第二章 Ⅵ 揺れるバイゼルと戦いの足音
クラリスの方はと言うと、今現在、エルネスト王国所有地であり、バイゼルとの国境となっている、ムネアジア鉱山の付近の村に来ていた。
クラウドからの司令というのは、この村の有名な酒を大量に買い占めて、村人にそれをバイゼルの兵たちに配るというものであった。
もちろん村人には働くぶんだけの賃金を支払う。
そう言うことを頼まれていた。
「本当にこんなことをして何になるのでしょうか?」
クラウドを信頼しているとはいえ、理解のできないその内容にクラリスは半信半疑であった。
「宰相殿、我々はバイゼルの軍に出来の良い酒を振る舞えば良いのですか?」
考え事をしているクラリスに村の村長らしき老爺が話しかけてきた。その老爺は、猫背気味で杖をついていた。
「えぇ、この村で有名な地酒をバイゼルの兵たちに与えてください。もちろん働いた分の報酬は支払います。」
眼鏡をクイッと右手であげて、村長に説明をした。
とはいえ、自分の言っていることに理解が出来ていない彼女にはこれが本当にクラウドの意図するように伝わっているのかわからないままであった。
「これでいいのかしら…。」
不安を隠しきれず思わず吐露した。だが、言われた以上やるしかない。
そう思って雲一つない空を見上げてこれから起こるであろうバイゼルとの戦いを想像した。
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一方バイゼル王国のモリガンの城
兵士に相応しい鎧を来てる筋骨隆々のいかつい顔つき男と法衣のようなものきている初老の男がいた。
「おや?これはこれはハーヴェイ殿?貴殿も陛下から呼ばれましたか?」
「なんとオルガン兵士長ではないか?えぇ、陛下からお呼び出しされましてね…。一体なんでしょうか?」
モリガンの城内部の広場では兵士長オルガンとハーヴェイがクラン女王陛下に呼び出されていた。
しかし、その内容自体はどのようなものか把握しておらず、二人とも疑問を持ちつつ城へと来ていた。
「もしかしたら、エルネストとの戦いに備えて話ではないでしょうか?」
「おぉ、そうかもしれませんな。それでは急ぎましょう。」
2人はクランのいる部屋へと広い廊下を進んでいった。
広い廊下には無数の扉があった。無数の部屋には錠前にてしっかりと施錠がされており、国家機密のものも存在している。
だが、2人は施錠されていない扉をいくつか発見した。なぜ、施錠されていないのか…。もし、重要な文書が盗まれたならどうするのだろうかと2人は思った。
「全く誰だ。施錠を怠っているのは…。こんなことしては重要な文書が盗まれるぞ。後で叱っておかねばな…。」
「まぁ、誰かいるのではないですかね?気にせず行きましょう。」
施錠を怠った人間にちょっとした憤りを感じるオルガンだが、ハーヴェイは気にせずに行こうと促した。
その時、一斉に勢いよく扉の開く音がした。するとそこから20人近くの兵士が現れた。そして何故か武器をもっていた。
「何をしている貴様ら!?場内で武器など持って!?」
「どうしたのか?一体何がおきているのだ?」
二人は何故ここに兵士がいるのか理解ができなかった。それだけではない。彼らは何も返事をせずただふたりをじっと見ていた。
そして隊長らしき人物がふたりを順に指さした。
「反逆者を始末しろ!!!」
号令とともに剣をさやから抜いた兵士達はオルガンとハーヴェイに襲いかかった。
ハーヴェイは理解不能な状況に呆然としつつも今、生命の危険が迫っていることを知り恐怖のあまりに腰を抜かしていた。
一方のオルガンは応戦しようとするものの、場内では帯剣を許可されていないため、素手で戦うしかなかった。
「反逆者とはなんだ!?我々は何もしていないぞ!!」
「嘘をつけ!!エルネスト王国と内通しているとの話が耳に入ったのだ!!」
なんのことださっぱりわからないオルガンは隊長らしき人物に身の潔白を証明しようとした。
そして、彼が驚いたのは、エルネストと自分が内通しているという噂がたっていることであった。
当然そのようなことをするわけがない。なのに何故か…。
考える暇もなく兵士達は二人に襲いかかってきた。
「やめんか!!貴様らは根も葉もない嘘に踊らされているのか!?」
「そ、そうだぞ!我々は何もしていぞ!?バイゼルのために今まで戦ってきたのだぞ!?」
2人は兵士達に向かってそういった。間違いなく、彼ら嘘をついてはいない。それでも、彼らは決して二人の言葉に耳を傾けようとはしなかった。
そして二人を囲いこんだ兵士達は剣を振り上げ、無情にも彼らの身体引き裂いた。
ザシュ!!!グシュッ!!!グサ!!!
