表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/48

拠点コマンド

「えーっと……端末は、これかあ」


 武姫カスタマイズ用のラボで、僕は端末を弄る。

 たぶん此処でも音声入力は活きている。

 それでも、折角身体が動くんだから端末を直接操作してみたかったのだ。

 ブゥン、という音をたてる端末の前で、僕は操作を開始する。

 

「んー……と……」


 操作権限者確認……クリア。

 操作機能解放。

 メニューリスト表示。


 画面に表示されていく文字を追っていくと、端末の画面にメニュー項目が並んでいく。

 武姫カスタマイズの項目をぽちっと。


 武装選択

 装飾選択

 スキルセット

 内容確認

 戻る


 ん……どうやら、外見自体のカスタマイズ項目は消えているみたいだ。

 偉い人に顔バレした僕にとっては結構キツイかもしれない。

 武装選択と装飾選択は、さっきメニューコマンドで弄ったものと同じだ。

 さっき取り出したサンダーカノンはサブ武器に設定してある。

 メイン武器とサブ武器は切り替え可能で、選択していない武装は亜空間に仕舞われている……らしい。

 超古代の技術という設定らしいけど、なんでも超古代のせいにしすぎだと当時は「超古代の技術の影響」という言葉が流行ったものだ。

 けど、こうやって現実になってみると「流石超古代。便利だなあ」としか思えてこないのは何故だろう。

 

 それはさておき。

 わざわざラボにまでやってきたのはスキルセットの為だ。

 スキルセットの項目を選び……あれ、エラーが出た。


 武姫がラボにセットされていません!


「……」


 僕は端末から目を離して、武姫の専用ベッドに目を向ける。

 高速回復が可能なサイバーで近未来なデザインのカプセル。

 あれに入らないとスキルセットが出来ない……ってことのようだ。

 でもそれって、僕自身には使えないじゃないか……。


「んーと。つまりアレに入ってればいいんだよな」


 でも、その問題は簡単に解決できる。

 端末での操作を諦めて、音声コマンドによるメニューを開けばいいんだ。


「コマンドオープン」


 現在「アリス」はセット中につき、コマンドを扱う事が出来ません!

 遠隔自己改造の権限がありません!

 高速回復のコマンドのみ使用可能です。

 使用しますか?


 NOを選択し、カプセルから出る僕。

 遠隔自己改造の権限なんてものがあるのか……。

 つまり機士を決めるか、その遠隔自己改造の権限とやらを手に入れないとスキルセットが出来ない……ということになる。

 むう、困ったなあ。

 そうなると、今の僕に使えるスキルは3つだけだ。

 雷属性の近距離打撃、ライトニングナックル。

 雷属性の近距離から中距離打撃、ライトニングキック。

 雷属性の近距離から中距離汎用攻撃、ライトニングアタック。


 ……見事なまでに近接戦仕様だ。

 しかも消費が大きい技しか積んでない。

 僕は一体何考えてたんだろう?


 ……いや、分かってる。

 分かってはいるんだ。

 小手先の削り技なんか使いたくなかったんだ。

 あくまでスキルは必殺技。

 ここぞという時に放つラストアタック。

 最後の5分の怒涛の見せ場にして魅せ場。

 そういうのに憧れてたんだ。


「うーん、こうなるって分かってたら信念を曲げてたかもしれないのに」

 

 言ってみて、自分でも首をひねる。

 ……曲がってたかな、信念。

 ……曲がらなかった気もする。


 幸いだったのは、武装は普通に装備変更できる点だ。

 これさえ出来るなら、多少のスキルの不足はどうにかカバーできる。

 そして、何よりも。

 倉庫にお金を預けていたのが大きい。

 アカウント共通の倉庫に預けられていたお金は、かなりの額だ。

 現実の物価がどうなってるかは分からないけど……正直、お金持ちといっていいんじゃないだろうか。


「まあ、こんなもんか」


 スキル変更が出来ないと分かった僕は、ラボを出てコントロールルームに戻る。

 壁のモニターに映されたアルギオス山脈の光景。

 実はこれ、変更する事が出来るようだ。

 モニター前の端末を弄って、アルギオス山脈の入り口近くの光景を映しだす。

 どういう仕組みでこうなっているかは分からないけど、たぶん何か超古代の衛星的なものがあるんだろう。

 流石超古代。考える事をアッサリ放棄させてくれる。

 ともかく、映し出されたアルギオス山脈は……もう朝である事を示している。

 掘っ建て小屋の周辺には、何人かの探索者と思わしき人達の姿がある。

 うーん、何か話してるけど。

 これって音声は拾えないのかな?


 端末をぽちぽち弄っていると、音声収集なる項目がある。

 あ、やっぱりあるのか。

 えーと……機能をオンに変えてっと。

 すると、アルギオス山脈を吹き抜ける風の音が聞こえてくる。


「……の……は……るぜ」


 むう、あんまり聞こえない。

 感度を最大まで上げてみる。


「しかし、昨晩此処のモンスター共が妙に騒いでいたというが……」


 あ、聞こえた聞こえた。

 なんか如何にも戦士っぽい格好をしたお兄さんの声だ。

 青いロン毛と、クールな顔。

 鋼色の部分鎧を身に着けている。

 うーん、こういう髪型してるだけで熟練剣士っぽい雰囲気が漂うのはどうしてだろうね?


