Ⅵ
クラリスからお呼び出しを受けたクラリアはクラウドとともにクラリスのいる部屋へと向かった。
クラリスからの呼び出しは、あまり良いものではない。ミスを追求されたりや、無理難題を押し付けることもある。
そこからついたあだ名は、「冷血宰相」とクラリスは呼ばれている。
彼女は完璧主義者である故に、小さなミスでも許さない。それが大きな失敗に繋がると思うからだろう。
2人は特に話さずに並んで歩き、やがてクラリスの部屋についた。
「今日はいったい何で怒られるのかな?」
「どうでしょうね。何か心当たりはありますか?」
とりあえずクラリスに呼ばれた経緯について2人は考えていた。例えば、会議で少しウトウトしてたり、王族らしくない行動をとったり、はたまた、部下と一緒に寝たりなど…。考えていくとありすぎてきりがなかった。
「いっぱいあるわね…。あはは…。」
クラリアはもはや笑うしかなかった。普段から自分の行動というものにはあまりに気を使っていない。だからよくクラリアは妹であるクラリスに怒られてしまう。それが原因でクラリアはクラリスにも苦手意識を持っている。
クラウドとしては姉妹仲良くやってほしいのだか…。
そしてクラリアはドアノブに手をかけて控えめにノックをした。
トントン……
「どなたですか?」
ドアの向こう側からクラリスの声が聞こえてきた。それに応えるようにクラリアは言葉を発した。
「クラリアよ…。クラウドから話を聞いて呼ばてきたの。入ってもいい?」
ドアに挟まれているとはいえ、クラリスと対峙しているのかクラリアは控えめに言った。
妹に対して強気でいけないクラリア。良いように言えば優しいのだが、悪くいえば臆病者である。
ここら辺もエルネスト王国を治めていく上で変えていかなければならないところだとクラウドは思った。
「クラリア姉様?入っていいですよ。クラウド様もいるのでしょ?」
え……どうして俺が傍にいるってわかったんだ…?
何も言っていないはずのクラウド。ドア越しなので姿も気配もわかるはずのないのになぜわかったか不思議で仕方がなかった。
それと同時にクラウドはクラリスに恐怖を感じた。それはクラリアも驚いていたようで、2人で思わず顔を見合うほどである。
「そ、そうだけど。なんでクラウドまでいることがわかったの?」
「私の分析の結果です。そんなことより、早く入ってください。」
どうしてわかったかなどは教えずに、部屋に入ることを催促された。
言われた通りに部屋に入っていくと、そこは王族の人間とは思えないほど、部屋には最低限のものしかなく、豪華な飾りのようなものは一つもない。
どちらかと言うと、仕事部屋のような雰囲気が出ていた。2人は部屋にある長机で何か作業をしているクラリスを見た。
「来ましたね。クラリア姉様、クラウド様。」
クラリスは部屋の中央に置かれた長机のところから2人に話しかけてきた。机の上には様々な資料や本が生理されて置いてあり、彼女の性格を体現しているようであった。
「クラウドから呼ばれたけど…。私に何かようなの……?」
クラリスを目の前にしてさっきよりもさらに控えめに喋るクラリア。
「ええ、大事なお話がありましてね。」
クラリスは真剣な顔つきでクラリアとクラウドを見てきた。クラリスは母親のオリーシャににて大人っぽい顔つきをしているが、今回はとても神妙な表情をしていた。
2人も、ただ事ではないと思い、真剣に話を聞く準備をした。
「今朝私が送っていた密偵からの情報で、近々隣国のバイゼル王国がこちらに攻めてくる可能性があるとのことです。」
「え?バイゼルってあの大国の?」
あまりの出来事にクラリアはただ聞き返すしかなかった。2人の口からでてきた国 バイゼル王国はこのヴァーネスト大陸の中でも指折りの大国である。
最近は特に勢力をあげてきており、どんどん他の国を配下にしているのだ。そんな国がエルネスト王国を攻めてくる…。これは一大事件であった。
