第二章Ⅰ クラリアの奔走
さっそく、クラリアは資金集めに取り掛かった。彼女が資金集めの宛にしているところは、エルネスト王国の資本家階級ブルジョワジーである。彼らはエルネスト王国の産業を急速に発展させており、今波に乗っていると言っても過言ではなかった。
幸いにもクラリアと彼らは親しく、よく彼らに財政面で支援してもらっている。
クラリアはエルネスト城から約1キロベクト(1km)の城下町のアルバスの郊外まで馬車で来ていた。
「カノン!!お願いがあるのだけど!?」
まず最初に、よく商談をしたりしているクラリアの友人のカノンの家に訪ねた。
カノンは主に魔術の補助的役割を行う武器の魔術具の発明と販売、でもそして王国御用達の武器や防具を作っている人間だ。当然資本家としていくつかの店を経営しているため莫大なお金を持つ。
家は大豪邸であり、エルネスト城には及ばないもののその規模はかなり大きかった。そしてその横には工房のようなものがあった。
家の方から全く物音が聞こえないということは、こちらにいるかもしれないと思ったクラリアは工房の方へと行った。
ドンドン……
「カノン?いる?」
ドアを叩いてみるものの全く音がしない。もう1度ノックしてみることにした。
ドンドンドンドン……
「カーノーンー!いないの〜!?」
ゴツ!!!!
「うるせぇな!!!!!今作業中だよ!黙ってろ!!!!」
ドアが突然開いていきなり拳がクラリアにめがけて飛んできた。あまりの痛さに頭を抑えて涙目になっていた。
「い、痛いよ〜!!!殴るならもう少し優しくしてよ〜!」
涙目になり、頬を膨らませてクラリア怒っていた。よほど痛かったのだろう。殴られたところをかなりさすっていた。
カノンの方は作業を邪魔されたのかイライラしており、不機嫌な顔をしていた。
カノンはウルフヘアにクラリアよりも大きな胸そして、鍛冶師の動きやすい作業着のようなものを着ていた。顔は中性的であり、男にも女にも見えた。
「いつも言ってるだろ!?工房にウチがいる時は静かにノックしろって!」
彼女は神経質であり、物事に熱中すると少しの物音も気になってしまうような人である。
当然さっきのノックの音なんて彼女からしてみればとてつもなく大きいノイズである。
「で、なんだよ?クラリア。なんか用事か?」
「うん、実はね…。お願いしに来たの。」
徐々にイライラが収まってきているカノンは自分を尋ねてきたクラリアに質問をした。
その質問に答えるように、クラリアは少し躊躇いがちに答えた。今からお願いする内容が内容なだけに慎重にならざる得なかった。
「実はね、近々バイゼル王国がこっちに攻めてくるらしいから、軍資金が必要になってるの。だからまた貸してほしいなぁって。」
「ふーん、そうか。でいくらだ?」
「えっとね…。12億ベル。」
「なるほど……。12億ベルか……。うん???なんて??」
カノンはその数字に衝撃を受けすぎて自分の聞き間違えかと思いもう一度聞き直した。
聞き直されたクラリアは自分の声が小さかったのかと思いもう一度今度は大声で言い直した。
「12億ベルを3日以内貸して欲しいの!!!!」
「うるせぇ!!!!聞こえてるわ!!なんだよ!?12億ベルってバカなの!?しかも3日以内ってわけがわからんわ!!!!」
カノンはあまりにも衝撃的な内容に声を荒らげた。そしてこいつは何を言っているんだよ!?という顔をしていた。
まぁ普通に考えてみればそうだろう。3日以内で12億ベルはあまりにも高額である。いくらカノンがお金持ちとはいえ限度があるはずだ。
クラリアはカノンの態度に少し縮こまってしまった。それでも、3日以内に集めなければエルネスト王国も終わりが来るかもしれないと考えなんとか、自分を奮い立たせた。
「バカなことはわかってる!でもどうしても必要なの!!お願い!」
必死になってお願いをした。それでもカノンは首を縦にはふらずにかなり渋っている。近くにあったソファに座り腕を組んだ。
「そりゃあ、なるべくにはお前にウチは協力したいさ。でもね、ウチが12億ベルを稼ぐためにどれだけ苦労しているかわかってる?」
