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暗澹色の迷宮(ダンジョン)は残虐かつ嗜虐な執念を潜める  作者: 屍兵長
第一章 理想を求めて
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2.平凡な迷宮探索

 




 暗澹(あんたん)なる深淵(しんえん)迷宮、通称 ダンジョン。


 それがこの薄暗い洞窟内の呼び方だ。迷宮なんて呼ぶ者もいるが、大多数の人はダンジョンと呼ぶ。

 これは持論だが、かっこいいからだと思う。

 だから俺も「ダンジョン」と呼称する。

 俺は常にかっこよさを求めている。それは言動や行動、勿論外見にも求めている。なんとも不思議な欲求なのだろうか。

 まぁ、それが表面的に俺の雰囲気から出ていて、女性も誰一人俺にときめかない。ましてや、友人の一人も得られないまま、もう17歳にもなってしまった。情けない。

 そして、ダンジョンに潜る時も常に、いや今までずっと一人だ。

 かっこ良くなってモテるためにダンジョンを潜り始めたのにも関わらず、この始末...。理不尽じゃないか。まぁ全ては自業自得。怒ったって意味がない。


「おっと…暗くなって来たな...」


 そうこう自分の不甲斐さを自答している内にだいぶダンジョンの奥まで着いた。

 暗闇から(かす)かにモンスターの濁声が耳に入る。それが不協和音となってダンジョン内に反響している。

 何とも気味の悪い音だ。あと、何匹も潜んでいる。

 俺は両腰の鞘に納めている業物の双剣を抜刀した。その鞘と剣の金属がこすれ合った甲高い音がダンジョン内に響く。すると、一瞬として声が止んだ。


「...」


 一触即発の空気だ。


 今にでも何もない所からかかってきそうな予感がする。

 悪寒(おかん)がしてきた。


 ダンジョンの上の岩に付いていた、雨粒が地にしたたった。

 その音が合図となり、モンスターが一斉に四方八方からかかってきた。

 狼型で、対して速度は早くない。俺にとっては、だ。


「...っ! 」


 まず、かかってきた一匹目の攻撃を容易く(かわ)し、空中にいるそいつを右手の剣で首を断ち切る。鮮血が溢れ出す。


 次は同時に二匹飛びかかってくる。


 大きさはさきほどのと同様。

  しかし数が増えると対処するのに手間取る。

  俺はさすがに迎撃できずに、それを躱して地に転がり、体勢を立て直す。

 すると、後方から一際サイズが大きい狼が唸り声を上げてこちらを威嚇(いかく)している。こいつが親玉のようだ。


「随分威勢がいいじゃねえか」


 挑発してやった。

 言葉は通じないと思うが、一応。

 そして、どうこの場面を打破するか考える。

 生物は統率者がいないと、しっちゃかめっちゃかになり戦闘できないはず。

 それを信じ、全神経を親玉の狼だけに集中させ、迫撃戦に持ち込む。

 さきほど躱した狼もいつ襲ってくるか定かではない。

 早く済ますのが妥当だろう。

 しかし、親玉の後方から、俺を待っていたように二匹の狼がまた立ちはだかる。


 これで前後、狼によって塞がれてしまった。


 調子乗って奥まで来たのが悪かった。

 こういう時に一人は少々手こずる。


 そう、少しだけ。


 俺は前方に立ちはだかった二匹の狼に目もくれず、跳躍。

 二匹の頭上さらに上方と前方へと飛び、一気に親玉の前へ着地。

 そして渾身(こんしん)の双剣の一撃を、顔面に突き刺す。


「うぉあっ! 」


 見事に顔面を両断。

 口の歯は下方しか残っておらず、それまで上は剣によって切断。

 それと同時に大量の血飛沫と脳漿(のうしょう)を浴びる。


「くそ、また汚れちまった」


 親玉の顔面は生物の物とは思えないほどのものと化し、切断面から血が滝のように流れ落ちる。それに伴って、骨や肉片、臓器らしき物も目に映る。