エルネスト王国は決して小さな国ではないが、それでもバイゼル王国からしてみれば、小さな虫のようなものである。
「こちらからしてみれば、この前別の国と戦ったばかりで何分資金不足で…。そこで姉様に資金調達を頼みたかったのでお呼びしました。」
この前、別の国との戦争により、兵糧の調達は出来ていたが、装備や兵力集めの資金が不足していたのだ。オリーシャからはクラリアに任せろと言われていたのだが、またすぐに戦争になるとは、なんとも分が悪い…。
「何日以内に資金を集めないといけないの?」
クラリアはクラリスに資金集めの期限をきいてきた。おそらく戦争が始まる前までには、準備しておかなければならない。
「そうですね…。見積もりで、遅くても2、3日以内には12億ベルは必要です。」
「え?23日までに12億ベルも!?」
「はい…。これはあくまで最低額ですのでこれを下回っては戦に支障が出ます。」
あまりにも無理難題であった。普通に考えて、たった2、3日で集まるような額ではなかった。どう考えていも不可能である。
だが、その金額がなければ戦ができなく、負けて終わりである。
「クラリス。本当にそれよりも下回ることは無理かい?」
クラウドは今まで、黙っていたがここで口を開いてそう言ってきた。
軍師であるクラウドからしても、戦に勝たなければならないと考えるところだか、その現実離れな数字に少し納得がいかなかった。
「なんども計算をしましたが、これが限界でした。この金額を集めなければ、この国も終わりでしょうね。」
「そ、そんな…。」
クラリスの冷たい言葉に、クラリアは少し絶望してしまった。自分の大切な人達のいる国がなくなってしまう。そんなことは考えたくなかった。だが、1億ベルというあまりに高い難題に彼女も困り果てていた。
だが、クラリアは何かを決心したように顔色を変えた。
「クラリス。本当にその金額が集まれば、戦は勝てる可能性あるかな?」
「勝てるかどうかはわかりませんけど、戦をまともにすることはできますよ。まぁ…勝敗はそこの軍師殿次第ですけど…。」
そう言うと少し意地悪な微笑みをクラウドに対してしてきた。おそらくクラウドにわざとプレッシャーをかけてきているのだろう。クラウドはそんなクラリスに負けじと、微笑み発言をした。
「戦がすることが出来れば、私が必ずクラリア様を勝利に導きます。それが軍師である私の役目です。」
クラウドはクラリスに言い切った。そしてその言葉を言い終わると言い過ぎたと思い、少し後悔してしまった。
だが、クラリアに仕える軍師である手前そんなこと顔には出せなかった。
「クラウド、それ本当?もし12億ベル集めたら戦で勝ってくれる?」
「え、ええ!もちろんですよ。クラリア様。」
「だったら私……。やる。」
クラリアはクラウドの言葉に安心したのか、1億ベルを集めるという無謀な挑戦をやろうとした。これには驚いたのか、クラリスは少し信じられないという顔をしていた。自分が言ったくせに。
そしてクラリアはクラウドの顔を見て言葉を言った。
「クラウド。私は1億頑張って集めるから、だから…。戦いに勝って?」
クラリアはクラウドの顔の近くまで寄ってきて、上目遣いでそう言った。その可愛らしい行動にクラウドも思わずドキッとしてしまった。
だが、彼女の並々ならぬ覚悟は十分に伝わってきた。クラウドもクラリアの顔をしっかり見て決心をした。
無能姫と呼ばれ彼女が国のために頑張ろうとしている…。そんな彼女を守るのは自分自身そう言い聞かせた。
「もちろんですよ。クラリア様。俺はあなたのためならどんなことだってやります。」
「本当!!?じゃあクラウド、私からのお願い。エルネスト王国を勝利に導いて!!」
クラリアは真剣な顔でクラウドに対してお願いをしてきた。
そしてクラウドは彼女に向かい右手を左胸に手を当て、左手の甲を後ろの腰に当てて一言言った。
「我が栄光は姫のために!!」
その言葉が、クラリスの部屋で大きく、そして響くように目の前の主人 クラリアに言った。