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9.明け方の空の下

 情報屋のマリクから得た情報を元に、俺達三人は機を窺っていた。

 吸血鬼であるルークは暗視が可能であるらしく、ビルスタリカ城近くの森の中に身を隠し、例の商人達が来るまで待機中。

 そして俺とリアンの二人は、城で敵の目を引き付けてくれていたレティシアとレオンハルトに情報を共有した。

 結果、レティシア達は()の監視を担当し、俺達には双剣の奪還を託すと言ってくれた。


「ウォルグ先輩……何か動きがあったら、絶対に起こして下さいねぇ……」

「ああ、分かっている」


 女神の双剣を狙う内部犯の目を欺く為、俺とリアンはそれぞれにあてがわれた部屋で夜が明けるのを待っている。

 リアンはベッドに倒れ込み、数秒後には夢の中だろう。普段から夜更かしはしないようだから、俺やルークのように徹夜で見張りをするのは難しい。

 あっという間に寝息を立て始めたリアンから視線を逸らして、俺は改めて意識を集中させた。

 俺が今しているのは、エルフ魔法による動植物との意識の同化だ。

 エルフ族の血を引く者にのみ許されたこの魔法は、大いなる自然と共にある動物や植物と意思疎通し、その力を借りる事が出来るもの。当然、エルフの母を持つ俺にもそれが扱える。


「……今のところは、特に異常は無いな」


 夜行性の動物達の目を借りて、城の周囲で不審な動きをしている者が居ないかどうかを、定期的にチェックしていく。

 ルークを信用していない訳ではないが、一人だけでは目の届かない範囲もある。室内に居ながらも状況を把握出来るこの魔法は、エルフ族が代々国や里を護る際に重宝してきたものだという。

 ……俺のように半分人間の血が流れるハーフエルフがこれを使うのを、エルフ達はよく思わないらしいがな。


『エルフ魔法は神聖な力。故に、穢らわしい混血エルフに許されるものではない』──だったか。

 母と共に暮らしていた頃、祖国のエルフ達は、そんな風にハーフエルフを見下しているのだと教えられた。

 ……静かな夜に一人で考え事をすると、どうにも昔の事を思い出してしまうな。


 今の俺には、自分(ウォルグ)の過去などどうだって構わない。

 俺を愛してくれるレティシアが居て、共に生きる仲間達が居る。

 だから俺は、あいつらと歩む未来を守るべく槍を振るうんだ。

 遥か過去の自分(シーグ)が成し得なかった役目を果たし、今度こそ魔王をこの手で仕留める……!


 沸々と煮え滾る闘志を燃やしながら、俺は『その時』をただひたすらに待ち続け──




 *




「そろそろ、ですわね」


 明け方、私達の作戦が開始する。

 ウォルグさん達が城下の情報屋から聞き得た情報によれば、何者かに奪われた女神の双剣は、未だこの城のどこかにあるはずだという。

 加えて、今日の朝ビルスタリカ城に来るという行商人は城との関わりが薄く、実績らしい実績も確認出来なかったのだとか。

 そんな怪しい行商人達がこのタイミングでやって来るのだから、ガルフェリア側の内通者──魔王の配下か【ガリメヤの星】と何らかの関係性があると疑うのは、最早当然の事だった。


 すると、私に用意された客室の扉をノックする音がする。

 扉の向こうからは、レオンハルトお兄様の声がした。


「レティ、時間だ」


 予め身支度を済ませておいたので、その声を合図に私は部屋から出る。


「ウォルグさんとリアンさんは、もう先に向かわれたのでしょうか?」

「ああ……その少し前に、()()の魔力が動くのを感じた。どうやら全て予想通りのようだな」

「やはり、ですか……」


 お兄様の発言に、私は目を伏せた。

 リアンさんと理事長の手合わせの最中に忽然と姿を消した、女神シャルヴレアの遺した双剣。

 あの場で双剣の近くに居た人物といえば、私達以外には玉座の間に居た陛下をはじめとする、獣王国ガルフェリアの人々──タルガランド陛下とターティル様、そしてホーキンス様率いる兵団だけだった。


