第二章Ⅳ 極秘作戦
ガチャ……
「入るよ〜クラウド〜。」
「失礼します。」
会議を終え、約束通りにクラウドの部屋へとやってきた2人の女性クリスタとクラリスはクラウドに一言断りを言って中へと入った。
部屋の中には、机の上で作業をしているクラウドの姿があった。2人に気づくと薄く微笑んで2人を見た。
「2人ともわざわざごめんね。あんまり長くはならないから安心して。」
「別に気を使わなくても大丈夫ですよ。急ぎの用事は特にありませんし。」
「クラリスの言う通りだよ。私も特に用事ないし。むしろ、クラウドと居れて幸せ…。」
クラウドが手間を取らせてしまったとことに謝罪をするが、特に2人は気にしていないような顔をしていた。
クリスタに至ってはどちらかと言うと、嬉しそうにしていたのだ。
2人は部屋に入ると応客用の椅子に腰掛けた。そしてクラウドも2人のいるところへと移動した。
「さて、本題にはいるけど、今回の戦いについて俺は奇襲を仕掛けようと思う。」
2人はクラウドの出した意見に驚きが隠せなかった。いつも冷静な表情をしているクラリスも少し、汗が顔から滲み出ていた。
クリスタはと言うと、え?っと疑問符を頭の上に浮かべていた。
「それは正気なのですか?仮に奇襲をしたとしても、こちらが勝てる確率は限りなく低いですよ。」
「そうだよ。いくら人数少ないからって奇襲をしかけても数は向こうが圧倒的に上だから長引けば、こっちが不利だよ?」
全くもって2人の言う通りである。奇襲というのは、相手の不意をつくということでは、有効な手段だが、反面リスクも大きい。
特に今回は二国の兵力に差がありすぎており、クリスタの言う通り長引けば、こちらが劣勢になるのだ。
しかし、クラウドは姿勢を決して崩さず言葉を発した。
「2人の言う通り、奇襲には大きなリスクがつく。だが、それにいくつもの謀略を加えたらどうなるだろうか?」
「「謀略?」」
珍しく2人の息がぴったり合いユニゾンした。思わずお互いの顔を見合わせたが、恥ずかしくなり、すぐにクラウド方へと顔を向けた。
「簡単に言うと、奇襲を仕掛ける前に兵力を削るってことだよ。」
「それってどんなことをするの?」
クラウドの言う兵力を削ると言う意味がいまいちわからないクリスタは尋ねた。
彼女は武芸には秀でているものの、このような軍略や頭脳戦のようなものはあまり得意ではなかった。
逆にクラリスは、知略に優れており、母親譲りの頭脳で謀略を張り巡らすのが上手いのである。
そんな対局な2人はしばし、衝突することもあるが、決して仲が悪い訳ではない。
クラウドもそのへんは理解しており、クリスタになるべくわかりやすい言葉で伝えた。
「まず、相手が行動をしにくい土地に布陣をさせるのさ。例えば、山とか、険しい崖のあるところとかにさ。」
「でも、そんなことわざわざ、相手はしないでしょ?」
まだ理解が追いついていないクリスタはさらに疑問を投げかけた。
一方のクラリスはクラウドの言いたいことがなんとなく察した顔をしていた。
さすが「冷血宰相」と呼ばれるだけである。
クラウドはクリスタにわかりやすいように、机にあった地図を用いて2人の座っている席付近のテーブルに持ってきて説明をした。
