7.鮮血の晩餐会
主人公名前変わりました。
アラタ・ヘルシャヴィン→アレク・アンドロメダ
剣聖は自己の失態を恥じ、絶望に満ちたように落ち込んでいる。
表情こそ見えないが、外見からでも相当の度合いだということがわかる。
相当ショック受けたんだな...。
そうこうしている間にも、徐々に叫声が耳に届きやすくなる。
それと同時にその甲高い声が異常だということに気づいた。
悪魔のような恐ろしい叫び声...。
直感で「あいつ」だとわかった。
この場にいる全員が体を硬直させる。そう全員が。
あの褐色少女までもが陰惨な光景を目の当たりにしたように双眸を見開いてる。
そして時間は刻一刻と経過し、ついに頭が警鐘を激しく轟かす。
前みたいに、逃げろ!と脳から命令が飛び出て来た。
もう、声がはっきり耳に伝わる距離まで近づいた。
そこでようやく場の一人、剣聖が足を走らせた。声が聞こえる反対側へと駆ける。
それに誘導されるように場の者たちも剣聖の後を追う。
もうパーティーなんていうシステムは成立していない。
ここはとにかく猪突猛進に状況を一時打開させなければならないと、即座に全員は悟った。
そして遅れをとって俺も後を追う。
理性を保っているかどうかも定かではない。もう無我夢中だ。
しかし、つい振り返ってしまうと、反対方向から「あいつ」が姿を現す。少し遠かったのでシルエットしか見えなかったが、その佇まいから「あいつ」だと瞬時にわかった。
そして「あいつ」は、まだ自身との距離がそう遠くない人を二人見据える。
いや、睥睨する。
名前ははっきり覚えていないがそこそ有名な奴らだった。
しかし刹那....
そいつらの胴体から上が何らかの猛烈な衝撃により粉砕されたかのごとく、大量の血飛沫が噴き出した。
壁や床に赤黒い液体で染められた。
一人は自分が死んだのかもわからず、息の根を引き取っただろう。
頭が吹き飛んだ後にすぐ、体の中の物が全てごそっと抜け取られたように支えを失って倒れた。
そんな無惨な光景を俺は見てしまった。
俺はそれを見たため、生理的に耐えきれず、喉の奥から吐き気がこみ上げてくる。
何とか吐き出すのは阻止できたが、気持ち悪い気分だ。
そして、また前を振り向き、無我夢中に走り続けた。
ずっと同じ道を歩いているかのような感じだ。
一体どこに向かっているのだろう。
そして、少し広めの部屋へといつの間にか着いていた。
途端に、前方で走っていた者たちが突如と急ブレーキした。
頭上を見ている?何かあるのだろうか。
おれはそれにつられ、頭を上げる。
すると、そこにいたのは全長4メドル(メートル)にも及ぶほどの巨大な蜘蛛型のモンスターだ。
不気味な白い毛を生やしている。
口内で網状の物を咀嚼し何かを生成しようとしている。
俺はそれのやろうとしたことがわかり、反射的に叫んだ。
「網を噴出する気だ、今すぐこいつから逃げろ!。」
それを聞いて周りの者は四方八方に身を預けた。
予測通り、蜘蛛型モンスターも口内から体を一発で貫通しそうなほど先端が尖った網状の槍を噴出してきた。
口内の高温の唾液により熱せられ、強固されたのだろう。
殺人的な破壊力を伴っている。
それが地に着いた瞬間、風圧が周囲にかかり、鼓膜を刺激させるほどの効果音がした。
何とか初撃は全員、躱せたようだ。
しかし一撃だけに止まらず、さらに追い討ちをかけるかのように幾つもの網状の槍を生成し、再度噴出。
その方向にはピーナッツ野郎が居た。
一撃で殺せるように、丁度胴体の中心より少し右の心臓の位置を狙って来た。
それを体を右方に仰け反らせ、間一髪避ける。しかしそれでも噴出したときと一緒に出てきた風圧により、肉を少し切り裂く。
少量の鮮血が胸の位置から滴った。
ピーナッツ野郎の顔はもういつもの顔ではない。
死の狭間を彷徨っているような顔だ。今にも発狂しそうなほどに、豹変している。
そこで、逃げて来た方向から叫び声が聞こえる。
追いついてくる...!!
蜘蛛型モンスターはスルーしてさらに少女の反対側へと一斉に全員が駆ける。
しかし、蜘蛛型モンスターはそれを見逃しまいと、今度は先刻より一層、強靭で大きな槍生成する。
外見からでもその槍の恐ろしさが目を通してわかる。
それを口内から吐き出す。
そして、貫通する。
早すぎて残道すら見えなかった。
いつの間にか一人殺された。
網状の槍が体を貫通し、さらにその奥にある壁に深々と突き刺さる。
何と凄まじい破壊力なのだろうか。
こんなの喰らったら当然一溜まりもない。
貫通された者、確か名前はフィーベル・アーレイと言った。
名門の家の騎士だ。
そいつの胴体に大穴が空いていた。
そして血だまりができる。その血だまりの中には腸と言ったものも目に入る。
この場にいる誰しもが口を開いたまま呆然と見ていた。
陰惨すぎる...。何とも残虐なんだ...。
ここにいる全員の顔色が絶望に満ちて居た。
こんなの勝てるわけがないと...。
俺は走馬灯らしきものを見たような気がした。意識が朦朧とするが、ここで諦める訳にはいかない。
しかし、足を動かそうにも力が入らない。
そのまま尻から地面へ着く。
周囲同じように腰が抜け、地面に着く。
すぐそこに、蜘蛛とあの少女がいる。
彼女は蜘蛛を撫でる。そして俺らの方を見て、嗜虐的な表情を浮かべ、口の端を吊り上げる。微笑する。
その不気味な嗤いを見ていると、理性を保てなくなる...。
何とも悍ましい...。
彼女は蜘蛛を撫でるのをやめ、こちらに歩いてくる。
妙に足音が響く。
これが死の間際なのか...。
僅かな距離だが凄く長く感じる。
そしてふと、セピア色になった過去の記憶を思い出す。
迷宮探索初っ端で雑魚にボロボロにやられ、酒場で馬鹿にされ笑われた日々。
そして最愛の妹の顔が思い浮かぶ。
あいつは二年ほど前永遠の眠りについた。
突如と二年ほど前に、全帝国で流行した未知の病気を長い間、患っており、寝込む日々が続いた。
治療法も判明していない病気で、ただ寝込むしかなかったのだ。
俺はモテるために迷宮探索を始めたのは自分を騙す虚偽でしかない。
実際は妹だけに苦しみを味わせたくないという俺の自分勝手な行動だ。
自分も心身共に傷つかないと自分自身に気が済まなかった。結局は自分のことだ...。
そして、まともに寄り添うこともできずに妹は死んでしまった。
俺のせいで....。
永遠に自分を悔やむと俺は精神的に死ぬかもしれない。
だから、俺はそれはなかったことにして、自分自身を今まで騙し続けた。
モテたい何ていう訳も分からない理由で迷宮に潜り、新しい自分として…。
俺は焦燥に満ち溢れる。
後悔したってしょうがない。
前を見るしかない...!
相手に償うことはできないかもしれない。
でも、自分を償うことはできると今なら断言できる。
だから俺は前に進まなければならない!
あいつを...殺す!
剛毅になれ。敵を恐れるな。
逃げ道は塞げ。理から外れろ。
ーーーーーーあいつだけに目を殺れ!
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