第17話・依頼内容
「隠密スキルカンストさせた俺、異世界生活始めました」
第17話です‼︎
ここからしばらくシリアス回が続きます。たぶん。
よろしくお願いします‼︎
時刻は午前10時。
そう、例の極東の姫さんがユリーディアの街に来る時間だ。
街の人々も来訪は知っているようで、道の整備やら何やらでいつもより騒いでいるように見えた。
ギルドの前の道では俺のいた世界で言うカメラの様なものを持った人達、パパラッチの様な奴らが少しでもいいポジションを取ろうと機材を運んでいる。
気になるのかって?
まあな。万が一あの仮説が当たっちまったら、俺やテリシアに何かしてくるかも知れないし。
話を聞くだけで済めばいいが、問答無用で襲いかかってきたりしたら面倒だ。
「極東の御一行がお見えになったぞー‼︎」
東側の出口から声が響いた。
「極東のクロメ姫、ですか。どんなお人なんでしょう?」
カウンター越しに話すテリシア。
分かりやすくワクワクしてるようだ。
女の子なだけ、お姫様という単語には惹かれるのだろうか。
ああ、可愛い。
「さあ、お姫様って言うくらいだからさぞかし可愛いんじゃないか?」
まあ、見た目云々より依頼の方が気になるんだけど。
「………そうですね」
ん?テ、テリシアさん?
なんで急に不機嫌になってるのかな?
「テ、テリシア?」
俺、なんか気に障ること言った?
え?言った?
どれだよ?
………まあ教えてくれないよな。
「やれやれ、相変わらず乙女心が分かってないねえ」
そう言って笑うミルさん。
すみません全然分かんないっす。
「い、いいです‼︎ 別に気にしてなんていませんから‼︎」
………まあ、いいか。
と、その時。
ようやく極東の一行が到着した様だ。
「ふむ。邪魔するぞよ」
そう言ってギルドに入ってきたのは、例のお姫様とその護衛の様だった。
腰まで伸びた艶やかな黒髪に、文字通り狐のような耳。
日本物のような綺麗な着物と髪を束ねた簪。
姫と呼ばれるに相応しい、美しい女性だった。
どれくらい綺麗かって?
うーん、あんまりいい比較が思い浮かばないけど………日本のミスコンくらいなら余裕で優勝しそうなレベル。
ああ、信じられないくらい綺麗だぞ。
それと、やっぱり極東ってのは日本みたいなイメージでいいんだな。
周りの護衛達、白狼や天狗達、鬼達も和風の装束に身を包んでいる。
「ようこそ、ギルド フェアリー・ガーデンへ。大変失礼ながらギルドマスターは隣国へ出張中のため、代わりに依頼を拝見します、サブマスターのミルカニアと申します」
いつもとは全然違う、真面目な表情と口調で姫様に応えるミルさん。
っていうか、あの人サブマスターだったのかよ………。
マスターさんって俺未だに会ったことないけど、あんまり居着かない人なのかな。
「構わぬ。急な申し出だったのは承知しておる。済まなかったな、美しきエルフの者よ」
急な依頼だったのか。
ふーむ………。
やっぱり嫌な予感するなあ………。
「有り難きお言葉。それでは、依頼の方を拝見させていただいてもよろしいですか?」
「うむ。書を」
姫さんがそう言うと、側近であろう白狼の剣士が依頼書を取り出してきた。
「よろしく頼む。通常、どのくらいで依頼は受けて貰えるものなのじゃ?」
「平均的には1週間前後なのですが、今回は特例ですし、今日のうちにも受ける人は出てくるかと。…………え?」
ん?
