1.妖精王国リティーアにて
獣王国ガルフェリアで女神の神器を受け取った私達は、次なる目的地へと向かう事になった。
その場所とは、エルフ達の暮らす国──妖精王国リティーアである。
レオンハルトお兄様が仰るには、本来ならば夏季休暇の間にはガルフェリアだけへ向かう予定だったそうなのだけれど……。魔族との繋がりが強く疑われるターティルの一件を踏まえて、一刻もリティーアへ赴く事になったのだ。
またターティルのように神器を狙う輩が出る前に、私達が神器を受け取る。
それが済めば、残る神器はルディエル王家が保管する二つと──
「そういえばさ、残りの一つの神器ってどこにあるか、まだ分からないんだよね?」
リティーアへ向かうべく、転移魔法の発動準備に入るお兄様。
その直前に、リアンさんがそんな質問を口にした。
すると、お兄様が即座に反応する。
「ああ。ルディエル国王陛下も総力を挙げて捜索をなさっているのだが、芳しい成果は得られていない」
「保管場所が判明しているものを全部掻き集めても、揃うのは六つまでかぁ……」
「……千年前の戦いでは、巫女エルーレの持つ女神の長杖と、勇者シーグの持つ槍だけでは、魔王に敵いませんでした。今度こそ魔王を打ち滅ぼすには……女神の遺した七つの神器。その全てが必要となるはずですわ」
二人だけでは、無理だった。
けれども今の私の隣には、女神の槍を持つウォルグさんと、女神の双剣を持つリアンさんが居てくれる。
こんな考え方は、都合が良すぎるかもしれないけれど……。
もしも、ルークさんやお兄様……先に学校へ戻っているケントさんや、ウィリアムさん達の誰かが勇士の資格を持つ人だったなら。
私が女神の導きで二度目の生を受け、王子の婚約者である花乙女としてではなく、ただ恋に生きる少女としての道を選び取った事に意味があったのなら。
……そうだったのだとしたら。
エルーレの無念を、私達の手で晴らしてあげる事が出来るかもしれない。
愛する人と結ばれず、自分の命を差し出して世界を延命させた少女の願いを、今度こそ──
「……今は何より、リティーア王家の所有する神器の回収を急ぐぞ」
お兄様の声を合図に、私達の視界がぐらりと歪んでいく。
──次の瞬間、私達は何も無い荒野に立っていた。
「えっ……? お兄様、私達はリティーアに転移したんですわよね?」
「ああ、ここはリティーア領だ」
「で、ですがここは……」
妖精王国リティーアは、豊かな森の中にある自然溢れる国だと伝えられていたはず。
それなのに、この目の前の景色は何だというのか?
見渡す限りの岩肌。木の一本も生えていない、不毛の大地。こんな自然の息吹も何も無い場所が、本当にエルフ達の住む国なの……?
私のその疑問に答えたのは、ウォルグさんだった。
「レオンハルトの言う通り、ここは間違い無くリティーアの土地だろう。……嫌気がさす程に、周囲が真っ白な魔力で満ち溢れているからな」
「ウォルグさん……」
ウォルグさんは……ハーフエルフだ。
その彼の魔力感知能力は、人間である私達よりも優れているはず。彼がそう言うのであれば、お兄様は確実に私達をリティーアに連れて来て下さったのだろう。
ウォルグさんは、更に続けて言う。
「……エルフ共の支配する森は、特殊な結界ですっぽりと覆われている。部外者が森に立ち入ろうとしても、長い荒野をひたすら歩かされる……そんな幻覚を見続ける事になるんだ」
「でしたら、この場所は何も無い荒野などではなく、本当は森の中なのですか……?」
「そうだ。エルフ以外の者を招く際には、あらかじめ案内役が用意されるらしいが……」
すると、ウォルグさんの瞳の色が青から緑に変わり始める。エルフ魔法を発動させた合図だ。
ハーフエルフであるウォルグさんなら、案内役が居なくても結界に干渉出来るのだろう。
その証拠に、どこを見ても荒野でしかなかった景色が、少しずつ鮮やかな緑色に彩られ始めていくではないか。
「凄いな! ウォルグ先輩の目が緑になったら、本当に景色が森の中に変わってる!」
「ははぁ〜ん? こうやってエルフ族は外敵から国を守ってきたんだねぇ。そりゃあ、魔王軍だって攻め入れられなかったワケだよ」
素直に驚くリアンさんに、興味深そうに関心するルークさん。
けれどもウォルグさんはというと、どちらの反応も不快そうに眉根を寄せた。
「フンッ……。エルフの連中は、こんな幻覚を用意しなければ安心出来ないような、小心者ばかりというだけだ」
だから俺達ハーフエルフは、奴らに迫害されて──
そう苦々しく呟いた彼の腕に、そっと手を触れた。
「レティシア……」
見上げれば、少しずつ眼の色が元の青に戻っていくウォルグさんと視線が絡み合う。
私は少しでも彼の気持ちに寄り添えればと、その一心で言葉を紡ぐ。
「大丈夫ですわ。貴方の側には、私が居ます。お兄様も、リアンさんも、ルークさんだって一緒です」
「……ああ」
そのまま下へと手を滑らせて、固く握り締められたウォルグさんの拳を包み込んだ。
私は、ここに居るのだと。私の体温を少しでも多く、彼に感じ取ってもらえるように。
「何があっても、私はいつまでだってウォルグさんの味方です。……私達の絆は、生まれ変わってもこうして巡り会える程に、とてつもなく強いものなのですから」
「そう……だな」
彼が頷くのとほぼ同時に、ウォルグさんの手の力が緩む。
ウォルグさんは一瞬だけ柔らかな表情を浮かべて、
「俺には、お前という無二の存在が居る。少々個性的だが、背中を預けるに値する仲間もだ」
彼は森の奥の方を見詰め、真剣な面持ちでこう告げた。
「……行こう、レティシア。妖精王国の中枢部……ティティア宮に、エルフの女王が居るはずだ」
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