第一章 Ⅰ
「ふぅ……とりあえず兵糧の確保はできたし、あとは装備の補充くらいか。」
青年は1人、部屋の机に向かって作業をしていた。どうやら報告書を書いており、様々な資料が散らばっていた。
しかし、それも終わったようで今は一息ついているところだ。
彼の名前はクラウド・ヴィルヘルム。エルネスト王国の軍師をやっている。
まだ軍師になって一年ほどくらいで新米なのだ
「ねぇ?クラウド〜。入ってもいい?」
「どうぞ。」
ドアの向こうから名前が呼ばれた。声からして女性であった。
何か用事でもあるのだろうか? 不思議に思いつつも入ることを許可した。
ドアを開けると茶色のロングヘアーの17歳くらいの少女が立っていた。
「クラウド〜〜。膝枕してぇ〜〜。」
甘えた声で、そう言うと彼女一目散にクラウドの元に行き膝枕をするように言った。
この少女はエルネスト王国第一王女クラリア・メルフ・エルネスト。
つまりこの国のお姫様である。一応王位継承者であり、この国の国家元首的な立場である。
「はいはい、ではこちらに来てください。」
「うん!」
とは言うものの、今のその姿は国家元首としては、かけ離れた姿である。
それには理由がある。彼女は表向きは王女として公務を行なっているものの、それはただのお飾りであり、実際に実権を握っているのは、彼女の母親 オリーシャ・マリン・エルネスト女王である。
女王が実権を握っている理由は、夫である国王がもう亡くなっているからである。
どうやら暗殺されたらしいのだ。それはクラウドが来る前の話である。
だから、今第一王女のクラリアが公には継承した形である。
「あ〜、クラウドの膝枕気持ちいい〜〜〜。頭も撫でて!」
「はいはい。」
継承したのはいいものの、彼女は国政にまるっきり関心がなく文化や商業に興味を持っていた。
だから、母親のオリーシャ除く王族や家来たちから「無能姫」と呼ばれる始末である。
だが、クラウドにとっては恩人でもあるのだ。働く所がなく行き倒れていた彼を助けて、雇ってくれたのだ。
クラウドにとっては命をかけて忠誠を尽くすべき人である。
「ねぇ?クラウド〜?私ってやっぱり無能なのかなぁ?」
膝枕をして頭をなでているクラウドに突然聞いてきた。
「いいえ、クラリア様は立派に頑張っていますよ?」
「本当?」
毎回クラウドの部屋に来る度にこのやりとりをしている。あまりにも多すぎて流石にクラウドも少しうんざりしていた。
だが、それくらい彼女は毎日大変な日々を過ごしている。
「今日はクリスタに怒られるし、魔術鍛錬でマキナにボコボコにやられるし……」
「クラリア様は本当に大変ですね。すごいと思いますよ?」
今日もしごかれていたんだな。とクラウドは、心の中ではクラリアに同情していた。
「もう嫌だな……毎日怒らるのも、無能姫なんて言われるのも…」
「………」
やはり、無能姫という呼び名には傷ついているようだった。
そもそも、彼女はまだ17歳であり元首としては、あまりにも若すぎるのだ。一応、執権として母親が補佐についたり、参謀&軍師にクラウドがいたからと言ってなんでも事はうまく進まない。
「大丈夫ですよ。クラリア様。私はいつまでも貴女の味方です。」
哀愁が漂っている彼女につい、クサいセリフを言ってしまった。
クラウドは自分で言って恥ずかしくなってしまった。
「本当に?ずっと一緒にいてくれる?約束だよ?」
クラリアはその言葉に涙目になっており、ギュッとクラウドの服を掴んで上目遣いで見てきた。
その姿にクラウドは思わずドキッとしてしまった。
「さて、これから私は女王陛下のところ報告をしてきますので。」
「お母さんのところに行くの?じゃあ待ってる!」
「行けませんよ。その後はクリスタ様のところに行かなくてはなりません。それに、クラリア様も御用があるのでは?」
流石にずっと部屋にいられるとよからぬ噂が立ってしまうため、そこは彼女のためにも避けた方がいいだろう。
「そういえば、果樹園の下見をしてくるんだった……。」
「でしたら、急いだ方がいいのでは?」
「そうだね。じゃあ行ってくるね!」
クラリアはクラウドに手を振って部屋から出ていった。自分の興味を持つことになるととても元気になる。
これが国政の方にも向いてくれれば…とクラウドは思っていた。
「さて、行くか!」
クラウドもオリーシャへ報告する資料や文書を持ち部屋を出ていった。




