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世界の終わりのお伽噺 【Märchen vom Ende der Welt】  作者: 早生しあ
Ⅰ 『虚偽と虚言の戯れ言』
4/17

 アドルフ・ヤマグチ。もう一度彼のフルネームを心の中で復唱する。

 これは彼が俺から離れてから得た名前だ。偽名ではなく、両親を無くしたアディが養子にもらわれていった先の名字ということなんだが。

 ずっと俺とアディは二人で遊んでいた。生まれた時からその時まで。楽しかったし、それが壊れるなんて考えもしなかった。喧嘩はしたりしたけど。

 あんなに仲が良かったはずなのに、ヤマグチという家に養子に行ってからは、五年間程全く会っていない。手紙のやりとりすらも。

「ヤマグチくんは前から背が高かったんかいな?」

 ナータンは俺の隣に立って手を上にあげる。手首から先をぶらぶらと横に振っていた。

 アディは、ほぼ同じような身長の俺達から頭半分程度背が高い。

 起きてるときに限るんだけど。

「僕は五年ぶりに会って身長が伸びたことに驚いたんだ。昔は僕よりも低かったしね」

 そして今もなんの状態なのか、俺よりも低い……五年前から成長すらしてないように思えるあの姿にも最初は驚いたんだけど。

「そうなんやー。どうやったら背え伸びんのか聞いてみよかな。司祭になるんやったら高い方が見栄えええやん?」

 そう言いながらもナータンはアディの部屋には行かず、俺より先に部屋に戻ってしまった。

 司祭。俺の国の30%程度の人間が信仰している宗教の儀式や典礼を行う職業だ。大きな教会で祈りを捧げているようなイメージしか持ってなかったが、実際に将来の目標として定めて調べると、様々な仕事があるということを知った。

 この学校で学ぶ6年間で、その仕事と役割を知り、正しく後継者としての道を歩むべく教育を受ける、らしい。本当は俺もあいまいなんだけど。

 考えていると、雨足はさらに強まった。屋根の外では俺のひざ上位まで雨粒が地面から跳ね返り、霧のように視界を遮っている。

 まだ止みそうもない雨は、予報では数日降り続くそうだ。

 最近は雨が多い。せめて来週に控えている入学式くらいは晴れて欲しいと思う。

「おはようございます、ネッセルローデくん」

 雨を連れた足音、静かに響く声が俺をとらえる。

 聞こえた方を凝視してみても誰もいない。

 すぐに雨煙の奥から一人の女性が現れた。

 灰色のロングスカート、頭から被るのは同じ色。それが傘の意味もない程強くなってきた雨に濡れていた。

「おはようございます、シスターエマ」

「早いですね。上級生は雨のせいで日の光がまぶたに届かないせいか誰も起きていませんよ」

 今日は礼拝の日だ。起きていないはずがない。

 俺はポケットから父親にもらった懐中時計を出す。

 時間はまだ五時前だった。

 アディを起こすのに早すぎた。だから、滅多にないあの状態の彼を見ることができたのか。

「早すぎましたね」

 俺が肩をすくめると、シスターエマは微笑みかけてくれる。

「いい心がけです」



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