第11話・血の雨の中で
「隠密スキルカンストさせた俺、異世界生活始めました」
第11話です‼︎
ちなみに魔獣とモンスターは同意義だと思ってください。
「なっ、そ、そんな……。どうして……」
俺の隣でそう呟くのはテリシア。
何があったんだって?
この目の前の光景だよ。
街のあちこちで火の手が上がって、そこら中に魔物がうようよしてやがる。
ああ、そうだよ。
薬を買うはずだった街だ。
クソ、やけに報酬が高いとは思ったが、こういうことだったのか。
まずいな……。
ぱっと見、街の人たちは避難したように見えるが、さすがにこれをほっぽって帰るわけにもいかない。
ただ、情報が少なすぎる……。
テリシアも明らかに動揺してるし、しっかり守らねえと……。
「テリシア、立てるか? とりあえず、見つからないように街の人を探そう」
「は、はい……」
ぎゅっと握る手はすごく震えている。
確かに緊急事態だろうが、これはさすがに不自然だ。
何でだ……?
思い出してみよう。
……そういえば、ギルドに入ったのはマスターに助けてもらって、って言ってたな。
もしかしてその助けてもらったってのは、自分のいた街がこいつらに襲われた時じゃないのか?
仮説に過ぎないが、それなら納得がいく。
だとしたら尚更、何としてもテリシアだけは守らないと。
今か?
崩れた建物の影をそ〜っと歩いてる。
俺1人ならなんてことないだろうけど、テリシアもいるし、無駄な戦闘は避けたほうがいい。
「……へくちっ‼︎」
……。
テリシアアアアアアアアアア‼︎‼︎
こんなところでまで天然スキル炸裂さすなああああああああああ‼︎
やべえ、気づかれた‼︎
ヤバい、マジでヤバい‼︎
……ん⁉︎
あれ、人じゃないか⁉︎
街の中心部分から次々と人が出てくる。
あそこら辺に隠れてたみたいだ。
「おい、あんたら‼︎ はやくこっちへ‼︎」
「テリシア、行け‼︎ 俺もすぐ行く‼︎」
テリシアを先に行かせ、剣を抜く。
げっ、なんかキモいカエルみたいなのが飛びかかって来やがった‼︎
「ぬおっ‼︎」
なんとか横に躱す。
あっぶねえええええええ‼︎
危ねえよマジで‼︎
ミルさん、剣、使わせてもらうぞ‼︎
ああ、やっぱり軽い。良い剣だ。
これなら‼︎
「オラアッ‼︎」
隙のできた大きくグロテスクな背中に斬りつける。
「グロロララララアア‼︎」
キモいカエルは大きな断末魔を上げ、動かなくなった。
……この剣強すぎじゃね?
軽いし丈夫だし斬れ味いいし……。
え?
主人公補正ないんだからこれくらい大丈夫だって?
いや、むしろこれが主人公補正レベルなんだが。
って、そんなこと言ってる場合じゃなかった。
もう充分時間は稼いだし、俺も早く逃げないと。
え?
勝てないのかだって?
バーカ、余裕で勝てるわ。
でもキモいし面倒だからやらねえだけ。
いいんだよ別に。
そのうちギルドの救援なり憲兵団なり来てくれるだろ。
それから30分くらい後。
俺か?
俺は今、ギルドがあるユリーディアの街から東にしばらく進んだ、フィルカニウムの街に来てる。
まあ、今じゃ見る影もないが。
「えっ、どういうことですか⁉︎」
避難した住人達に、テリシアが問い詰められている。
大丈夫なのかって?
一応妙なことする奴がいたら吹き飛ばせる距離にはいる。
「ですから、今回の場合は依頼内容と大きく異なるので……ギルドの救援を頼むことは出来ないんです、ごめんなさい……」
どういうことかって?
何でも、フィルカニウムの人達は魔物に街が襲われてすぐ、ギルドに依頼を出そうとしたらしいんだがな。
魔物殲滅、街の救援の依頼を出せるほどの資金がなかったんだと。
で、そこそこの額と嘘の依頼を出して、今に至る。
やれやれ……。
今の金の話より街の方が大切だって何でわからないんだこいつらは……。
間抜けすぎてため息が出る。
「ふん、結局はヒューマンはわしらのことなぞどうでもいいという事じゃろう」
「え……?」
なんだあのじーさん。
やけに偉そうだけど。
「そ、そんな事、思ってないです‼︎」
「ふん。上部ばかり取り繕いよって。あの魔獣どもをけしかけたのも、お前らヒューマンじゃろうが」
……は?
どういうことだ?
何で俺らがあいつらを……。
……ちょっと待てよ?
あのじーさんが言ってるヒューマンって、王都の連中のことか?
「どういう事ですか⁉︎ なんで私達がそんなこと……!」
必死に否定するテリシア。
仮に王都の連中の仕業だとしても何でだ?
まだこの世界のことを理解し尽くしたわけじゃないが、こんな急に街を襲う必要なんてあるのか?
「ふん、白々しい。違うというのなら、やつらの目の前に立って食われてみろ‼︎」
何てこというんだこの老害が‼︎
世界の財産テリシアちゃんに食われろだと⁉︎
お湯に浸したらダシ取れそうなジジイは黙ってろ‼︎
「そ、そんな……」
ああ、やばい。
テリシア、本気で動揺してる。
え?
昔を思い出してるのかもって?
……かもな。
やれやれ、何とかするか。
とりあえずあの老いぼれ何とかしてぶちのめしたいな。
それじゃ趣旨が違う?
分かってるって冗談だよ。
「納得いきませんね」
テリシアの前に立って言い返す。
「……若造が、何か言うことでもあるのか」
「依頼書偽造したくせに大した物言いですね。あんたら本当に今の状況分かってるんですか?」
本当に、何処の世界に行ってもバカはバカだ。
救いようがない。
「黙れ‼︎ そもそも、貴様らがバカみたいに高い報酬金を要求するから、こうするしかなかったんじゃろうが‼︎」
……はあ。
本当に、何も分かってないんだなこいつは。
「ふざけんな‼︎ 金なんかよりみんなの命の方が大事だとは思わないのか‼︎ こうするしか無かっただと⁉︎ テメエ、本当にこの街を守りたいんなら土下座してでも懇願するべきなんじゃないのか‼︎」
「それを報酬金が高いからだ? のぼせ上がるのも大概にしろ‼︎ テメエが大事なのはこの街じゃなくてテメエの私腹だけだろうが‼︎」
「ハンターだって同じだ‼︎ あいつらだって、毎回の仕事に命かけてんだよ‼︎ 本当なら、あんな金額低すぎるくらいだ‼︎ 人の命は買えるもんじゃねえんだよ‼︎」
内に秘めた思いを全部吐き出す。
だが、それでも治らない。
ああ、本当にイラつく……‼︎
何だってこう、当たり前のことがわからないんだ‼︎
クソ、テリシアもいるのに怒鳴り散らしちまった………‼︎
「………全員、3時間後にここを出られるように身支度を整えろ」
「け、ケージさん⁉︎ 何処に行くんですか⁉︎」
クソ、クソクソクソ‼︎
テリシアにまで当たり散らしそうな自分が許せない‼︎
「あのゴミ共を皆殺しにして来る。そうすりゃ文句はねえだろ……?」
そう言って俺は避難所を出た。
クソ、ああ、クソッ‼︎
抑えられない殺気に、長老は声を出すことすら出来なかった。




