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以前は明るくてよく笑ってたアディ。それを変えてしまった一家の娘。他にも兄弟はいたんだろうか。俺と離れた後のアディの生活とかを知りたいのに、どうしても聞けない。聞きたくなくて、話題を避けてた。
「あたしはメグなのよね。メグ・ヤマグチ。アディ、朝食なら妹のあたしと食べるのよね。お姉様たちには兄と食べるお話を通してきたのよね」
「ちょっと待ってよ。アディは僕やナータンと食べるからね。だいたい君はシスターコースだよね? 基本は部屋で行動のはずだよね? 個人的事情で基本行動を乱すのは良くないと思うよ」
俺はアディとメグちゃんの間に立った。
あんなに頭ごなしに怒鳴られてけなされて、あげくに食事まで拘束されてなんなんだ。
養子だから?
アディが養子に行ったからいじめの対象にされたというのか?
所有物みたいに扱われ続けたんじゃないのか?
そう思うと苛立ちが増す。なんで、そんなところに行かなきゃいけなかったんだ、アディが。
「カリス、昔と一緒だな」
アディは俺の前に進み出るとメグちゃんの持っている傘のタグを持った。
声は落ち着いて、小さい頃にアディがいじめられてた時に出してた泣き出しそうな声とは明らかに違う。
「俺はメグにいじめられてるわけじゃないから庇わなくて構わない」
そして、メグちゃんと二人で食事の受付前に立つ。
「アドルフ・ヤマグチ。聖職コースの一年生です。学生番号は01B―001。メグ・ヤマグチ、聖職コース。学生番号は……」
「02B―015なのよね」
アディの声はよく通る。あの女の子の声はなんだかがやがやして気に入らない。
俺の弟をあんな風にして、さらにここまで追いかけてきたというのか?
アディは、自分が嫌なことをされてると分からないくらい麻痺してるんじゃないのか。
あの子はまだアディを追い詰めるのか?
「ふあー、なんなんほんまに。風がキツうて傘が外れてもーたやん。直すのにびちゃびちゃやわ」
ナータンが何も知らないように俺に声をかけてくる。全身濡れていて、ふるふると手や頭を振っている。そのたびに雫が飛んで、身体が乾いていってるように見えるけど、そんなはずはないか。
「カリス? なんなん? なんか怒ってるんー?」
「いや、特に怒ってない」
怒ってないよ。なんでそんなことを聞くんだい?
ナータン、アディは妹さんと食べるんだって。
見て、あの可愛い子がアディの妹なんだって。僕は兄弟がいないから、あんなに歳の近い妹がいたら楽しいかな?
そうそう、僕たちも食堂に入ろうよ。
近くに座って二人としゃべれたらいいんだけどね。
本来言うべきはずの台詞は頭の中で俺が演じるだけで発せられることはなかった。