6.戦闘準備
この場に居る全員が自己紹介を終え、今度もまた剣聖アリオンから開口した。
この場を牛耳るつもりなのか...。
しかし剣聖様ときたらさぞかし十全な野郎だと思うので、俺は負けじと、ひけらかしたかったのだが、一時的にこの場の指揮を預けた。
まぁ誰も俺が仕切るのを望んじゃいないと思うが...。
「ここ、まぁ一応迷宮としよう。迷宮に来る前皆の者は何処にいたのだ」
その問いを聞いて過半数以上の者が顔を顰めた。
それは俺も同様だ。
ついさっき阿鼻叫喚な目に遭われたばかりだ。死に物狂いで逃走し、鎌に触れられた末ここに来たわけだが...。
少し回顧しただけで、あの残虐な少女が鮮明に浮かんでくる。
他のやつもそうなのだろうか。
そこで女騎士グレネイダが俺の思ったの通りに「死霊のような女に襲われた」と発言した。
確かに死霊とも言えるほどの恐ろしさが感じられる。
それを聞いた他の者も頷き、自体の発端はついた。
その少女によってここにいる数々の戦士が一つの部屋に集められた。
徐々に人が増えて行ったのは、鎌に触れられた時間に差があったからとかだろう。なら何体もあの残虐で身の毛もよだつ少女がいるということなのだろうか。
考えただけで、失神しそうになる。
てか、俺が一番早くここに来たから一番弱いって意味じゃ...ないよな?
そして、剣聖アリオンは続けて問いかける。
「ここに来る前の最後はどのようなことをされたのだ」
この問いの返事に関しては意見の食い違いがあった。
縦横無尽に言葉が飛びかかる。
しかしそれを剣聖アリオンは威厳な態度だけで制し、話しやすくした。
中には鎌、剣、斧などの武器類の者もいれば、「噛まれた」だとか、「喰われた」だとか...。ってそれ根本的何かが違うだろ。あんな少女がこんなガキでもない人間を喰えるわけ...。
まぁあんな化け物だ。
一理あるかもしれない。
多少の筋違いはあったが、剣聖アリオンの統率力と収拾力によって難なくまとめられた。
非常に話が上手いやつだ。
そして次に剣聖アリオンはこの場の誰もが疑念を抱いた、ここに数々の六帝国でもかなりの実力者を収集した理由だ。
これの問いに対しては、誰一人言葉を発さず口を制し、脳を大いに働かせた。
一刻の静寂....
その静寂がやけに耳に焼けつけるような感じがした。
誰もこれには返答出来なかったので、一時保留となった。
これが気がかりなんだけどな...。
凄く嫌な予感がしてならない。
小一時間ほど経過したのだろうか、剣聖アリオンを筆頭に議論を固め、大体の状況の整理はできた。
しかし根拠がないものばかり。畢竟、憶測でしかない。
まぁ一応あった方がマシだろう。
その憶測とは、少女は空前絶後のダンジョン内モンスターであり、強い奴の前のみに現れる。
そして武器で切られる(触れられるの方が正しいか)等のことをされたら、ここに転成されるといったことだ。
なのでまた人が増えるかもしれない。
そしてもし、ここがダンジョンだと仮定すれば、紋章がついている岩に手を当て馴染み深い「暗澹なる迷宮よ。我を深淵から、天に導け」と言うセリフを唱えれば、脱出できるはずだ。
まぁここが通常のダンジョンと変わりがなかったの話だが...。
にしてもこれ全部あの馬鹿なおっさんが解明したのか...。
どんな手段を使ったんだ、信じられない....。
まぁこんな根も葉もないことばかりをまとめただけだ。
結局これは意味を成すのだろうか...。
ひとまずの目的として、この岩の発見だ。
それからパーティーを三つに分けて行動することが決まった。
これについては立ち回りが効きやすいように平衡感覚を重視したパーティーに分別された。
一つのパーティーに近接戦闘型を一から二人。遠距離戦闘型は零から一人。
他は状況によって諸所に入っている。
そして俺は、グレネイダ、名無し少女。剣聖はショーとベルグリュー。そして残りの4人。(ピーナッツ野郎)
まぁ案外精密に計算されたパーティーだと思う。
