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第12話・記憶

「隠密スキルカンストさせた俺、異世界生活始めました」

第12話です!

ケージ、よく頑張った!

よろしくお願いします!


俺が、殺し屋をやってる理由か?

そんなの聞いても面白くないと思うが。


俺の親は、熱心な反政府運動家だった。

毎日毎日、やつらはウジ虫だの、民衆のことを何も考えていないだの、似たような思想を持つ連中と喚きあっていた。


まあ、俺はそんなのには全く興味がなかったからな。

親は毎日お前も俺たちを見習ってどうとか、この国を変えるためにどうとか言ってたが俺は相手にしてなかった。

そんな現実味のない事より、身近な些細な変化を気にして暮らす方が楽しかったんだ。


歩く道に桜が咲き乱れて、まるで世界がピンクに染められたのかと思えば、いつの間にか夏になって木は緑色に化粧して蝉たちの合唱コンクールが始まってる。

コンクールをひとしきり楽しめば、木は顔を紅く染め、空気は冷え始める。

今日の木はどんな顔してるかと外に出れば、世界が銀色に輝いていた。


あの頃はそんな当たり前の光景に、毎年、毎日心を震わせていた。


まあ、そんな日々が続くわけがないという事で。

ある日、街ごと政府の軍隊に反政府軍が叩き潰された。

もちろん、俺の親も殺されたさ。


でも、俺の性格か親が嫌いだったからか分からないが、怒りや憎しみの感情は湧かなかった。

それよりも、こいつらは生きていて楽しかったのだろうかと、哀れみの気持ちの方が強かったんだと思う。


そこからどうしたかって?

俺は自分の家に入ってきた連中を皆殺しにした。

そこで、初めて俺は殺し屋の才能があるって気づいたんだ。


きっと、毎日の当たり前の景色をよく見てたからなんじゃないか、って思うんだ。

毎日の生活の中、いつも見てる筈なのに、気づいたら大きく変化していて驚く事ってあるだろ?

あれはきっと、視界に入っていても意識に入っていないから細かな変化には気付かれにくいって事なんだよ。


俺は、普通に振舞ってきた。

自分が、景色の一部であるように、世界に干渉しないモノであるように。

だから、隠密も得意だったんだろうな。


殺し屋を始めた後の日常生活も特に変化は無かった。

仕事が終わればふらっと色々な場所を歩いて、自然の細やかな表情に見惚れ、人々の歴史を静観した。


関わらないこと。

それが殺し屋でいる為の条件。


知り合いの中には別の顔を持って暮らしてるような奴もいるが、俺は1人でいた。

その方が楽だった。








クソ………。


なんで今、そんな事を思い出してる………?


この世界に来て、ようやく人と関わりを持ち始めたってのに………。

なんだか昔に戻ったような気がして無性にザワつく。


避難場所から外に出ると、周りには魔獣がうようよしていた。


魔獣どもは淀んだ眼をこっちに向け、今にも襲いかかって来そうだ。


………殺してやる。


1匹残らずぶち殺してやる………‼︎


今まで感じたことの無いような、悍ましい殺意が湧き上がってくる。


「来いよゴミ共が‼︎ 」


一斉に魔獣どもが飛びかかってくる。



斬る。

斬る。

翻って斬る。



斬って避けて、走って斬る。



身体のあちこちに傷が付く。


体の各部に乳酸が溜まり、筋肉が悲鳴を上げる。



が、そんな事など意に介さず、走る。



走って、斬って、避けて。


避けられない体勢のところに飛びかかって来た魔獣の脳天に、銃弾を喰らわせる。

ああ、持って来たハンドガンで。



神経を尖らせ、魔獣の動きを注意深く観察する。



2歩、3歩先の動きを先読みし、最善の動きをする。



そしてまた、斬る、そして撃つ。



頭と体をフルに使ってとにかく殺す。



しばらく続けると、魔獣は残り少なく、その半分も戦意を喪失しかけていた。



「グルウウウウウ…………」


魔獣の1匹が低く唸ると、それに呼応するように残った魔獣達が逃げ始める。


「逃がすかよ………‼︎ 」


逃げ始める魔獣を追いかける。


普段なら残った魔獣がまたフィルカニウムの街を襲う可能性や追いかけるリスクを天秤に掛け考えただろうが、この時の俺は怒り以外の感情が無かった。


自分でも何故こんなに怒りが溢れてくるのか分からなかったんだ。


剣を握り、魔獣達を追いかけようとした時。


「ケージさん! もう、もういいですから!」


俺を追いかけて来たのだろうテリシアが、ケイジの元に駆け寄って来た。


それを魔獣どもは見逃さなかった。


バッ、なんで出て来てんだテリシア!


「グルアアアア!」


まずいッ!

飛び掛ってきやがった!


「テリシアアアアア!」


テリシアの元に飛び込み、全身で庇う。


「ぐああッ、テメェッ!」


背中に大きく傷を負いながらも、気合で剣を振るって最後の魔獣の首を飛ばした。


クソ………。


俺は、何の為に………。


何で、こんなにイラつくんだ………。




覚えてるのはここまでだった。


圭二の意識は、深い沼の中に沈んでいった。



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