「騒いでいた……っていうよりは、暴れてたって感じみたいだぜ。地響きが聞こえたっつーからな」


 そう言うのは、ひょろりと細い布の服の男の人。

 茶色の髪と茶色の眼。

 抜け目の無さそうな顔、といった感じの……うん、きっとシーフ系だ。

 こんな軽装の職業で短剣持ってるのはそっちの系列しかない。


「何処かの馬鹿が入り込んだってとこかしらね」

「近隣の村に行方不明者は無いということでしたから、あるいは……」


 如何にも魔法使いというお姉さんと、もう1人はたぶん治癒士……だと思う。

 この4人でパーティを組んでいるんだろうか。

 でも、うーん。

 何か足りないような?


「山賊ってセンもあるな」

「それならジャックのお仲間じゃない」

「おいおい、オレは誇りある「風の翼」所属のシーフだぜ?」


 そう言って笑いあう4人。

 うーん、笑い所が分からない。

 風の翼っていうのは、たぶんギルド名なんだろうな。

 ゲーム時代と同じなら、5人以上で結成できるチームの事だ。

 一時的な仲間のパーティとは違って、長い期間を一緒に過ごす仲間同士の集まりみたいなものだ。

 ギルド拠点やギルド倉庫、ギルドの役職設定など、色々とやりこみ要素のある機能だ。

 特にギルド拠点は個人拠点よりも維持費は高いけど、広くて色々な機能を盛り込む事が出来た。

 僕はどうかというと……「虹の記憶」というギルドに所属していた。

 まあ、今の僕……アリスじゃなくてメインの機士が所属していたんだけどね。

 もうちょっと僕に時間があればアリスも所属していたんだろうけど。

 

 ……って、おっと。

 思い出に浸ってたら会話を聞き逃しちゃった。


「じゃあ、ここを拠点として半日探索を実施ということにしよう。それ以上は危険だ」

「そうね。正直、それ以上は荷が重いわ」


 んー。

 アルギオス山脈の適正レベルは25。

 そこを半日探索できるってことは、そのくらいの実力はある……んだよね。

 でも、うーん。

 なんだろう、何か違和感がある。

 

「んー……?」


 僕はモニターに映る4人をじっと眺めて……ようやく気付く。


「あ、そうか。この人達……武姫と一緒に来てないんだ」


 そうだ、それだ。

 機士のパートナーである武姫が一緒にいないんだ。

 あれ、でも待てよ。

 この人達、武姫も無しで此処を探索しようとしてるの?


「しかしなあ……正直此処は外れだと思うがなあ」

「だが、可能性が無いわけじゃない。だろ?」

「まあ、な」

 

 ジャックと呼ばれた人と青髪の剣士の人が何かを話している。

 うーん、確かにアルギオス山脈は価値のあるドロップ品はあまり無い。

 通常ドロップのアイテムは基本的に安い。

 レアアイテムも地属性の装備が出る事もある。

 けど、地属性は全体的に人気が無い。

 経験値も正直、あまり良いとは言えない。

 例外としては、ロックドラゴンから回収できるアイテムがドラゴン装備の材料になることくらいだろうか。

 いや、それともレア武器のガイアブレード狙いかもしれない。

 剣士っぽい人の新しい武器として狙いにきたと考えれば納得がいく。


 でもなあ、ロックドラゴン倒せるのかなあ。

 武姫無しっていう縛りは少々辛い気がする。


「ん……んんー……」


 モニターの前で悩む僕を余所に、リーダーらしき青髪の人を先頭に4人はアルギオス山脈の登山道を登り始める。

 うーん。

 うーん、どうしよう。

 なんかすごく心配だぞ。

 あの人達が凄い強いって可能性もあるにはあるけどさ。

 でもそれにしては、装備が店売りのそんなにレベル高くない物が多かったし。

 僕がゲーム時代の思考から抜け出せてないのかもしれないけど、武姫無しの戦闘っていうのがまず考えられない。

 ローカルブレイブっていうギルドの人達がそういう縛りプレイをやっていたけど、あの人達は恐ろしいまでの廃装備だったし。

 強化しなくても最高クラスの値段のつくエンドキャリバーを+20まで過剰精練とか、ネジが飛んでるとしか思えない。

 長年やっても手に入るか分からないレベルの装備を、失敗すれば消滅する過剰精練で何度も、何度も。

 失敗したら世をはかなんでプリンセスギアを引退しちゃうくらいのモノだっていうのに。

 それだけやっても、相当にプレイヤースキルを必要とするのが「武姫無しでの戦闘」というものだ。

 果たしてモニターの向こうの人達にそれだけの実力があるかというと……。


「う、うーん……」


 心配だ。

 すごく心配だ。

 僕は悩んで、首をひねって。


「……こっそり。こっそり見守ってるだけなら、大丈夫だよね」


 そう言って、自分を誤魔化すことに決定した。

 だって、ほら。

 万が一の事があったら、寝覚めが悪いじゃないか。


「まあ、でも、うん」


 倉庫から変装用の「ファントムマスク」を取り出して装備する。

 顔を上半分を隠すマスクで、正体の隠蔽も完璧。

 顔バレ対策をしっかりした僕は、もう1度モニターで4人の居場所を確認してエレベーターに乗り込む。


 うん、大丈夫。

 こっそり見守るだけだし。

 大丈夫そうだったら帰るし。

 あの人達、なんか自信ありそうだったし。

 今度は顔も隠してるし。

 今度は偉そうな人でもなさそうだし。

 大丈夫……だよね?

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