僕にしか出来ない戦い方
「ギャギャギャ!?」
「ギャッ、ギャギャギャ!」
「ギャギャギャ!」
突っ込んでくる僕に、フィッシャーマン達は戸惑ったような様子を見せる。
そりゃそうだ。
僕だって無茶だと思う。
だから、何か作戦があると疑って当たり前。
そして、その勘違いを持続させる。
一番死ににくい僕に、彼等の注意を引き付ける!
「コード、セット」
「ギャギャ!」
「ギャッ!? ギャッ!」
僕の足に、青白く輝く雷光が宿る。
「ライトニングゥゥゥ……」
僕の着地予定地点から、数匹のフィッシャーマンが逃げていく。
でも、一匹だけが戸惑ったように逃げる仲間達をキョロキョロと見回して。
僕にようやく気付き、その三つ又の槍を向けてくる。
「キィィィィィィック!!」
ズドン、と。
三つ又の槍を弾き飛ばして、僕のライトニングキックがフィッシャーマンの頭に叩き込まれる。
僕は、そのまま頭を踏んで跳ぶ。
確かめる必要なんてない。
背後で輝くスパークと爆発は、フィッシャーマンを仕留めた事を示している。
レベルアップ! レベル20になりました!
レベルアップ! レベル21になりました!
流れてくるメッセージ。
でも今はそれに構わず、僕は新しいスクロールを広げる。
それは拠点でアイテムウインドウに放り込んだまま、使う機会がなかったスクロールだ。
「証を此処に示す。故に、此処に極寒の世界が現れる!」
フリーズストームLV3スクロール消費。
フリーズストーム!
そして、僕を中心に吹雪が吹き荒れる。
僕は近接戦闘タイプだから、魔法を使っても大したダメージが出せない。
フィッシャーマン達は水属性だから、属性的な相性としても良くない。
でも、僕の狙いはそこじゃない。
「ギャッ……ギャ……」
「ギャギャッ、ギャギャギャッ!?」
フリーズストームの効果範囲に巻き込まれたフィッシャーマン達が凍り付いている。
そう、僕の狙いはこれだ。
フリーズストームによる凍結効果。
動きを止め、雷による攻撃の威力を増加させる。
だから。
「今です、伯爵!」
「ええ、お任せあれ」
叫ぶ僕に合わせるかのように、シュペル伯爵が魔法を解き放つ。
「我が意思は此処にあり、我が敵は我が前に。雷の理よ、在れ。此処に雷撃の法廷を開く。されど、罪は明白なれば酌量は無用。故に、ここに裁定を下す」
シュペル伯爵の言葉と共に、僕のフリーズストームの効果範囲ピッタリに魔法円が広がっていく。
「響き渡れ……サンダージャッジメント!」
僕の視界が、眩い輝きに包まれる。
降り注ぐ雷の雨が、魔法円の範囲内に降り注ぐ。
目も眩むような激しい雷撃は、僕を傷つける事無くフィッシャーマン達を打ち砕いていく。
そして輝きが収まった時には、もうそこには何も居ない。
立っているのは、僕だけだ。
「……」
レベルアップメッセージは、無い。
やっぱり僕が倒さないと、入らないみたいだ。
それとも、何か別の要因があるのかな?
ちょっと残念だけど……まあ、予定通りだ。
残ったフィッシャーマン達は、僕を激しい敵意と共に睨みつけてきている。
一番奥にいるフィッシャーキングは、まだ動かない。
ニヤニヤと浮かべる笑みが、余裕にすら見える。
まあ、実際に余裕なのかもしれない。
まだまだフィッシャーマンはたくさんいる。
僕達が力尽きるのが早いと思っているんだろう。
……でも、そうはいかない。
僕が僕であるからこそ、勝機はある。
「……うわああああああ!」
叫ぶ。
拳を握る。
来ないなら行くぞ、と。
精一杯の気合を込めて叫ぶ僕に、フィッシャーマン達が弾かれたように向かってくる。
そうだ、それでいい。
実際には僕はこれ以上は動けない。
魔法にだって、射程はある。
僕がこれ以上離れたら、神殿を背にしているシュペル伯爵達が動く必要が出てくる。
それは、致命的な死角を作ってしまうかもしれない。
「ギャギャギャギャ!」
「コード、セット!」
繰り出されてくる槍を避けた僕に、他のフィッシャーマンが突き出した槍が刺さる……寸前で、輝く壁に弾かれる。
ガードバリアの効果だ。
でもこれだって、永遠ってわけじゃない。
「ライトニング……ナァックル!」
「ギャ……ゲアアアア!」
フィッシャーマンが爆散する。
レベルアップ! レベル22になりました!
