5.元悪役令嬢系女子と雑食系女子と薄幸系女子の会
今学期の成績について語り合い、一通り騒いだ後は、女子だけでのショッピングの時間がやって来る。
午前中に終業式が終わったので、買い物ついでにランチも済ませてしまう予定だ。
「楽しみだなー、アルマティアナ! 南国のリゾートなんて、あたし生まれて初めてですよぉ!」
校門を出たあたりで、ミーチャが興奮気味に目を輝かせて言う。
「あ、でもレティシアは公爵家のご令嬢だし、サーナリアだって商会のお嬢様だったんですよね? やっぱり、二人はそういう場所に慣れてたりするんです?」
……物心つく前にバカンスに連れて行ってもらった、という話は聞いている。
けれども、私自身が覚えていない旅行を、自身の経験としてカウントしても良いものなのかしら?
以前の人生では、セグの花乙女に選ばれるべく、様々な勉強やレッスンに励む日々が続いていた。
そのせいもあって、遠出をする余裕はほとんど無く……。最初の花乙女として選ばれたのは、ルディエルの学院に通い始める前の事だった。
公爵令嬢に相応しい生活は送れていたはずだけれど、途中から生活の基盤を後宮に移した私は、実はそれほど旅行らしい旅行の経験が無かったりする。
「……私は、ほとんどそういった経験はありませんわ。ですから、今度の遠征はとても楽しみにしていますのよ?」
今の人生でも、すぐに家を出てミンクレール商会でお世話になる道を選んだから、それほど変化がある訳でもない。
しかし、セイガフ生として討伐遠征で見知らぬ土地に赴くのは、ある意味旅行であるとも言えるだろう。
そう考えれば、以前の私よりも多くのものを見られている。
「わたしも、レティシアさんと同じですね。療養中は……滅多に外には出られませんでしたから」
「あ……悪い事聞いちゃいましたね。無神経な話を振ってしまって、すみません」
顔を曇らせたミーチャに、サーナリアさんが首を横に振って反論した。
「良いんですよ、ミーチャさん。わたしが療養生活をしていた場所は、リゾートとは言い難い所ではありましたが……。空気が美味しく、緑がとても豊かな土地でした」
サーナリアさんは、胸に手をあてながら穏やかな表情を浮かべる。
「……そのせいもあってか、昔から他の景色を──青い海を、見てみたいと思っていたんです。だから、こうして皆さんとアルマティアナに行けるのが、楽しみで仕方が無いんです」
彼女の声には、どこか寂しさを感じた。
それと同時に、もうすぐ訪れる機会への希望も滲ませたサーナリアは、私達に笑みを向ける。
「それなら精一杯海を楽しみましょう、サーナリアさん」
「ええ……!」
足取り軽く、私達は目的の店に到着した。
大通りに面したカフェに入り、美味しいと評判のサンドイッチをそれぞれ注文する。
ふわふわのパンには玉子とベーコン、レタスにトマトが挟まれていて、見ているだけで食欲をそそられる。
店員さんにお勧めの紅茶も頼んで、それを堪能して、少しまったりしてから店を出た。
腹ごしらえが済んだら、次は今回の最重要目的となるアイテムを調達に向かう。
リゾート地。
南の海。
そしてビーチ。
ここまでヒントが揃えば、私達が何を欲しているかは一目瞭然だろう。
そう──
「わー! この水着、可愛い〜!」
ミーチャが歓喜の声をあげたのは、ミンクレール商会のとある一室。
アルマティアナ行きが決まってすぐに、私とサーナリアさんは、商会で水着を用意してもらおうと話し合っていたのだ。
入学前まで私のビジネスパートナーだったマルコさんを通じて、夏に向けた新作の水着を何点か揃えてもらった。
水着を選ぶのは勿論、試着もしなければならないので、彼には退室して頂いている。
「それ以外にも……ほら、こちらもミーチャに似合うのではありませんこと?」
大きな籠の中から私が手に取ったのは、オレンジ色の布地に白い花をあしらったビキニ。
彼女の柔らかなミルクブラウンの髪と、活発なイメージにピッタリの水着だと思う。
早速ミーチャはそれを受け取ると、カーテンで仕切られた向こう側へ姿を消した。
一方、サーナリアさんはうーんと唸りながら籠の中を覗いている。
「サーナリアさん、どうかなさいました?」
「あ、いえ……」
「貴女好みのデザインがありませんでしたか?」
「そんな事はありません。ただ、レティシアさんに相応しい水着はどれなのかと、ずっと悩んでおりまして……」
彼女も将来、ここで働く身。
相手の為に商品を選ぶ目を養うのは、この先重要なポイントの一つだ。
けれど、サーナリアさんには大きな見落としがあったのである。
私は、彼女にこう告げた。
「私の為に水着を選んで下さるのは、とても嬉しいです。けれどもサーナリアさん、何か気が付きませんこと?」
「…………?」
首を傾げる彼女を前に、私は適当に籠の中から一着を選ぶ。
「この中にあるのは、スレンダーな女性……といいますか、少し幼い……若い身体つきの方向けの水着です」
サーナリアさんは、自身が両手で持つ水着と私を何度か見比べた。
そこで、彼女はハッとした。
「……! そういう事だったんですね、レティシアさん!」
「ええ、そうです。この水着は……私には着られませんの」
彼女の視線は、私の身体のある一点に注がれる。
十五歳の少女にしては発育の良い、お母様譲りの女性の象徴だ。
「レティシアさんの体型だと、わたしやミーチャさんに向けたサイズでは、とても収まりきらない……ですね……」
「ええ……。喜ばしいのか悩ましいのか、自分でも判断に困りますけれどね」
レオノーラお姉様には及ばないけれど、私は彼女達よりも発育が早いのか、それなりに乳房が膨らんでいる。
それは制服の上からでもよく分かる丸みで、年齢を重なるにつれて、それは大きさを増していた。
胸が大きいというのは、男性受けがとても良い。同時に、同性にもある程度は羨まれるステータスだ。
しかし、この年齢で支えが無ければ歩くだけで揺れるサイズなのだから、一般向けの衣服では着られないものが多いのだ。
先程サーナリアさんにも言った通り、この水着は私には着られない。例え、どれだけ可愛いデザインだったとしても……!
