表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の終わりのお伽噺 【Märchen vom Ende der Welt】  作者: 早生しあ
Ⅰ 『虚偽と虚言の戯れ言』
7/17

「そろそろ制服に着替えて、礼拝前に朝食行こか」

 ナータンはベッドの足元側のクロゼットから制服を取り出した。

 入学前に制服を着用する義務はない。だがナータンは部屋着以外は常に制服着用を心がけているらしい。

 生活態度の割にそういう部分は真面目だと感じる。

 俺もそれに倣って制服を着ようとした。

 でも雨だよな。

 少し考えた後、普段着にする。灰色のカッターシャツに黒にも見える緑のジーパン。カッターシャツよりもっと緩いシャツの方が好きだけど、外に着ていくには不向きだ。

 外は実際の気温よりも寒く感じたから黒の柔らかい上着も羽織った。

 アディは着替えたんだろうか。

「ヤマグチくんを迎えに行ってきぃや。オレは花壇のとこで待ってるわ」

 ナータンは机の上から十字架の入った袋を取って上着のポケットに突っ込んでいた。

 俺は落ち着いた赤の袋ごと十字架を胸ポケットに入れる。少し重みのあるそれは持つたびに将来への責任を感じさせられるようだった。

 外は相変わらずの雨だ。

 他にいくつかある学校のコースの中で、司祭コースだけは学年ごとに二階建ての家が与えられている。

 上に二人、下に二人の計四人が一学年のコース生徒数だ。

 他の専攻である音楽科や宗教研究科の男女も、女子聖職科……シスターコースもきちんと一つの建物が寮になってる。司祭コースより生徒数がかなり多いからかも知れないが。

「雨やから風呂行くんも濡れてまうやんー」

 ナータンが文句を言う通り、学年毎の建物も、洗濯や入浴をする建物も全て屋根のない道を歩いていかなければならない。

 キャンプ場のコテージが思い出される。

 トイレと洗面台が各部屋にあるのは救いか。

 大雨の時は風呂も洗濯もおっくうになりそうな気がするな。

「カリス、おはよ……ああ、えっと、おはよう」

 雨を見ていると、部屋着のままのアディが階段から降りてきた。くせのある髪は起きたままなのか跳ね放題だ。ナータンの名前が出てこないのか、ナータンの方を向いて挨拶をしている。

「ヤマグチくん、ちょいだらしないでー」

「まだ服装の規則がないからいいだろ」

 ナータンの注意にアディはけだるそうに反論する。

「だらしななってもーて」

 ナータンはぼやいてため息をついていた。

「アディ、十字架は?」

 どう見てもパジャマ姿のアディの服にポケットはないし、手にも何も持ってない。

「どっかいった」

「どっかって……それは困るよ?」

「学校が始まる前には見つける。カリスには関係ないだろ」

 こんなにだらしなかったっけな。

 以前の彼を思い出しても、こんなんじゃなかったはずだ。

 朝はきちんと服も髪も整えていたし、今よりずっと元気そうだった。

「眠……」

 目を半分閉じたアディはあくびすらだるそうにする。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