 これには慣れたものだ。

 ダンジョン内の生物は妙に血の量が多く、それがこの生物とは思えない力量を生み出しているという。

 しかしそれも、俺の前でも機能もしない。


「はぁ、(むご)い」


 親玉が死んだことで、他の狼は何処かに走り去ってしまった。

 予想通りだ。

 これを情報屋に売ればまぁ少しくらい金が入るだろう。

 そんなことを考え、今日の迷宮探索を終了した。




 *****




 ダンジョンとは最近に突如として、ある研究者が発見したものだ。


 何のために出来たのか。


 どうやって出来たのか。


 その真相は未だ闇の中だ。

 研究者に解明できたことはダンジョンの発見方法と脱出方法など、そういった哲学までに至らないことだ。

 しかし、それでもかなりの偉業だ。

 今では迷宮探索はこの世界の生命線と言っても過言ではない。

 迷宮探索をし、モンスターを狩れば、奴らは喪石(もせき)と言う漆黒の石を落とす。

 それを店で売れば金になるし、また、武器などの素材としても使える。

 そして、モンスターの狩りを利用した任務も発注され、それを受注することで金儲けにもなる。


 言わば大金の宝庫なのだ。ダンジョンは。


 それを発見したのだ。


 俺は彼を一人の人間として尊敬している。

 迷宮探索は俺の生き甲斐でもあるからだ。


 そんなことを考えながら、俺は一人町を歩いた。

 ここは六大帝国中の『アルヴォイド迷宮帝国』の隅に位置する、小さな町だ。

 名前は知らない。

 ここは迷宮がよく見つかると言うので、俺はここを拠点として、日々迷宮探索に励んでいるわけだ。

 拠点と言っても、宿屋を借りているだけだが…。


 一刻ばかり木造の家屋が並ぶ道を歩いていると、目的の店へ到着した。

 この店も周りと同様で、木造だが、店内は装備や武器などさまざまな迷宮探索用の物品で充実していた。

 俺は何も買わずにカウンターの方へ行く。


「お買い物ではないようですね〜。では、喪石の換金ですか?それとも、素材変換ですかぁ?」

「換金を頼む」

「かしこまりましたぁ!では喪石を見せてくださいな〜」


 俺は腰の袋に閉まってあった喪石を全て取り出し、机に置いた。

 今日の収穫だ。

 まともなモンスターは狼ぐらいしか出なかったので、おそらく大した収穫ではないだろう。


「えっっと…。合計で384アルですね〜。はいどーぞ! 」

「ありがとさん」

「まいどあーり!」


 俺は金を受け取り懐に閉まい込む。

 まぁ、この程度だろう。

 嬢ちゃんに手を振り、別れを告げる。

 いつもお世話になっているが、名前は知らないんだよな〜。

 はぁ…女と出会いたい。


 にしても、もう夜中だ。

 そろそろ就寝の時間なので、俺は急ぎ足で宿屋へ戻る。

 暗闇の中、街灯だけかが光を放っている。

 周囲の家屋の窓からは闇しかない。

 光があるのは幾つかの店だけだ。それでも明暗は抑えてある。明る過ぎても迷惑なのだろう。

 しかし、家や店が並ぶところで、一店だけ、中が光で満ちている場所があった。


 そこは酒場だ。


 微かに人々の笑い声などが漏れてくる。

 昔、そこで働いていた時期があったので、妙な感慨がその酒場にある。

 最近行っていないので、そのうち行くか…。


 そうこうしている間に宿屋へ着き、俺は自分の部屋に入るとすぐさまベッドに身を投げた。


「明後日は決定戦か…」


 六大帝国で最強の者を決める大会。

 俺はそこに優勝する。理由は然り、かっこい———

 睡魔に勝てず、俺はそのまま寝息をたてた。


 歯車はまだ軋み合っている・・・・・


実はこれ自分のブログに投稿していたものを、多少加筆修正しました。

感想などくれると励みになります。お願いします。

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