「やはり……やはりあの方が、国を裏切っていたのですね……」


 双剣を奪い、行商人を演じた者達に双剣を受け渡し、国外へ持ち出そうとしている人物。

 その行いは自身の仕える国王を裏切るだけでなく、魔王の脅威に抗う全人類の敵だという証明だ。


「世界全土を敵に回そうというのだ。裏切り者の(そし)りを受ける覚悟など、とうの昔に出来ているはずだろう。お前が悲しむ必要など無いのだぞ」

「そう……ですわよね。女神の双剣を奪うのなら、私達は立ち向かうしかないのですもの」


 お兄様の励ましを受け、私は無理矢理にでも自分を奮い立たせた。

 私がこうしている間にも、事態は今も動いている。


「……行きましょう、お兄様。ウォルグさん達に加勢しに参りましょう!」


 するとお兄様は、口元を緩ませて魔法の構築を開始した。


「それでこそ、俺の自慢の妹だ。油断せず、確実に賊を生かして捕らえるぞ」

「はいっ!」


 そして次の瞬間、私達は場外へと転移した。




 視界が屋外へと移り変わる。

 転移魔法独特の浮遊感が残りながらも、私は目の前で起きている事態を理解すべく頭を働かせた。

 私がレオンハルトお兄様と共に転移した先は、ビルスタリカ城の裏門だった。昨日の内に場内を探索したので、ある程度の構造は把握している。

 そこでは既にウォルグさんとリアンさんが武器を手に、柄の悪い商人の格好をした男達と争っているところだった。

 七人の男達は、商人にしてはやけに戦い慣れた様子で、勢いに押されながらも手数を武器にして応戦している。

 こんなに戦い慣れた商人など、そうは居ない。やはり正体は山賊や盗賊紛いの連中だと見て間違い無いだろう。


「その程度か!? 俺を本気で殺すつもりなら、死ぬ気で挑んで来るが良い!」

「ひいぃっ!」


 黄金に輝く女神の槍を振るいながら、ウォルグさんが灰色の髪を乱して暴れ回っている。

 間も無くして、彼の迫力に圧された商人紛いの一人が手にしていた剣を弾き、上空を回転しながら地面に突き刺さった。


「どりゃあッ!!」


 ウォルグさんは、武器を失い無防備になった男の懐に急接近。間髪入れずに腹に強烈な蹴りを叩き込み、そのまま男は後方に吹き飛ばされる。

 男はピクリとも動かなくなり、瞬く間に一人を無力化する事に成功していた。

 けれども商人達の数は七人から六人に減っただけで、ウォルグさんとリアンさんそれぞれを囲む敵はまだ多い。

 しかし──


「ぐぼぁっっ!?」

「がはッ……!」


 無詠唱で水魔法を発現したお兄様の手によって、リアンさんと対峙していた二人の頭を、水球が音も無く包み込んだ。

 突如として呼吸を封じられた男達は、頭全体を覆う水を払おうと必死にもがく。完全にパニック状態に陥った彼らに向け、リアンさんが素早い身のこなしで接近し、二人の剣を叩き落とした。


「加減はこの程度で良いか……」


 とお兄様が呟くと同時に、水球が弾け飛ぶ。

 ようやく呼吸する事を許された男達は、盛大に咳き込みながら両膝を折り、どうにか空気を肺に取り込もうとしていた。

 しかしそこに、リアンさんからの更なる一撃が繰り出される。


「そりゃあっ!」

「ぐえっ!?」

「ゴハッ!!」


 背中を丸めて四つん這いのような状況だった二人の背中を、リアンさんが軽快なステップで次々に踏み台にしたのである。

 そのまま二人は地面に倒れ伏し、リアンさんは二人目の男の背中を思い切り踏み込んで飛翔した。勢いを付けて飛び上がった赤い剣士は、呆気にとられて立ち尽くすもう一人の男に向けて、正面から強烈な蹴りを浴びせる。


「グオォアッ!?」


 加速を付けて顔に蹴りを喰らった男は、人形のように吹き飛ばされて地面を滑り転がり……沈黙する。

 その間に、ウォルグさんを囲んでいた残りの三人との決着も付いていた。

 見事な手際で商人紛いの賊らしき一団を鎮圧したところで、私達の背後──裏門から城内に通じる外通路の方から、驚愕するある人物の声が漏れた。


「こ、このような……はずではっ……!」


 ウォルグさんの、リアンさんの、そして振り返ったお兄様と私の視線が、その声の主へと注がれる。

 そこに立っていた者こそが、今回の事件の首謀者であり……女神の双剣に込められた魔力を隠蔽し、城内に隠し通せる手段を持った人物だった。

 私は()()()()を鋭く睨み付けながら、意識を集中させていく。


「何故だ……一体どこから情報が漏れたというのだっ!」


 作戦が暴かれ、密かに双剣を持ち出すというルートを潰されたその男は、『しわがれた声』で叫びながら、私達に向けて火の玉の雨を降らせた。


「堅固なる壁よ!」


 けれどもその炎が私達の身を焦がすよりも先に、先程から私が練り上げていた魔力が障壁となって、その熱すらをも防ぎ切ってみせる。

 魔力で構築された無色透明な壁と、無数の火球がぶつかり合い、目の前で火の粉が飛び散った。

 それらが霧散した後に見えたのは、苦々しく表情を歪ませたローブ姿の獣人──タルガランド陛下の忠臣であったはずの亀人族の老人、マーカス・ターティルその人であった。

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