だから私はこんな事もあろうかと、以前から別で私用の水着を頼んであった。
「私のサイズに合うものを今日受け取る予定でしたので、代わりと言っては申し訳が無いのですが、私にサーナリアさんの水着を選ばせて頂けませんか?」
「わ、わたしの水着を? ええ、レティシアさんのセンスの良さは聞き及んでおりますから、こちらとしても願ったり叶ったりと申しますか……」
「では決まりですわね。……ミーチャさん、着心地は如何ですか?」
カーテンの向こうに居るミーチャは、丁度着替えを済ませたタイミングだったらしい。
私が声を掛けるとほぼ同時にカーテンが開く。
「サイズはピッタリですね! どうでしょう、似合ってますかね?」
「その場で、くるっとターンをして頂けますか?」
「はーい!」
指示通りに一回転したミーチャ。
やはり、明るいオレンジ色は彼女によく合っている。
私は満足げにそれに頷くと、ミーチャは嬉しそうに笑った。
「とてもよくお似合いですわ! 水着はまだ何着もありますけれど、他のものも試してみますか?」
「ううん、あたしこれが良いです! このお花の模様が可愛いし、胸元についたリボンも気に入っちゃったので!」
「それは良かった! ではサーナリアさん、貴女はこちらをお試しになって?」
続いて私がサーナリアさんに手渡したのは、パステルピンクにフリルのついたビキニ。
それを見た彼女は、顔を真っ赤にして慌てだしたではないか。
「び、ビキニですか!?」
「あら、ビキニはお嫌いでしたか?」
「だ、だってその……あまりにも、肌の露出が……っ!」
私はそっと彼女のツインテールの一房に手を伸ばし、その滑らかで光り輝くような金髪を指先で撫でた。
「露出は若い内にしか出来ませんわ。こういった事は早くに楽しまなければ、後になって悔やんでも遅いんですのよ?」
「そ、そうは言ってもですね……!」
「初めての海なのですから、素敵な思い出にしたいではありませんか。私にとっても、大切な友人達との思い出作りですから……」
*
レティシアがサーナリアさんの毛先を弄び、その優雅な顔立ちに慈愛の女神が如き微笑みを宿らせる。
サーナリアさんはビキニへの恥じらいか、それとも彼女からの熱烈な賛美の言葉への照れなのか、白い頬を薔薇色に染め上げた。
そしてあたし──ミーチャは、興奮していた。
目の前で突如として繰り広げられる、金と銀の美少女達による甘い空間。
二人のバックに白百合が咲き乱れ──多分きっとこれは幻覚──夏を目前にした部屋の空気は、一気に常夏の楽園のような華やかさで満たされていた。
……夏なのか百合園なのかハッキリしろ、とか言わないでほしい。あたしだって、目の前で起きている現実を直視するのに精一杯なんです!
ああ、美少女って最高ですなぁ!!
「……分かりました。に、似合わなかったら、絶対に当日着て行きませんからね!?」
「着て頂きます。絶対にお似合いですから」
「ううぅ〜……」
自信満々に言い切ったレティシア。
サーナリアさんはあたしに助けを求めるような目を向けてきたけれど、残念ながら味方にはなれそうにない。
何故なら、あたしもサーナリアさんの水着姿を拝みたいから!
美少女の水着最高! 可愛い女の子万歳!!
あたしと入れ替わりで場所を移した後は、サーナリアが着替えている間、レティシアはどんな水着を選んだのか話を聞いた。
でも、それは当日までのお楽しみだと言われてお預け状態。
もう昨日の内に試着を済ませていたらしい。ミーチャさん大ショックである。
だけどアルマティアナで水着の二人と遊べるのは間違い無いから、寮に帰ったら遠征の準備と、「もうすぐ帰れるよ」って手紙を家族宛に書いておかないとですね!
それに、楽しみな事はまだまだあるんだから。
だって海だよ? 水着ですよ?
リゾートなんですよ?
水着の男女が揃えばラブへの発展間違い無しでしょ!?
お調子者なのに、顔と成績だけは完璧なウィル。
そして無愛想でちょっと近寄りがたい一匹狼。でも明らかに過保護な面を覗かせているウォルグ先輩。
不定期に開かれる夜の女子トークでは、何やら二人から告白されちゃったみたいじゃない?
あと、レティシアはこの商会で二年も働いてたっていうんだし、ケント先輩とも何かあってもおかしくないでしょ?
それに、鈍感そうだけど、リアンだってレティシアの事は悪く思ってない。
ルーク先輩は……髪と背が伸びて大人っぽくなって、前よりレティシアによく絡むようになったんだよね。この前だって二人きりで話があるとか言って、生徒指導室に行ってたし。
何なの、レティシアを中心に乱れ咲く恋のハリケーンですか!?
めくるめくラブロマンスの必殺コンボ、決めちゃいますか!?
はー、レティシアしゅごい……!
男も女も虜にしちゃうとか、ウィルじゃないけどホントに女神のような女の子なんですよね〜!
いやー、これは男子達の行動から目が離せませんなぁ、コレは!
ああ……なんか興奮しすぎて暑くなってきちゃった。
大事な大事な友達の恋、あたし目一杯応援しちゃいますからね! レティシア!!




