4.暗澹なる迷宮探索
跳んでからはあっという間だった。
洞穴に入った瞬間、空間が歪み、体が歪み、ふと思ったら地に着いていた。
「また異世界とのご対面だ。」
今となっては慣れたものだが、始めて潜った時は意識が吹っ飛びそうになったことだ。
なんせ体が上下でずれていたからだ。
今回のダンジョンは開始地点からやけに壁がドス黒い。大物が期待出来そうだ。
そして、俺はそのまま歩き進んだ。
途中で何匹かのモンスターと、分かれ道なども出て来たが、特に迷わずいけた。
奥に行くのに連れて徐々に壁の色が濃くなっていき、道にも凹凸が増えてきた。それから、どこからか嫌な予感もしてくるようになった。
今までにないぐらい強い匂いだ。
胸がウズウズする。
この先にきっと大物がいるだろう。
俺は気持ちを高揚させてさらに奥へと向かう。
いつもと何も変わらない足取り。
しかし、明らかに体の内がいつもより遥かに沸騰していた。
興奮し、鳴動している心を制御できていない。
そして、歩行していた道が一つの部屋に繋がっていた。
「なんだ?」
そこは宴会が開けるほどの広さがあった部屋だ。
周り全てが先ほどよりも一層濃くなった漆黒の岩石によって弾きし詰められ、一つの大広間となっていた。
俺は自分の高揚していた心が突如と消えたことに全く気づかなかった。
そして、その中心に。
一人の黒い衣を見にまとった少女が佇んでいた。
妖気...。鬼気...。殺気...。
そんな気力がその少女から感じられた。
ずっと下を向いている。
手には極上の鎌。
俺の脳が直ぐここから逃げろと警鐘を鳴らしている。
しかし、体が言うことを聞かない。
動かそうとしても動かない。
何者かに捕縛されいるみたいに。
俺はただ、地に伏すことしか出来なかった。
今すぐここから逃げなければいけないのを理解しているが、動けない。
怯えて、縮まっているのか。
それとも目の前の少女が引き止めているのか...。
すると、少女が下に向けていた顔を正面にした。
俺はそれを注視することは出来ず、一瞬見ただけで逸らした。
怖気がする...。
瞳が...真っ黒だった。
「ああぁあぁぁあああぁあああああぁあああああっぁぁぁあああああああああぁぁぁああああぁあぁあ!」
俺は我慢出来ず、叫声を挙げた。
怖い。怖い。怖い。
死ぬ。死ぬ。死ぬ。
恐怖の感情を抑えきれずただ喚いた。ついには嗚咽を漏らした。
モンスターとは思えない化け物だった...。
「ねぇ...」
少女が呼んでいる。
しかし、恐怖というものが俺を押さえつけてそれに応えられない。
しかし、それだとどうなるか...
「ねえ...っってばぁあ...!」
声を張り上げた。
例えようがなく悪魔そのものの声だ。俺はさらに恐怖し、固まる。
身体中が痙攣しているように、振動している。体温も徐々に下がって行く。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけて。
そうやって目を閉じて神に願った。
しかし、目を開けるとそこに待っていたのは....
足だ。
極度に痩せ細っていて、病人のように白い。
しかしなぜ地に視線をやっているのにこれが見えるのか…。
俺はまさかと思い、顔を上げると....…
「おい...っ!」
少女の顔が目と鼻の先にいた。
こちらを睨んで、今でも切ってかかりそうな態度だった。
「うあああああぁぁあぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁあああああああああああああああぁぁああああああああ!!」
俺は無意識に地を蹴り、来た方向へと走り出した。いつの間にか動けるようになっていた。
後ろからも微かだが足音がする。
早くしなければ...殺される!!
俺は適当に道を選択し走って走ってただ走った。
しかし、ダンジョンから抜けるための岩は見つからない。
もう思考回路が回らなくなった。
すると、その少女はようやく追いついた。
鎌を肩に携えている。
その鎌には漆黒の覇気が纏ってある。いかにも狂気じみている。
果たしてそれを喰らったらどうなってしまうのか…。
想像するだけで震えが止まらなかった。
俺はもうなす術もなく、ただ最後の最後まで神に祈り続けた。
しかし、その願いは聞きいれてもらえない。
少女は鎌を頭上に上げ、振り下ろす体勢にはいる。
最後はかっこわるく死ぬのか....。
そして、鎌が惨く振り下ろされた。
*****
・・・・・俺はどうなったのだろうか。
・・・・・もう塵のように体がいくつにも切断されたのだろうか。
・・・・・何も見えない。
・・・・・ただ身体中が熱い
・・・・・死にそうだ。いや、もう死んだか。
・・・・・決定戦、出たかったな。
・・・・・そして、俺は何かに吸い込まれた。
ここから楽しくなるそうです。