「まずここがエルネスト王国の陣地です。そしてここがバイゼル王国との国境となるムネアジア鉱山です。」
クラウドの指指したムネアジア鉱山とはカノンが経営する店の所有している鉱山である。エルネストの東部に位置する標高6581ミリベクト(6581m)の高さの山である。
ここは、超特殊貴金属の取れる産地であり、バイゼル王国との国境の役割も果たしているのだ。
「バイゼル王国の首都はこのムネアジア鉱山からさらに離れたところ、このモリガンというところにある。」
「結構ムネアジア鉱山から遠いね。これじゃすぐには責めれないよね。」
クリスタは地図の縮尺も用いて距離を測ったがとても1日でたどり着けるような距離ではなかった。
つまり、すぐには攻めてくることはないのである。
そして、クラリスは2人の話を聞いて思考している中で、ある一つのことについて気づいた。
「ここは確か1本道しかなかったはず、つまり12万の軍勢を引き連れるにはあまりにも効率が悪いですよね。
そして、1日ではこちらまでたどり着けませんね。」
「よく気づいたな。さすがクラリスだ。」
クラウドに褒められたことに嬉しかったのか、いつも冷静な表情が少し赤く染まっていた。
そんなクラリスを羨ましく思ったクリスタは口を膨らませて、少しだけ不貞腐れていた。
「そんなの、わたしだって分かってたもん!」
「分かった分かった。クリスタも偉いな。」
不貞腐れているクリスタをなだめようと彼女の頭を優しく撫でた。
クラウドの温もりが頭から伝わってきたのか、心地よさそうな顔をしていた。
だが、今度は逆にクラリスがムッとしていた。しかし、姉のように口にすることはなく押し黙っていた。
「2人に頼みたいことがあるのさ…。信頼できる2人だからこそ。」
真剣な顔つきのクラウドにクラリスはムッとした表情を正し、クリスタは緩んでいた顔を整えた。
「クリスタにはバイゼルでこの紙にに書いてある情報を流して欲しい。勿論きっちりと変装をしてね。
そして、クラリスにはムネアジア鉱山付近の村に行って、このお金でありったけの酒を買うように村人にお願いをしてくれ。勿論働いた分の金は払うと。」
そういうと2人はそれぞれ、何かが書かれたメモ用紙と、金貨や銀貨がありったけ入った巾着袋を渡してきた。
2人は当然それぞれ、疑問を抱えていた。何故このようなことをクラウドがするのか。
クラウドの思考には追いつくことができなかった。
しかし、彼は何かを仕掛けようとしている。それだけは分かった。
「いいけど、本当に大丈夫なの?」
「私も少し心配です。軍師であるクラウドさんの言うことは絶対ですが、今回は上手くいくのか…。」
「大丈夫さ、俺を信じてくれ。俺はこの国を必ず守る。クラリア様と約束だからな。」
2人の不安を払拭するような笑みを浮かべて2人を見た。
その顔を見た2人はお互いの顔を見て、うなづいた。この人に掛けて見ようと。
「必ず勝つぞ。2人とも!!」
「うん!」
「そうですね。」
3人は、改めて決意を固めてこの戦いを勝つと誓った。
決して、勝てるという保証のないバイゼル王国との戦い。クラウドはどのようにして勝つつもりなのか?それは本人以外まだ誰も知ることはない。
ドンドン!!
