8.残虐な殺戮
全身全霊に力が漲る。
心身共に燃える盛るような感覚に囚われる。
どこかで味わったことのあるような感覚だった....。
しかし、思い出すことができない。
熱い。熱い。熱い。すごく熱い。
しかしそれと同時に、体の奥底からエネルギーが湧き出てくる。
目に見えて腕の血管が跳ね上がり、毛細血管が脈動している生々しい様子が目に焼き付ける。
なんだこれは....。
そしてさらに身体が肥大化しているような感じがする。
何とも信じられないことが体内で発生した。
こんなことをしたら身体中の細胞や組織一つ一つが破壊される。
少女がこちらを見て、口が裂けるほど吊り上げて哄笑していた。
興奮しているのか...。
悍ましい声を放っている。
しかし、その場にいた者達はその少女には目も暮れず、ただじっと俺を見ていた。
それはまるで「化け物」を見ているかのような目をして。
そして俺は再度自分の身体を見ると、人間とは思えないほど身体の至る所に筋肉が付き、血管も浮き出ている。まるで猛獣だ。
俺は自分の身体を見て怖気づいた。
なぜこんなことになっているんだ...。
俺は人間なのか?
いや、「生物」だ。
「生物」は名の通り、生きている物だ。
死ぬわけにはいかない。
たとえ寿命が短期で儚い運命が待っていたとしても、最後の最後まで生きるのを諦めないのが「生物」だ。だから俺は本能に従いただ生きた。
そしてこうなっただけのはずだ...。
「おい、お前ら。ここにいると危険だ今すぐ逃げろ。こいつは俺が片付ける...」
返答こそなかったが、俺に恐れて逃げるようにして幾つもの足音が遠くなっていく。不愉快だ。
自分があの少女と同様、化け物扱いにされている。 糞食らえだ。
こっちは決死の覚悟で今から闘争するというのに...。
顔に皺がいくつもできる。
あいつらに激怒したのではないが、とにかく苛立った。
早く事を済ませたかった。 こいつを...、即座に殺してやる...!
瞬殺だ...。
さて、どう殺そうか...。心臓を一発、手で突き刺し抉り出すのもいい、そもそもこいつに心臓があるかどうかも定かではないか...。
なら、より正確に殺すために、まず首を切断してから怯んだところで身体中をバラバラに切り刻むのが...ってーーーー
俺は何を考えているんだ...。
殺し方何てどうでもいいだろうが。
とにかく殺せば。そう、殺せば。
だから、バラバラにするのが容易でかつ安全性に勝る...。安全性?
何だそれは。 とにかく、今はこいつを殺せばいいだけの話だ。
頭は空っぽにすればいい。
意識が混濁としたまま俺は全速力で少女の元へ走る。
向かい風を大きく浴びる。それほどにも速いということか...。
少女の前に、蜘蛛型のモンスターが立ち塞がる。
「邪魔だ、ちんけが....」
蜘蛛は一瞬にして口内で網状の槍を生成。そして、それを噴射。
俺は本能のままに身体を動かし、前から迫ってきた槍をいとも簡単にそれを右手で横から掴む。
手が風圧によって削らたが、少しかゆいほどの感覚にしかしなかった。
そしてまた、本能のままに反撃に出る。
向こうがまた槍を放ってくる前に、先ほど蜘蛛が噴出して、今は自分の物となった槍を投げ返す。走行しながら投げたことで威力が上昇。
竜巻の如く高速に槍が回転しながら噴出源に戻り、そのままあの巨体を脳天から突き刺さった。
「いいねぇ~。いいねぇ~...!!」
暗紫色の血液が脳内から外界へと噴出する。
それが壁に粘着すると、蒸気が発生し、先ほどまで岩だった壁の一部が今では、溶けて炭になる。
なんだか面白い血液を持ってるじゃねぇーか。
次は近接攻撃に出る。
俺の高速の走りにより、いつの間にか蜘蛛との距離は目と鼻の先にあり、俺は蜘蛛の横腹に回し蹴りを放つ。さらに血が噴き出す。
それが身体の各所にかかった。
「ぐ....」
痛烈な痛みが身体中にはしる。
それもつかの間。皮膚は焼け焦げることはなく、少々朱色に染まっただけだ。
所詮この程度か...。
するといつの間にか蜘蛛を迂回して、俺の後ろにきた少女が鎌を振り下ろす。
回避が間に合わない...。俺は仕方がなく攻撃を受けた。
