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「そろそろ制服に着替えて、礼拝前に朝食行こか」
ナータンはベッドの足元側のクロゼットから制服を取り出した。
入学前に制服を着用する義務はない。だがナータンは部屋着以外は常に制服着用を心がけているらしい。
生活態度の割にそういう部分は真面目だと感じる。
俺もそれに倣って制服を着ようとした。
でも雨だよな。
少し考えた後、普段着にする。灰色のカッターシャツに黒にも見える緑のジーパン。カッターシャツよりもっと緩いシャツの方が好きだけど、外に着ていくには不向きだ。
外は実際の気温よりも寒く感じたから黒の柔らかい上着も羽織った。
アディは着替えたんだろうか。
「ヤマグチくんを迎えに行ってきぃや。オレは花壇のとこで待ってるわ」
ナータンは机の上から十字架の入った袋を取って上着のポケットに突っ込んでいた。
俺は落ち着いた赤の袋ごと十字架を胸ポケットに入れる。少し重みのあるそれは持つたびに将来への責任を感じさせられるようだった。
外は相変わらずの雨だ。
他にいくつかある学校のコースの中で、司祭コースだけは学年ごとに二階建ての家が与えられている。
上に二人、下に二人の計四人が一学年のコース生徒数だ。
他の専攻である音楽科や宗教研究科の男女も、女子聖職科……シスターコースもきちんと一つの建物が寮になってる。司祭コースより生徒数がかなり多いからかも知れないが。
「雨やから風呂行くんも濡れてまうやんー」
ナータンが文句を言う通り、学年毎の建物も、洗濯や入浴をする建物も全て屋根のない道を歩いていかなければならない。
キャンプ場のコテージが思い出される。
トイレと洗面台が各部屋にあるのは救いか。
大雨の時は風呂も洗濯もおっくうになりそうな気がするな。
「カリス、おはよ……ああ、えっと、おはよう」
雨を見ていると、部屋着のままのアディが階段から降りてきた。くせのある髪は起きたままなのか跳ね放題だ。ナータンの名前が出てこないのか、ナータンの方を向いて挨拶をしている。
「ヤマグチくん、ちょいだらしないでー」
「まだ服装の規則がないからいいだろ」
ナータンの注意にアディはけだるそうに反論する。
「だらしななってもーて」
ナータンはぼやいてため息をついていた。
「アディ、十字架は?」
どう見てもパジャマ姿のアディの服にポケットはないし、手にも何も持ってない。
「どっかいった」
「どっかって……それは困るよ?」
「学校が始まる前には見つける。カリスには関係ないだろ」
こんなにだらしなかったっけな。
以前の彼を思い出しても、こんなんじゃなかったはずだ。
朝はきちんと服も髪も整えていたし、今よりずっと元気そうだった。
「眠……」
目を半分閉じたアディはあくびすらだるそうにする。