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「鍵は?」
本当に何も持ってないみたいだ。部屋の鍵すら持ってないんじゃないのか?
首にもなにかかかってるわけじゃないしな。
「どうせ閉めてたってなんの意味もないんならわざわざ鍵を持ち歩くのもめんどい」
「とりあえず閉めとこう? 盗られるものがなかったとしても鍵閉めは習慣にするべきだと思うよ」
だから閉め忘れるんだ。なんの意味もないわけじゃない。
俺が伝えてないのも責任あるとは思うけど。
アディのあの小さな姿を万が一シスターエマとかが見てしまったら、と思うと不安になった。叫ばれて誰かを呼びに行ってる間にこの姿になるのならまだ良いけど、捕まってその目の前であれをやられると退学どころじゃすまないだろう。
悪魔の仕業だとか言いかねない。天使の仕業だとしても、ここでこのまま過ごすことなんてできない。
鍵がかかってたらシスターエマが開けるのにガチャガチャやってる間にこの姿になれるだろうし。
「今日はもういいだろ? 礼拝に行こうぜ」
「先にメシやでー」
部屋の扉前で話していても全く進展しないからか、ナータンが階段横の傘立てから傘を取る。
開いて先に一歩踏み出していた。
俺もアディもそれに続くと、雨がさらに勢いを増す。傘の柄が揺れるほど上から叩きつけられる滴が重い。
「雪は降るんやろか」
「ここの学校案内によると十二月から三月までは雪が積もるらしいよ。身動きとれなくなるほどじゃないみたいだけど」
俺の住んでた町では雪が積もらない。どんなのかは想像もつかないな。
「雪か……」
アディは何かを思い出すように呟いた。その後で両手でまぶたを一瞬覆う。その表情は苦痛に支配されていた。
「アディのとこは雪が積もってたのかい?」
「いや、積もってないな。ほとんど降ることもなかった。世話になっていた一家とスキーにいったことはあるけどな」
その場合『家族』と呼ぶだけでもいいはずなのに、あえて『世話になっていた一家』と言う。
多分意識的にしてるんじゃないだろうから養子先の人たちはアディを他人扱いし続けていたんだろう。
だったらなんで……。なんで、家に来なかったんだ。
言葉にできないざわつきが胸の奥からせりあがる。
「オレが昔住んどったとこは雪深かったでー。そこまでなったらあれも凶悪やで」
ナータンが振り返り苦笑した。
俺の気持ちを一瞬にして冷静にしてくれる。人には落ち着いた態度で接しないと。
「そんな酷ないんやったら雪での楽しい遊び方を教えたるわー」
どう考えてもインドアなナータンに遊び方を教えることができるんだろうか。
でもその言葉を聞いてアディの顔が少し明るくなった。
「雪での遊び方か。じゃあ、俺のルームメイトも一緒に四人で遊ぼうぜ。本当にルームメイトが来るかは分からんけどな」