「ぐはぁ……。やめ…ろ……。」
「あぁぁぁ!!!やめてくれ……。私達は…無実だ……。ぐはぁ!!」
何度も何度も二人を切裂き、オルガンとハーヴェイはやめろと言うものの、もう何箇所も斬られ、刺されていた。
倒れて動かなくなった2人を見て兵士達はどこかへと行ってしまった。
2人は段々と意識が朦朧としていた。床には池のように鮮血が広がっていた。赤黒い血は、彼らを包んだ。
「なぜ…だ…。私はバイゼルのために尽くしてきたのに……。なぜ……!!」
オルガンは朦朧としていく意識の中で、走馬灯を見ていた。ここまで大きくなったバイゼルを作り上げだ立役者であるオルガンは、今までバイゼルに尽くしてきたのに最期にこのような仕打ちをされることが悔しくて仕方がなかったのだ。
そんなオルガンの目から涙が流れていた。
「オルガン殿…。おそらく陛下は踊らされて……いるのでしょう……。もし、ゼブル殿が今生きてれば……。」
ハーヴェイは血だらけになった顔で同じく横で倒れているオルガンに話しかけた。
そして、彼はある人物について話した。今は故人であるゼブルという人間であった。一体どのような人物かは現時点ではわからない。
だが、その言葉からかなりの影響力を持っていたのではと思える。
「確かに…。ゼブル殿がいればこのようなことにはならなかった…。そうすれば……陛下もあのように……。」
オルガンは、言葉を言い残したまま、息絶えた。
そして、ハーヴェイも
「我々は…所詮は使い捨ての駒ですよ……。でなければこのようなことは……ありませんからの……。」
オルガンと同じくゆっくりと目を閉じ息絶えた…。
廊下には紅く染まった2人の骸が虚しく転がっているだけであった。
クランの部屋にて
「2人の始末は完了したのかのう?」
絢爛豪華なドレスを身にまとった癖のあるブラウンの髪のツインテールの少女が大きな玉座にくつろいで座り、膝まづいている部下に対して尋ねた。
恐らく、オルガン兵士長とハーヴェイ参謀のことを言っているのだろう。
部下は下げていた頭をあげた。
「もちろん、速やかに始末しました。しかし、場内を汚してしまい申し訳ありません。」
「よいよい。召使いに奴らの掃除はやらせれば良いからのう。さて、これで裏切り者はいなくなったことだし、不安は無くなったも同然だのう。」
扇子を広げ口元を隠すように笑うクランと同じように部下の男は笑った。
しかし、兵士長のオルガンと参謀のハーヴェイを始末してよかったのだろうか。正直言うと、エルネスト王国と繋がている証拠など特に出ていない。
これがバイゼルの痛手とならなければ良いのだが…。
「さて、不安要素もなくなった今、侵攻を始めようとするかのぅ。頼んだぞ。新兵士長 ガブル。」
「はい!勝利を陛下の捧げます!!」
薄く笑うクランと同調するようにして新たな兵士長となったガブルも笑った。
しかし、何か裏を持った不敵な笑みを彼は浮かべていた。
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オルガンとハーヴェイが暗殺をされて数日がたちそのことはすぐにエルネスト王国にも伝わった。
その内容を耳にしたクラウドは自分の部屋で一人窓から外の景色を見て薄く微笑んでいた。
「よし…。厄介な2人が消えたか……。あとはあれだけか…。」
バイゼル王国のオルガン兵士長とハーヴェイ参謀が死んだことはエルネストにとっては好都合であった。
なぜかと言うと、2人はバイゼル反映の立役者とも言える人物である。
それだけ厄介な人物が消えたことは、兵士の規律や戦略が大きく変化する。そこが狙い目であった。
「クラウド様。」
一人物思いにふけっていると誰かから名前を呼ばれた。
呼ばれた方を振り向くと、そこには水色の髪を三つ編み下げた黒いフード付きローブに青紫色の服に膝まで隠れたスカートに革のブーツという格好をしていた。雰囲気的には大人びた感じである。