「ん?誰だ?」
ドアを叩く音がしてドアの方へと会議を終えた3人は目をやると勢いよく開いた。
「クラウドーー!!!やったよ!!」
ドアを開けた張本人はエルネスト三姉妹長女で「無能姫」の異名をもつクラリアだった。
彼女は慌ただしく入ってきたが、とても嬉しそうであった。
見ると、彼女の右手には何かが入った大きな袋を掲げていた。
「あれ?クリスタ、クラリス…どうしてここに?」
「お姉ちゃん!?何やってるよ!断りも入れずに入ってくるなんて非常識よ!?」
「クラリア姉さま。その右手のものは?」
クラリアを見るなりに、突き刺すような口調でクラリアを怒るクリスタ。
彼女の少し非常識なところを特に気にしないで、右手のものに気が回っていたクラリス。
この三姉妹はみんな性格が違い、それぞれの色を持っていた。
一方のクラウドはクラリアの歓喜の声の理由について、尋ねた。
「クラリア様どうしました?」
「え?あ、そうそう!!ほら12億ベル手に入れたよ!!これで戦ができるよ!!」
彼女の握られていた大きな袋からはあたり一面が光るほどの輝きを放った金貨が無数に入っていた。
これには普段クラリアをバカにしているクリスタやこの課題をだしたクラリスは驚愕していた。
まさか、無能姫と言われる自分のどうしようもない姉が、12億ベルを本当に集めるとは思わなかったのだろう。
「ほら、私やったよ…?クラウド?無能姫の私だって…出来ることはあるんだよ…?」
クラウドに寄り添うクラリア。彼女の目からはポツポツと輝く涙が零れていた。
姫という立場であるにも関わず、三日間もあっちこっちを回って、時には土下座もして、それでも断られ続けてようやく手に入ったこのお金。
既にこの無数の金貨には12億ベル以上の価値があったのだ。
「クラリア様…。」
涙をこぼすクラリアに思わず抱きしめてしまった。苦しいと言われそうなくらい強くしかしながら優しく。
彼女の涙からは、どれほどの苦労をしたのかがすぐには伝わってきた。
そんなクラリアを見ていた妹2人は、今までの姉に対する認識が少し変わった。
いつも彼女を見下しているクリスタは、自分の非を攻めた。彼女は決して無能ではなかったということに。
クラリスは、無理であるだろうという課題をだして、彼女の力量を推し量ろうとしたが、そんなことも容易く超えた。
「お姉ちゃん…。」
「クラリア姉様…。」
「2人とも…。こんなお姉ちゃんでごめんね…。私に出来ることはこれぐらいだから…。」
妹たちを見てクラリアは謝罪した。自分の非力さを。自分よりもよっぽど優れている2人に何もできない自分が姉であることに申し訳なさを感じていた。
「クラリア様。あなたの頑張りを無駄にはしません。私はあなたに勝利を捧げます…。」
抱きしめていた手を離して向かい合った。クラウドはクラリアを顔を見て真剣な眼差しを送った。
これは彼女に忠誠を誓うようなものでもあった。
そして右手を左胸にあてて、左手の甲を腰へと持っていた。
「我が栄光は姫のために!!」
クラウドの高らかな忠誠の言葉に、クラリアは涙を拭いニッコリと笑った。
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バイゼル王国首都モリガン の城にて…
「ほぅほぅ…。私に手を貸すと?貴公は向こうの人間ではないのかのぅ?」
玉座に座り、横のテーブルからブドウを一つもぎ取り食べている女性の姿があった。
少し癖のあるブラウンの髪を2つの束にまとめて、その頭には王冠があった。
決して胸は大きくはないが絢爛豪華なドレスを身にまとった女性。
そして彼女が見ている先には、ある人物の姿があった。
少し小太りをした中年の男。しかし、質素な服装ではなく綺麗な貴族の着る服を着ていた。
「いえいえ、あのような国どうなっても構いませぬ。私はクラン様にお仕えしたいと思っています。」
「何かエルネストに恨みがあるようだのぅ?まぁいい、名前は確か、レッサーと言ったかのぅ?意見を飲むとしよう。」
クランと言われた名前の女性は、センスで口元隠すように笑い、ある人物の名前を口にした。
その名は確か、エルネスト王国の右大臣であるレッサーの名前を…。
レッサーはクランとの会合が終わると城を後にし、止めていた馬車へと向かった。
「おかえりなさいませ、レッサー様。」
「ご苦労だダブリス。あれは進んでいるか?」
黒のローブに先端に赤い宝玉のついた杖を持った性別のわからない人物がレッサーに話しかけてきた。
それに気づいたレッサーは馬車を今まで見ていたその人物を労う言葉を言って何か考えている計画について話してきた。
「勿論、ほぼ手筈は整っております。」
「ふはは!そうか?よくやった。後は戦いまで待つのみだ…。」
そう言うと、不敵な笑み浮かべて馬車へと乗り込んでいった。
レッサーが乗り込むとダブリスも馬の操縦場所へと乗り馬車を走らせた。




