収穫祭デート? その2
「隠密スキルカンストさせた俺、異世界生活始めました」
番外編その2です!
浴衣デート、いい……!
よろしくお願いします!
見慣れた街の景色は賑やかな人々と沢山の店で溢れ、また違った色を見せている。
まさに祭り、という感じだ。
「おお、凄い人だな」
「そうですね。ユリーディア以外の街の人たちも来ますから」
「収穫祭、か。そういえば、向こうにいた時は祭りなんて行かなかったなぁ」
こっちでの暮らしと比べれば薄味の生活だったが、忘れ去ってしまうほどでもなかった。
忘れてはいけないと、何処かで思っていたのかもしれない。
「そうなんですか?」
「ああ。人混みがあんまり好きじゃなかったからな」
「え、じゃあ、無理して来てくれたんですか?」
少しすまなそうに言うテリシア。自分のワガママに付き合わせてしまったとでも思っているのだろう。
「いや、そうでもない。こっちの人たちは皆良い奴ばっかだからな。そんなに苦じゃないから大丈夫だ」
「そうですか、なら、良かった……」
曇った表情が和らぐ。
そして、そのまま笑顔でこう言った。
「あ、そうですケージさん」
「ん?」
「こんなに人がいて、はぐれたりしたら大変ですよね?」
「まあ、探すのは面倒かもな」
ニヤッ、と勝利の笑みを浮かべるテリシア。
可愛い。じゃなくて何企んでるんだ?
「じゃあ、はぐれないように手を繋ぎましょう!」
打算的だ!
いやまあいいんだけどさ。
って、そんな目で見るなよ。
お前らこっちには干渉出来ないんだから仕方ないだろ。
「お、おう。いいけど」
「やったぁ! えへへ、来て良かったです!」
満足気な顔で歩くテリシア。
テリシアからすれば大きめな手を握り締めようと力が入っているのが分かる。
人肌の暖かさと柔らかさが伝わって心地が良い。
そんなこんなで、2人で街を回っていた時。
「あ、ケージさん、テリシア。おはよー!」
「おはよう、2人とも。」
曲がり角の所で、同じく浴衣に身を包んだジークとメルに会った。
銀髪カップルか、見栄えのいいことで。
「おはようございます」
「よっす。何だジーク、随分お似合いな事で」
「お前には言われたくないんだけどな」
「そうよ! 手なんて繋いじゃってもう!」
「い、いいじゃないですか、手くらい繋いでも! 2人こそ、恋人同士なら手を繋ぐくらいしたらどうなんですか?」
……え?
テリシアさん今なんて?
「え?」
「あ、そういやケージには言ってなかったな」
「え、そうなの?」
「ああ。すっかり忘れてた」
「おまっ、おまっ……いつからだよ!?」
いきなり過ぎるカミングアウトに動揺を隠せないケイジ。
しかも俺だけ知らなかったとか結構ショックなんだが。
「1ヶ月くらい前かな、確か」
確信犯じゃねーか!!
忘れてたってレベルじゃねーだろそれ!!
「マジかよお前ら……」
「もう、もう少し隠して驚かせようと思ってたのに。テリシア言っちゃうんだもん」
お前か主犯は!
「ご、ごめんなさい……」
うーむ、天然に救われたのかよく分からないが、まさかこいつらが付き合っていたとは……。
プレッシャーかかるなぁ……。
まあテリシアに限ってそんな気負いしてる訳ないだろうけどさ。
「ま、まあいいや。2人もクロメに浴衣貰ったのか?」
「うん。なんか手紙と一緒に送られてきた。日頃のお礼だってさ」
「へぇ。ん? そういえばミルさんは?」
思えばミルさんの姿が無い。
今日はギルドも休みだし、用事はないはずだが。
「お姉ちゃんならまだ家で寝てるよ。だから私達が買い出し係ってこと」
「あ〜、なるほどな」
あまりギルドに居着かないレニカさんの代わりに、サブマスターとして色々忙しいのだろう。
疲れも溜まっていたはずだ。
そりゃあ、休みの日くらいゆっくり寝たいと思うよな。
……ん?
ちょ、ちょっと待てよ?
ケイジの脳内で、恐ろしい記憶が呼び起こされる。
「な、なあ。エルって、今どこにいるんだ?」
メル達のところでお泊まりの筈だったが、今は2人とは一緒に居ない。まさか家で寝てるってことはないだろうし……。
「エルか? あいつなら俺達が着替えてる時にもう帰るね〜って言って出て行ったぞ」
…………。
ってことは。
「……はあ。おいエル、いるんだろ? 出て来いよ」
その声に反応し、待ってましたと言わんばかりの勢いでポンコツ悪魔がケイジの背後に現れた。
「ほっほーい! おはようご主人!」
「だああ、くっつくな!」
「えー、いけずー。あ、みんなおはよー!」
「お、おはよう」
「おはよーエルちゃん」
「おはようございます! エルちゃんあんまりケージさんにくっつかないでぇ!」
グイグイと、背中にしがみつくブエルを引き剥がそうとするテリシア。
そしてやれやれといった目で見守るメルとジーク。
いつも通りのメンバーが、ケイジの心を何よりも安心させているのだった。