しかし、小さい切り傷しかできなかった。
「ははは...!!!」
俺は自分の鉄壁のごとく強固な肉体に興奮した。強すぎるぜ...。
前までは視線に入るだけで怖気づくほどの恐怖していたが、今では反転。
少女はまさか自慢の鎌が通用しなかったことに驚きを隠せない。
そして力の差を思い知らされた。
俺は優越感に浸る。
殺気もどんどん増していく。
今の膂力ならこいつも片手で握り潰せるだろう。
俺はまず蜘蛛を渾身の蹴りで壁の方向へ蹴り飛ばす。
見事壁に直撃し、その中にはまる。
なんとも可哀想なやつだぁ....。
そして俺は視線を少女の方へ殺る。
こいつはもう平静を保っていない。
そして、鎌を手から外し、それが地に落ちる。
モンスターでも絶望するときた...。
そして、恐怖の表情をし、人生の終焉だと悟り、脱力したようになった。
人間を演じるんじゃねぇ...化け物が...。
俺はさらに焦燥感に支配される。
「くそがくそがくそが。調子乗ってんじゃねぇ!モンスターのくせに!!何人間みてぇに悲しんでやがる!お前らは戦うことしかできない野郎だろうがよぉお!!」
俺は喧騒な声で怒鳴りつける。異様な光景だ。
モンスターが人間を恐れる。
前例にあったのだろうか。
微動だにしない少女に俺は近づく。もう容赦はしない。この手で俺の目からお前が見えなくなるまでズタズタに切って殺る!!
俺は爪を鋭利な刃のように先端を尖らせる。
そして、それをに少女の首へと差し込む。
「ゴアォッ...アッ...ゴク...ァ...。」
声帯が破壊され、赤色の血が出る。
体内まで真似をしているのか...。
手で俺の腕を離そうと、掴んで来るがもう無力で何の力も入っていない。
俺はさらに痛みを味合わせてやるようにグリグリ捻じり回す。
咀嚼音に似た音がし、さらに人間と同色の血が溢れ出る。
見ていてさらに憤怒の感情が湧く。
次に、右手で顔面を刺す。そして双眸の眼球を抉り出す。
「あ....ぐ..ぁ...!!!!!!!」
声は出ないが、もがき苦しんでいるのがわかる。俺はそれを冷めた目で睨み、最初に首に刺した手を外す。
途端に、手に赤黒い液体と一緒に気管のようなものも刺さってある。
それを投げ捨てる。
そしてさらに....
刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。
楽しい!楽しい!楽しい!!!
楽しい!楽しい!楽しい!!!!
楽しすぎる...!!楽しすぎる...!!
刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。切る。刺す。切る。刺す。切る。刺す。切る。刺す。切る。刺す。切る。刺す。切る。刺す。刺す。切る。刺す。刺す。刺す。切る。刺す。切る。刺す。刺す。刺す。刺す刺す!刺す!刺す!刺す!刺す!
何者かに頭が支配されているような気がするが、俺は続ける
刺す。刺す。刺す。刺す。抉る。抉る。抉る。抉る。抉る。刺す。刺す。刺す。抉る。刺す。抉る。刺す。
楽しくて仕方が無い。
俺は永遠とただ嬲り続けた。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「はぁはぁ....」
果たしてどれほどの時間が経ったのだろうか。
いつの間にか身体をが元通りになっており、全身が真っ赤だ。
生臭い匂いが鼻孔を刺激する。
そして、ようやく理性を取り戻し、先ほどを顧みる。
自分がやった残虐的な行動。
自分がとった嗜虐的な思考。
その全てが非人道的で、悪魔のように殺傷を愉悦していたことに気づいた。
こんなの一般の人間が取るような行動じゃない...。
俺は絶望し、地に体を突っ伏した。
何てことをしたんだ……。
すると、かなり後方から微かに人の嗚咽が耳に入る。
もう声とも言えないほど掠れていて聞こえづらかった。
振り返ると、そこに人が一人いた。
まるでずっとそこにいたかのように...。いや、事実ずっと居はずだ...。
一人だけ逃げていなかったのだ。
俺は衝動的にそちらの方向へと全速力で駆け、双剣を鞘から外す。
刹那、そいつの首は既に体を構成する一部では無くなっていた。