだった。
「……分かった、全て話す。それを聞いてどうするかは、貴様らの自由だ」
男はケイジとジークの方へ向き直って続けた。
「ルルカ姫、俺達の国の姫様は、予知や召喚といった普通では会得出来ない特殊な魔法を使うことができる。普段から定期的に予知の能力は使っていたが、ある時こんな結果が現れた」
「まさか……」
ジークが何かを察したかのように動揺する。
「それが『この国に厄災が現れし時、異界より召されし悪魔2人がそれを打ち破るだろう』というものだ」
「…………」
ケイジは何も言わない。というか言えない。
やばい、ぶっちゃけ話が全然理解出来ない。つーかジーク何でそんなに理解力高いんだよ。
「それを予知した姫様は、すぐに召喚の儀に取り掛かった。だが、召喚の儀は失敗した。いや、させられた、と言った方がいいか」
「失敗させられた?」
ジークが問う。
「レオルの連中にだ。厄災というのも奴らのことだろうが、儀式は途中で失敗し、お前達を王都に呼び出すことは出来なかった。今はもう城の周囲は完全に制圧されている」
「レオル……」
そういえばあのおっさんもレオル王国がどうのこうのって言ってたな……。うーむ、まだこの国以外のことは全然分かってないから何とも言えないが、そいつらも面倒な連中みたいだな。
「じゃあ、この間の戦闘も仕組まれてたのか?」
「ああ。もう王都には奴らに差し出す金も物資もない。だから、他の街を制圧してなんとか時間を稼ごうとした。隠密で貴様らに事情を伝えて、ああなる前に手を打とうとした連中もいたが、軍の奴らは無理矢理作戦を決行した」
「なるほどな……」
あのおっさんが言ってたのはそういうことか……。ああ、モヤモヤする。確かにそれはどうしようもない事情かも知れないが、それで納得したら傷付けられた仲間達は何だったんだって話になる。
「じゃ、王様と姫さんを助けて城の周りにいるレオル王国とかいう国の奴らを全員倒せばいいんだな?」
回りくどいのは面倒だからそれでいいだろもう。
「極論ではあるが、そうだ。だが出来るのか?」
「余裕。こちとら1回死んでるんだぞ。無茶な作戦がなんぼのもんじゃい」
「参考になった。後は俺達に任せておけ」
そう言って、牢屋を後にした。
階段を上り、ギルドの1階に向かう。すると、そこにはレニカとガルシュが立っていた。
「……どうかしましたか?」
ジークが言う。
「何処に行くつもりなんだ?」
レニカが言う。
「トラブルの元凶を叩き潰しに。ついでに姫さんの救出に」
ケイジがおどけた様子で言う。
「……」
そして、レニカが苦しそうな表情をして言った。
「何故だ? 確かに奴らは切羽詰まってるかもしれないが、お前達が行く必要はないだろう?」
仲間を傷付けられた怒りと、それと同じくらいの現状を受け入れなければならないという理性がぶつかり合って苦しんでいるようだった。
「……レニカさん、大丈夫ですよ。俺達を信じてください。それにこれは、俺達がやるべき事です」
ケイジが穏やかな顔でそう言うと、レニカは絞り出すように言った。
「……分かった。だが、これだけは約束してくれ。絶対に無事に帰ってきてくれ」
「もちろんですよ。あ、テリシア達には適当に誤魔化しておいてください」
「ジーク、頼まれてた物だ」
ガルシュがいつも通りの顔で、ジャラジャラと音を立てる布袋をジークに手渡した。小銭でも入っているのだろうか。
「ああ、助かる」
「死ぬなよ」
「任せておけ」
短く言葉を交わし、2人はギルドを出た。
王都に向かって歩く。
「やれやれ、悪魔2人とはまた随分な物言いだなおい」
「まあ、やってた事がやってた事だからな。死神も悪魔も似たようなものじゃないか?」
向こうでは、俺達は総称して『死神たち』と呼ばれていた。まあ間違ってはいないだろうが、別に俺達は死んでるわけじゃないんだが、とよく思っていた。
「それもそうか。そういえばさっき、ガルシュに何貰ってたんだ?」
「ああ、これか?」
ジークが懐から布袋を取り出した。
「ほら、これだよ」
そう言って、ジークは鉄の塊を袋から取り出してケイジに手渡した。
「これは、弾か?」
「ああ。見ての通り、形だけ再現してもらった」
手渡された鉄の塊は、細長く、ライフル弾のような形に整えられていた。薬莢の部分は無く、全体が1面に滑らかに整えられている。
だが、もちろんこの火薬も薬莢も無い状態ではジークのライフルでは撃つことは出来ない。
「形だけって、これじゃ撃てないだろ?」
「ああ。そこで、魔法の出番って訳だ」
「魔法? 魔法でどうするってんだよ」
確かにこの世界の魔法は、イメージ次第でかなり自由が効く。だが、いくら自由だとはいっても鉄の塊に火薬を精製したりは出来ないだろう。
「この銃に手を加えたんだ。内部のメカボックスを取り払って、代わりに風魔法の媒体を組み込んだ。それで、簡単に言えば空気銃と似た原理で弾に火薬や薬莢が含まれてなくても撃てるんだ」
「ほお、なるほどな……。考えたな」
確かにそれならば口径さえ合っていれば特別な技術が無くても弾はいくらでも作れるし、内部メカがイカれることもない。
「音も格段に小さくなったし、便利なんだ」
「それで、弾をガルシュに頼んでおいたと」
「ああ。知り合いに腕の良い製鉄屋がいるって言って、掛け合ってくれたんだ」
……相変わらずの顔の広さだなおい。
「それなら、お前の仕事も問題無いな」
「ああ。援護なら任せろ」
「いや援護だけじゃなくてよ」
「援護なら任せろ」
「こいつ……」
軽口を叩きつつ、まずは検問所に向かって歩いていく2人なのであった。




