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出会ったのは

 屋根から屋根へと、僕は跳ぶ。

 誕生の白の月に照らされた夜は明るくて、しかも屋根から屋根へ飛び移るような人は僕とアイツだけだ。

 だから同じように屋根の上にいれば、そう簡単に相手を見失ったりはしない。


「待てぇっ! 逃がさないぞ……おおっ!?」


 視界で何かがキラリと輝いたと思うと、それは僕に向かって一直線に飛んでくる。

 それがナイフだと気付いて慌てて回避しようとしても間に合わず、そのうちの一本が僕に突き刺さっている。


「ナイフでの接近戦に投げナイフ……てことは……盗賊系か!」


 分かってしまえば対処は簡単だ。

 盗賊系はジャックさんみたいな短剣使いで、身軽な動きと手数の多さが特徴だ。

 でも逆に言えば、格闘家タイプの僕であれば近づいてしまえば単純な火力勝負に持ち込める。

 そして、さっきのアレが実力なら……アイツ自身には然程苦労しない。

 問題は、仲間が居た場合だけど……でも大丈夫。

 フィッシャーキングの軍団に比べたら、全然怖くない!

 今だって、どんどん距離は縮まっている。

 次の屋根へと飛び移れば、もうアイツまではすぐ其処だ。

 飛来してくるキラリと光るナイフだって、そうだと分かってればもう当たらない。

 僕は華麗に避けて、次の屋根へ飛び移るべく力強く屋根を踏みしめる。 


「あいだあっ!?」


 足元にあった「何か」を踏み抜いた僕の足に、何かが噛み付いたような痛みが走る。

 見下ろしてみれば、そこには鋼鉄の入れ歯みたいなものが僕に噛み付いているのが見える。


「レ、レッグトラップ!? って……うわわわぁっ!?」


 跳ぶための準備に入っていたのが災いして、僕は思い切り前にむけてつんのめる。


「ぬ、は、お……わああっ!?」


 当然の事だけれど、屋根の上に掴まる所などあるはずもない。

 僕は体勢を立て直そうとバタバタしたあげく、屋根に鎖で固定されたレッグトラップで更にバランスを崩して前へと倒れていく。


「あわわ……わあーっ!?」


 そのまま屋根から吊り下げられる……かと思いきや、おざなりな固定だったようでレッグトラップの鎖は簡単に屋根から外れ、僕の身体は思い切り屋根から落下していく。

 でも、僕は人間じゃなくて武姫。このくらいの高さなら何とかなる。

 レッグトラップのせいでバランスがとりづらいけれど、空中で回転しながら僕は地面へズンッという音を立てて着地する。


「う……くうっ!」


 レッグトラップに噛まれた足が、今の着地の衝撃で動かなくなる。

 人間じゃないから一度壊れてしまえば「痛い」という感覚すら無くなるけれど、だからといって気持ちのいいものじゃない。

 足だけじゃない。

 身体全体が今の不完全な着地でダメージがあったみたいで、危険とまではいかなくてもよろしくない状況ではある。

 でも何をするにもとにかく、僕の足に噛み付いたレッグトラップを剥がさなきゃどうにもならない。

 僕はレッグトラップに手をかけると、力尽くで閉じた口を両側から引っ張る。


「ぎぎぎ……」


 頑固に僕に噛み付いているレッグトラップを、僕は思い切り引っ張る。

 これがゲームの時代なら一定時間経過すると自動解除されたりしたんだけど……残念ながら、そういうわけにもいかないらしい。

 もうとっくにゲーム時代のレッグトラップの最大持続時間は経過している。

 あんな風に自然に消えるなんてことは、やっぱりない。


「かったあ……何これ、僕が人間だったら足とれちゃってるんじゃないの……?」


 引っ張っても中々レッグトラップはとれなくて、僕は手近な壁にずりずりと下がりながらレッグトラップを引っ張る。

 流石にこうなると相手も逃げてしまっただろうけど、この足ではどうしようもない。

 こんなものが足についたままじゃ、ポーションを使ったところでたいして意味は無い。

 幸か不幸か僕が落っこちたのは家と家との間の隙間みたいな場所で、こんな夜に通る人は居なさそうだ。

 ……まあ、僕が武姫ってバレると色々面倒そうだから、これでいいのかもしれないけど。

 そんな事を思いながらガチャガチャとレッグトラップを弄るけれど、やっぱり僕の足に噛み付いたまま離れてくれない。

 そのまま何度も挑戦して、やっぱりレッグトラップは外れなくて。

 どうしようもなくて、僕は深い溜息をつく。


「……どうしようっかなあ。こんな足じゃ屋根に上るのも難しいし、下歩いたら目立つよねえ」


 どうやら僕には、このレッグトラップを外すことはできそうにない。

 こんなものがついた足では上手く走れないし、見つかると間違いなく騒ぎになってしまう。

 ……むう、ミケがいればギアを召喚して貰って、その上に乗れたかもしれないなあ。

 置いてきちゃったのは失敗だったかもしれない。

 とはいえ、今更どうしようもないし……本当にどうしようか?


「……ひょっとして貴女、アリス?」

「え?」


 声の聞こえてきた方へと振り向くと、赤く短い髪の……なんだか気の強そうな女の人が僕を覗き込んでいた。

 簡素な布のローブみたいなのを着てるけど、何処かで見たような……。

 

「やっぱりアリスよね。貴女、どうして王都に……って、ちょっと待って。その足のそれ、何なの!?」

「あ、思い出した。カルラさんだ。えーっと……色々と事情があって」


 そう、その何だか地味な格好の人は……僕がアルギオス山脈で会った魔法使いのお姉さん、カルラさんだった。

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