彼女の言っていることは最もである。いくらカノンが大金持ちの資本家と言えども、利益を得るために様々な障害を潜り抜けている。そしてようやくお金を手に入れているのだ。
クラリアは正当なことを言っているカノンに対してただ黙って聞くことしかできなかった。
「それにさ、防具や武器に使う材料がこのところ不足しているんだよ。とくにミスリルやオリハルコンのような超特殊貴金属の不足がね。」
超特殊貴金属とは魔術具を作る上で必要不可欠な素材であり、採掘できるところはあまり多くない。そのため、この超特殊貴金属の取れる鉱山のある場所では度々戦争が起こる。
資産家のカノンがエルネスト王国に対して装備品や資金を提供することでその鉱山の独占をしているのだ。しかし、最近ではあまり採れなくなっているため、資金不足になりつつあるのだ。
「確かに、最近ムネアジア鉱山の超特殊貴金属が少ないのはわかってるけど……。それでもカノンお金もってるし……。だめ?」
どうしても、お金を必要としているクラリアはカノンに潤んだ瞳の上目遣いでカノンを見た。カノンの方はと言うとそれを見てやりにくそうな顔をしていた。
カノンとしても友人のクラリアを助けたいのだがカノンにもカノンの生活がある。当然労働者たちにも賃金を払う身分なので、あまりむやみやたらにお金をやることができないのだ。
「とにかく!だめだ!今回は悪いが協力はできん!他をあたってくれ!」
「そ、そんな〜〜〜!!!」
カノンはクラリアの願いも虚しく、首を縦に降ることはなかった。これ以上交渉しても無理だとクラリアは感じたのか仕方なくカノンの工房を後にした。
門の近くに止めてあった馬車に乗り込み次の場所へと向かった。
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この後、クラリアはほかのブルジョワジーのところにも頼みに言ったものの誰1人として首を縦にふるものはおらず、門前払いされてしまったのだ………………。
そして2日目となった。
「お願い!スッチー!12億ベル3日以内に貸して!!!!」
クラリアは現在城下町のアルバスのとあるお屋敷に来ていた。クラリアの目の前には、眼鏡をかけた長身のオールバックの青年が一人用ソファに足を組んで座っていた。
「クラリア殿、いくらあなたの頼みとは言ってもきついわ〜。」
その青年はクラリアを難しそうな顔をして見ていた。さっきのカノンと同じような状況である。彼の名前はスチュアート・ヨルゲンセン。彼もカノンと同じくエルネスト王国を支えているブルジョワジーの1人である。
彼が行っている事業というのは、建築業である。彼は昔から代々続いている建築家の一族であり、現在スチュアートで8代目である。
「どうしてもダメなの?」
「いや、ダメとかそう言う以前にさ、俺のところなんて、カノンさんのところに比べたらカスいもんだよ?」
彼の言う通りいくら金もちと言えども、差があるのだ。恐らく一番ブルジョワジーの中で財力があるのがカノンで、スチュアートは中の下ほどである。
そのカノンが断りほかの主要な人物が断っている時点で無理も同然だ。スチュアートはクラリアに少しおどけてみせた。だが、そうもしなければやってられない額が額だけに。
「一生のお願い!スッチー!国のためなの!!お金を貸してください!!!!」
クラリアはとうとう、姫として目を疑うような行動をとった。
「ちょ!やめ〜や!!クラリア殿!?一国の姫がそんなことしたらあかんて!!!」
クラリアがとった行動というのは文字通り、土を下にして座る行為 即ち土下座である。さすがに姫が土下座をやったことに驚き、それだけでなく冷や汗までかいた。
スチュアートが必死でやめるように、クラリアにいうものの、全く聞こうとしていない。それどころか、額までこすりつけて、深々と下げたのだ。
「クラリア殿、俺には無理やって!!俺はほかのブルジョワジーに比べたら金が決して多い訳では無いんや!!今だって材料費の高騰や建築の仕事がないんや!!」