喋りながら依頼書を読むミルさんの手が止まる。
何か問題でもあったのだろうか。
「あの、こ、この依頼は……」
ミルさんらしくない、動揺したような表情だ。
「見た通りじゃ。特別な依頼。だからこそ、あまり公には出来ぬし、妾が直接出向いたのじゃ」
公には出来ないって………。
まあ依頼書の内容を見たのはミルさんだけだけど、こんなにおおっぴらに訪問しておいてそれって手遅れ感が………。
って、そうじゃなくて。
実際、依頼の内容って何だったんだろうな。
「ミ、ミルさん、どういう依頼だったんですか?」
横から尋ねるテリシア。
だが、ミルさんは答えない。
明らかにいつもと違う。
そして、見かねた姫が言った。
「………妾達はしばらくこの街に厄介になる。依頼を受ける者が現れたら、宿に来るように伝えておくんなまし」
「………分かりました」
そう言い残し、姫さんとその一行はギルドを出て行った。
相変わらずミルさんは動揺を隠せていない。
「ガルシュ、人払いを」
隣にいたガルシュにそう頼んだ。
こいつに何かを頼むのは癪だが仕方ない。
「わかった。さあ、お前ら散った散った‼︎」
その言葉で、集まっていたギルドのメンバー達は各々散って行った。
まったく、なんでこいつこんなにカリスマあるんだろうな。
いやカリスマかは分からんが。
「ミルさん、依頼書、見せてもらっていいですか?」
「ケージさん……」
とても不安そうな表情を浮かべるミルさん。
ああ、分かってる。
俺はこの人に救われたんだ。
今度は俺が助ける番だ。
ミルさんから依頼書を受け取る。
「………はあ」
思わずため息が出てしまった。
何が書いてあったかって?
いやお前ら知ってたんだろ?
あ〜、また面倒な依頼だな………。
書かれていた依頼内容。
親族の救出。
そう、王都にいる、姫さんの姪だそうだ。
大方、人攫いか奴隷商あたりに狙われたんだろうな。
クソ、家宝なんかより全然面倒だ。
対象が人となると、タイムリミットがかなり厳しくなる。
早く助けないと穢されるだろうし、下手したら命まで奪われかねない。
「こんな依頼、初めてだよ。王都なんて、よっぽどのことがなけりゃ私達は入ることすら出来ないんだ。こんな依頼、誰も……」
………なんだよその目は。
分かってるよ‼︎
俺がやるしかないだろ⁉︎
まったく、よりによってこんな俺向きな仕事用意しやがって。
準備良すぎるだろ。
「すぐにでも、この街では無理だと伝えないと……」
「いや、その必要はないよ」
そう言ってテリシアを制する。
「俺がやる。行ってくる」
はあ、やれやれ。
死の淵から帰ってきたと思った矢先にこれか。
今度こそ死ぬんじゃないか俺。
この世界の人間がどこまでやるかにもよるけど、向こうより残忍なのは確かだろうし。
「ケージさん!? そんな、無茶だよ‼︎」
「………ミルさん、今だから言いますよ。俺は、病院でミルさんに言われた言葉に、本当に救われたんです。だから、今度は俺がみんなを、ミルさんを助けますよ」
って、そんなに心配そうな顔しないでくれ………。
俺は、みんなの笑ってる顔が好きなんだから。
「それに、わざわざ来たあいつらに出来ないなんて言ったら、確実にこの街の不利益に繋がります。そうでしょう?」
「それはそうかもしれないけど……」
ああ、なんかやる気出て来た。
この依頼達成すれば、またみんな笑ってくれるよな。
「人間同士、何考えてるかはなんとなく分かります。それにたぶんこの仕事は俺向きですし」
ばらしていいのかって?
いいさ。
みんななら、大丈夫だって信じてる。
ああ、我ながら丸くなったもんだ。
「そ、それってどういう………?」
同じく不安そうに尋ねるテリシア。
「まあ、それは帰って来てから話すよ。とりあえず、俺はあの姫さんのとこに行ってくる」
そう言って俺はギルドを出た。
俺がなんとかする。
そうするべきだ。
そうだろ?
強い意志のもと、極東の姫君のもとへ向かった。