鼓動が早くなって来た。
美麗な女騎士と、子猫のような可愛さの褐色少女。まぁ後者は無視安定だが、二人ともかなりの美貌の持ち主だ。
パーティー行動中には男というところを魅せることを密やかに決意した。 また、悪い癖が...あはは。
緊急事態のはずなのに、全く慌てる者はいない。これが強者の集いか...。
だが、きっと何かが起こる。
俺はずっとそれを頭の中に入れていたため、案外焦っていた。
できれば、何も怒らないで欲しいが...。
俺はそう小さい懇願をどこの誰かにした。
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剣聖から一つのパーティーのつき一つ、麦パンほどの大きさの虹色に光る石を渡された。
あまりお目にかからないものだが、これは喪石で作られた長距離通信機だ。
一定の距離までは離れていてもこの石を通してお互い、会話ができる。
かなり高価な物だと聞いたことがあるが...。
剣聖様にとっては雀の涙ほどの価値しかない安物か。
俺とピーナッツ野郎がそれを素直に受け取り懐へしまった。
そこでピーナッツ野郎と視線が合う。
威厳の満ちた表情をして、こちらを威嚇している。今頃になってもまだケンカごっこをしたいのか。
脳の半分が腐敗しているのではないのだろうか...。
俺はその視線が後方の人に向けているものと故意に勘違いし後ろを振り向き、そのまま浮足立つ。
そして、踵を返した。
その傍若無人な俺の態度にピーナッツ野郎は焦燥の満ちた熱を周囲に展開した。ように思った。
こいつ体内どうなってんだ。
その雰囲気にも目もくれず、パーティーの元へと赴く。
途端に後方から速足の足音が洞窟内を響かせる。こいつの靴鉄製だったのか...。
そして、後ろから衝撃が走った。
渾身の頭突きを放ってきやがった。
俺は不覚にも手を地に着きそうになったが右足で地面を踏み衝撃を殺し、空いている左足で一際突き出ている岩を蹴り後方に高くバク転。
ピーナッツ野郎の頭上を越え、その後方に着地。
着地と同時に鞘から片方の双剣だけ外し、ピーナッツ野郎に向かって突貫する。
疾風をまとった手でその勢いを双剣で上乗せし、迅速の一突きを繰り出す。
的を少し上にずらし、僅かにモヒカンヘアーの髪を少し掠っただけだった。しかし、それでも髪も毛の20本ぐらいは切断しただろう。
ここで本体を刺しても反感を買い、さらに状況を悪化させるだけなので、モテるためにもこうした。
なんてのは冗談...のはず...。
グレネイダよりかは劣った戦闘技術だったがこれで二回目、威張るとこうなるんだよ。
所詮こいつは見た目だけのやつか...。
天下決戦三位のことは虚偽か幸運だっただけだろう。
呆れる...。
周りの者は俺の戦闘を諦観し、少しだけ目を見開いた。少しは俺の戦力が理解したか。
俺は双剣を鞘に戻し、今度こそは踵を返す。さすがにもう追ってこなかった。
事の終焉を慮り、剣聖アリオンはパーティー別行動の趣旨を再説明する。
「とりあえずは帰還の岩石の捜索。そして出くわしたモンスターの性質、特徴は随時この通信機を使い伝達し、情報を共有する。それにより安全性を高める。ここはダンジョンと断言できるような場所ではない。敵も未知数だ。警戒は怠らず、連携戦闘をすることでまた格段と安全性増加させる。 わかった者は叫べ!うぉぉおおおおおああああ!!!」
それに続きこの場のほぼ全員が雄叫びを上げた。幾重にも声が重なりそれが鼓膜を震わす。
洞窟内も振動させる。
これ敵を招きかねないんじゃ...。
そんな嫌な予感は見事的中し、洞窟内の奥底から絶叫にも似た叫声が返ってきて、洞窟内を木霊した。
剣聖の宣戦布告(つもりはなかったと思うが)を敵が見事に受け取って、それを丁寧に返してくれた。
俺は一つだけこの状況の中で確定した事実を見つけた。
ここに集まっているのは「阿呆」だ。
こうして戦いの幕は開けた。
キャラが話すシーン少ない…