スチュアートは思わず立ち上がってクラリアのところまで歩み寄った。なんとか土下座しているクラリアに自分たちの状況を理解してもらおうと説明をした。そして、スチュアートの言う通り超特殊貴金属と同じく、木材などの建築に必要な材料は不足による高騰が起きているのだ。
また、自分の御先祖があまりに建物を頑丈に作りすぎたために、建て替えの仕事が全くないのだ。そのため、お金もほかのブルジョワジーに比べかなり少ないのである。
「お願いします……。お願いします…。お金を貸してください…。国を守るためにどうしても必要なんです……。」
普通ならありえない光景である。国の統治者が一資本家に土下座をしている、こんなのはまず異様であるのだ。しかし、クラリアはクラウドに約束をしたのだ。
必ず、12億ベルを用意すると。そしてクラウドも約束してくれた。必ず勝利もたらして見せると。そのためにはなんとしても必要なのだ。自分のが王女でありというプライドを捨ててでも国を守ろうとしている。
スチュアートにも彼女の願いを聞き入れたい。聞き入れたいのだ。しかしあと1歩のところで自らの保身を考えているのだ。
「クラリア殿…。どうしてや……。どうして、そこまでするんや?言っちゃ悪いが、国民はあなたのことを無能姫と言っているんよ?そんな国のためにそこまでする必要あるかいな?」
スチュアートは土下座までするクラリアに対して気になることを投げかけた。彼女は国民や部下からも無能姫と侮辱されているのだ。そんな彼らのために果たしてそこまでする必要があるのか?そう思っていたのだ。
彼女は目立ってはないものの、エルネスト王国の財政面を支えてきている。スチュアートはクラリアの活躍についてよく知っているしかし、それは国民にはわからない。
「確かに、私のことを無能姫だって言ってる人はたくさんいる。でもだからといって何もやらないのは理由にはならないわ……。
それに私、みんながいるこの国が好きだから。どんなに私が無能姫だって侮辱されても土下座をしてでも…私はこの国を守る。だって私は……この国の王女だもん!!!!」
土下座をしたままスチュアートを見つめている彼女の真っ直ぐな瞳、涙もでており、そこには確かに覚悟の気持ちが宿っていた。今までの彼女にはないな何かそれを今スチュアートは感じたのだ。
だが、そんな彼女を見てもスチュアートはやはり己の保身を考えてしまった。
「ごめん……。クラリア殿気持ちはよくわかる……。でもやっぱり無理や…………。」
クラリアの真っ直ぐな瞳をスチュアートは背けた。いや、そうすることしかできなかったのだ。そうだなければ彼女に対する罪悪感に耐えられないのだ。納得した表情で彼女は何も言わず、スチュアートに一礼をして部屋を去っていった。
「クラリア殿………。」
スチュアートは1人部屋でついさっきまでいた人の名前を虚しげに呟いていた。
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結局クラリアはいろんな人のところを訪ねたものの誰1人からもお金を借りることごできなかった。
もう3日目である。約束の期限ではあるが、1ベルたりとも集まることはなかったのだ。そういうことで、1人自分の部屋でしょんぼりしていたクラリアであった。
刻一刻とバイゼル王国はこっちに迫っている。それなのに自分はクラウドとの約束を守ることが出来なかった。それが彼女の落ち込んでいる原因であった。
「はぁ……。結局、クラウドとの約束守れなかった…。ごめんね……クラウド……。」
今クラウドの顔を見れないと思っているクラリアは部屋に引きこもっおり、食事すら食べていなかった。
ベッドで体操座りをして顔を俯いていた彼女であったが突然ドアをノックされた。
ドンドン……
「クラリア様お客様がいらしていますが?どうしましょうか?」
ドアの向こう側から侍女が話しかけてきた。内容は客が来ていることらしい。だが今はそんな気分ではなかった。
そこで帰ってもらうことにした。
「悪いけど、かえってもらっていい?」
「それが、カノン殿がいらしていまして……。」
「え!?」
侍女の放った言葉に衝撃を受けた。