「エリファスか。どうした?」
「クラリス宰相から伝言を預かっています。任務は完了したと…。」
エリファスと呼ばれた人物は、預かった伝言を伝えた。
彼女の名前はエリファス・ヴィルヘルム。とは言っても、クラウドの妹でもなければ、姉でもない。ただクラウドとファミリーネームは同じである。
なぜ同じなのか、その事情を知るものは限られている。
「そうか…。伝言ご苦労様。ところでエリファス。」
「なんでしょうか?クラウド様?」
軽く労われたあとになにか言おうとしているクラウドについて内容を尋ねた。
するとクラウドはエリファスの方へと近づいていき、ほんとんど身体が当たる距離までやってきて、彼女の顔を指2本で優しく撫でた。
「顔に泥がついているよ?泥がつくくらい、必死に任務こなしてくれてありがとう。エリファスは私の信頼できる仲間だよ。」
優しい笑顔でしっかりエリファスを労った。そんな行動をされてエリファスは思わず顔が赤くなった。
「な!!クラウド様!!そんな…もったいない言葉です…。」
クラウドに顔を優しく撫でられて恥ずかしそうにしているが、内心とても嬉しいのだ。
ただ彼女は、照れた顔を人に見られるのが苦手なため、なんとか冷静な表情を取り繕っていた。
「これからも、よろしくねエリファス。」
「とんでもありません。主に仕えるのが部下の役目です。」
照れ隠ししていた顔はすっかり元の表情へと戻り、クラウドを真っ直ぐな瞳で見た。
「失礼ですがクラウド様。戦で直接剣を振るいますか?」
「まぁ、基本は指揮だけど場合によってはね……。」
クラウドは軍師であるため、まず最前線に出て闘うことは基本的には行わない。
だが決して、クラウドに武術の心得がないわけではなく、指揮をうまく行うことが、最前の策だと思っているため、闘わないのである。
「そうですか…。野暮なことを聞いてしまい申し訳ありません。」
「いやいいよ。エリファスのそういう心遣い好きだよ。」
不意をつかれたエリファスは思わず声を荒げた。
まさかそのようなことを言われると思わなかったのであろう。先程よりも顔が赤くなり、可愛らしかった。
「わ、私は!…クラウド様の部下として!!……そのあの……。」
「もっとそんな感じで表情豊かにしたらいいのに。」
突然のことで、何を言っていいのかわからず思わず吃ってしまった。そんなエリファスを見たクラウドはニコニコしてその表情を覗いていた。
そして、彼女の隠れた長所をしっかりと言った。クラウドの言う通り、彼女は顔立ちも良いので、モテるほうである。
だが、少し固いところがあるため、勿体ないのだ。それはクラウドが思っていることでもあった。
「別に私は…。今のままで…。」
エリファスとしては、クラウドの部下として撤するために必要ないと思っているだろう。
だが、クラウドからしてみれば、表情豊かな方が彼女は素敵であると思っているのだ。
「まぁ…徐々に変わればいいよ…。エリファスは俺にとって大切なな仲間だからな。」
仲間……クラウドは決して部下とは言わない。それは身分の低い人間であろうとも、下っ端兵であろうとも民であるろうとも、彼にとっては仲間である。
クラウドが慕われている理由といるのが垣間見得るものである。
「仲間ですか…。私のような人間も仲間と言ってくださるクラウド様は私の大切な主です。」
「ははは。照れくさいな。まぁでもありがとう。これからも期待してるよエリファス。」
「はい。我が主。」
エリファスにそう言ったクラウドは再び窓の方を見た。そこには、ムネアジア鉱山が景色として映っていた。
あの向こうには、バイゼル王国が存在する。近く起こるであろう戦いを想像して、薄く笑った。
「もうすぐ…始まる……か…。」




