表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/48

スキル

「み……つけたあ!」


 ストナの森を駆け巡る僕は、こんもりと積もった枯葉の山のようなモノを発見する。

 もちろん枯葉の山などではなく、モンスターだ。

 枯葉の精霊。

 物理攻撃がほとんど効かない類のモンスターで、初心者殺しの異名を持つ奴だ。

 わざわざこんな奴を探したのには、勿論理由がある。


 それは、スキルだ。

 幾つかのスキルをセットしてはいたが、まだ使ってすらいない。

 というか、使う意味がない。

 でも、こいつなら使える。

 使わざるを得ない。

 そんなのに会ってしまったんだから仕方ない。

 僕の作った僕が信じる最高にカッコいいスキルを使わざるを得ない。

 

 うへへ、テンションあがるなあ!


 溢れてくる笑み。もうテンションはマックスをとっくのとうに突破している。

 

「コード、セット」


 ゲームでも何度も使った音声入力。

 その最初のワードを唱え、僕は枯葉の精霊に接近する。

 キャラに反応して攻撃を仕掛けてくるアクティブモンスターと呼ばれるタイプである枯葉の精霊は、接近する僕に気づいて枯葉を揺らす。

 そう、こいつの攻撃は枯葉を飛ばす中距離攻撃。

 でも、もう遅い。

 振りかぶる腕に、青白く輝く雷光が宿る。

 ド派手な光を放ち輝く拳を、僕は勢いのままに枯葉の精霊へと向かって叩きつける。


「ライトニィィング……ナァァックル!」


 ズドン、と。

 拳を叩きつけた個所を中心に、衝撃がはしる。

 腕に纏った雷光は全て枯葉の精霊に叩き込まれるように消え、衝撃で吹き飛んだ枯葉の精霊を激しいスパークが包む。


「うわわ……まぶしっ! うるさっ!」


 バリバリ、と響くスパーク音。

 それと同時に輝く光。

 自分で設定しといてなんだけど、派手すぎる。

 トドメ演出の光の炸裂と共に響く爆発音。

 枯葉の精霊は、欠片も残さず四散する。


「……う、ひゃあー……」


 レベルアップ! レベル4になりました!

 レベルアップ! レベル5になりました!

 レベルアップ! レベル6になりました!


 一気に3つもレベルアップしたその後には何も残っていない。

 ドロップアイテムが単純に無かっただけなのかもしれないけれども。


「うーん……概ね想定した通りなん、だけど……」


 画面で見るのと実際見るのとだと、なんだかかなり違う。

 例えるなら、花火をテレビで見た時と間近で見た時の差という感じだろうか。

 繰り出した僕がビックリしていたら世話は無い。

 何度も繰り出して、早く慣れる必要がある。

 というか、出来れば往年のスーパーヒーローのように決めポーズまでやりたい。

 今の僕には、それが出来る身体能力があるんだから。

 

 ただ、1つ気になるのは。

 さっきライトニングナックルを放った時、なんだか心に穴が空いたような……そんな妙な感覚があった気がする。

 今はもう消えているから、気のせいかもしれない。



「よおーし、次いってみよう!」


 巻き起こった不安を振り払うように、僕は叫んで走り出す。



「ルオオオオ!」

「う、うわっ!?」


 走り出した僕の目前で、地面が突然盛り上がる。

 それは森の木々をも巻き込んで、巨大な人型を形作っていく。

 最初に現れたのは、巨大な空洞の目と口を持つ、頭。

 一撃で何でも吹き飛ばしそうな腕を備えた上半身。

 ずっしりと大地を踏みしめる下半身。


 間違いない。

 こいつは、このストナの森のボスモンスター……フォレストゴーレムだ。

 基本的にボスモンスターは、適正レベルのキャラクターが1人で討伐できるような能力にはなっていない。

 適正レベルのキャラクターが数人でパーティを組み、それでも蹂躙されるようなボスも多い。

 このフォレストゴーレムは確か……見つけたら初心者のうちは逃げろと教え込まれるくらいには強かったはずだ。

 僕のレベルは6で、ストナの森の適正レベルは13。

 正直、まともに戦えるような相手じゃない。

 でも、何となくこのまま逃げるのは悔しかった。

 そう、意外にやってみれば出来るかもしれないじゃないか。

 根拠のない自信と共に、僕はフォレストゴーレムに向かって走る。

 出し惜しみはしない。

 出すのは、全力の一撃だ!


「コード……セット!」


 セットしたスキルは、ライトニングキック。

 往年のスーパーヒーローを彷彿とさせる必殺キックだ。

 このキックを完成させる為に、何度も映像を見ながらモーションを調整したのも良い思い出だ。


「とうっ!」


 気合と共に、空高く跳ぶ。

 フォレストゴーレムの遥か頭上。

 こちらを見上げるフォレストゴーレムの顔を見下ろして。


「ライトニング……」


 僕の足が、青白く輝く雷光を宿す。

 その頼もしい輝きを見て、僕は勝利を確信する。


「キィィィィック!!」


 急降下。

 青白い光の槍と化した僕は光と共に落下し、強烈なスパークをフォレストゴーレムに叩きつける。


「ど……おだあ!」


 そのまま回転ジャンプで離れようとする僕。

 しかし、その僕を……現れた巨大な腕が掴む。


「な……!?」


 スパークの光が消える。

 トドメ演出が出ないままに、ライトニングキックのモーションが終了する。

 光の消えたフォレストゴーレムの頭部は僅かに削れてはいるが、致命傷というには程遠い。

 つまり、全然効いていない。


「なんで……こんな……っ!」


 掴むなんて。

 そんな攻撃、フォレストゴーレムには無いはず。

 そう考えて、僕は当然の事実を思い出す。


 そう。

 ここは……ゲームの中じゃ、ない。

 ゲームの中のような動きを出来るし、ゲームのようなコマンドも使えるけれど。

 ここは、現実なんだ。

 僕の知っているモンスターの行動パターンなんて、何の役にも立ちはしない。

 雑魚を一撃で倒せていたものだから。

 そんな簡単で当然の事実に気付くのが、こんなにも致命的に遅れてしまった。

 いや、そんなのは理由にならない。

 ただ、僕がどうしようもなく馬鹿なだけだ。


 そんな自己嫌悪なんか、フォレストゴーレムには関係ない。

 フォレストゴーレムは僕を振り回し、投げる。


 ぶん、と。

 地面に投げつけられて、僕は無様に地面に転がる。


「く……は……はぁっ、はぁっ……」


 息が苦しい。

 身体中が悲鳴をあげている。

 それだけじゃない。

 心の中にぽっかり穴が空いたような喪失感を感じる。

 

 このままじゃいけない。


「う……わぁっ……」


 振り下ろされるフォレストゴーレムの足を、転がって避ける。

 このままじゃ、殺される。

 嫌だ。

 そんなのは、嫌だ。


「に、げなきゃ……」

 

 立ち上がって、足を動かす。

 その頭上を、フォレストゴーレムの拳がかすめていく。

 ダメだ。

 これじゃ逃げられない。

 もっと速く。


「に、げなきゃ……にげなきゃ!」


 走る。

 逃げる為に。

 生き残る為に、走る。

 フォレストゴーレムが後ろから追ってきてるかどうかなんて分からない。

 ただ、全力で逃げて、逃げて。

 僕はやがて、気を失った。


「う……」


 そして僕は、目を覚ます。

 日の位置が傾いて、たぶん夕方であろう事を僕に知らせてくれる。

 どうやら、かなりの時間気を失っていたようだ。


 身体の痛みは、大分消えている。

 あの喪失感のようなものも、かなり消えているのが分かる。

 その正体を考えて……僕は、ようやく思い出す。


 それは生命力と魂力の概念だ。

 いわゆるヒットポイントやマジックポイントのようなものだ。

 ステータスには表示されないものの、それは確実に存在している。

 つまり、身体の痛みは生命力の消失、喪失感は魂力の消失……といったところだろう。

 身体の痛みはダメージとしても、喪失感の方はたぶんライトニングキックでの減少分だ。

 あれはレベル6で放つには、少々消費が大きすぎる技だ。

 たぶんだけど、魂力が半分以上は減っているはずだ。


 ……それにしても、酷い感覚だった。

 あの状態であんなに酷いってことは、魂力が0になったら動けなくなるかもしれない。

 生命力が0になるということは考えるまでもなく死だし……復活手段を確保できていない状況では、試そうとも思えない。

 やはり、無理は禁物だ。

 とはいえ、寝ればある程度回復できる事が分かったのは収穫だ。


 まあ、寝てる間にアクティブモンスターに襲われる可能性もあるし……さっさとレベルを上げて森を出るに限る。


「ん……? レベルアップ……?」


 そこまで考えて、僕は気づく。

 そうだ、それがあったじゃないか!

 僕は走り、手近なウッドドールに拳を叩きこんで壊す。

 

「一体じゃダメか……次はどこだあ!」


 7匹目を倒したとき、ようやくメッセージが出てくる。


 レベルアップ! レベル7になりました!

 

「……ん、なんか疲れが一気にとれたような」


 レベルアップする度に能力が上がっていくのは感じていた。

 しかし、疲れがとれたのを実感したのはこのレベルアップで初めてだ。

 疲れだけじゃない。

 身体の痛みも、心の喪失感も全部消えてなくなっている。

 確かプリンセスギアでは、レベルアップは単純にステータスアップではない。

 生命力と魂力が最大値まで回復するのも仕様として存在する。

 ……ということは身体の痛みだけじゃなく、疲れというか身体のダルさといったものも体力の減少による警告なのだろう。

 魂力は魂力で、減衰すると心に穴がポッカリ空いたような寂しさを感じるということが分かった。

 この感覚を磨いていけば、大体の最大値や減少量を覚える事が出来るだろう。

 それまでは、スキルも抑え気味にいくしかない。

 非常に残念な事に、僕の作ったスキルは低レベルには優しくない仕様のものが多すぎる。

 デフォルトスキルもあるにはあるけど、セットスキルの変更は此処では出来ない。

 今のところは、このまま戦うしかない。


「ステータスオープン」


名前:アリス


レベル:7


装備:

 闘神のガントレット

 闘神の衣

 闘神のブーツ

 闘神のブレスレット


セットスキル:

 ライトニングナックル

 ライトニングキック

 ライトニングアタック


称号:

 プリンセスギア(非表示)


機士:

 なし


 レベルは7。

 とりあえず、フォレストゴーレムは次見かけたらダッシュで逃げる事に決めた。

 流石に転生してすぐ死にました、なんて目にはあいたくない。

 僕は今度こそ、幸せに生きるって決めたんだから。

 その為には、地道なレベル上げが大切。

 もう無茶なんかしないぞ。

 そう決めて、僕は拳を握る。


 ああ、早くレベル15にならないかなあ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