「ギャギャギャ!」
「ギャーギャギャ!」
フィッシャーマンの槍が次から次へと繰り出される。
輝く壁が、それを弾いて。
けれど、次の一本が僕の鎧の隙間に刺さる。
「コード、セット!」
フィッシャーマンの槍が殺到する。
鎧に穴が開き、激しい痛みが僕を襲う。
「ライトニングナックル!」
「ギャアアアアギャッ!」
レベルアップ! レベル23になりました!
レベルが上がる。
その度に、僕の傷が治る。
レベルアップ! レベル24になりました!
鎧は直らない。
でも、僕の体力も魂力も、レベルアップの度に満タンになる。
だから、戦える。
レベルアップ! レベル25になりました!
フィッシャーマンは、僕のレベルからしたら遥か格上の敵だ。
そして、経験値も相当に持っている。
だからこそ、この戦法がとれる。
傷ついても、倒していけばレベルアップして全てが回復する。
僕が僕だからこそ出来る戦い方。
「……くっ、もう! これ、邪魔!」
ボロボロになった鎧を脱ぎ捨てる。
鎧の下から出てきたのは、僕のいつも通りの服。
気が付けば、レベルはもう30。
本来のスクリッド海底洞窟での効率としては、ありえない上がり方だ。
でも、きっとこれがこの階での適正。
そして、僕のレベルの上がりも鈍くなってきてしまっている。
だというのに、フィッシャーマン達はまだまだ居て。
フィッシャーキングが、ゆっくりと動き始めていた。
僕は、チラリと背後を見る。
ポカンとした様子のアグナムさん。
何度も飛び出そうとしては、躊躇うジャックさん。
余裕の顔で僕を見ているシュペル伯爵。
……かなり、やっちゃった感はあるけれど。
正直、仕方がないと思う。
僕がここまで全力でやっても、こんなに残っているんだから。
でも、どうしよう。
正直、手詰まり感がある。
これ以上となると……。
「……仕方ありませんな」
僕の鞄がもぞもぞと動いて、ミケが顔を出す。
「え、ちょっとミケ!?」
「なんですかな」
「君が顔出しちゃったら……!」
焦る僕に、ミケは舌打ちをする。
「ここまでやっといて、何を言っておられるのか。今更、僕はただの武姫ですー、てへっ。じゃあすまないのは分かっておられるでしょうに」
「うっ」
た、確かに。
ちょーっとばかり派手にやりすぎたかなー、って気もするけど。
でも、仕方ないと思うんだ。
「今更です。あの男に至っては、大分前から確信していたようですしな」
そう言ってミケが目を向けたのは、シュペル伯爵。
……確かに、あの人は何か知ってる風だったよね。
「さて……ここまでくれば総力戦です。いきますぞ!」
「う、うん!」
鞄から出て降り立ったミケは、杖で地面を突く。
「古の盟約を此処に示す。大地の記憶よ蘇れ、忘れられし彼方より出でよ」
ミケの今のレベルは僕と連動しているから、30。
つまり、呼び出せるものもレベルアップしている。
「汝、殲滅する者。召喚……ガトリングギア!」
光り輝く魔法円の中から、鋼色の全身鎧が出てくる。
その両腕は、普通の腕じゃなくて……ガトリングガンがくっついている。
いきなり現れたガトリングギアの威容に、フィッシャーマン達の足が止まる。
「ガトリングギア、攻撃モード!」
「イエス、マスター」
「うわっ、喋った!?」
驚く僕に構わずに、ガトリングギアは右腕を怯んだ様子のフィッシャーマン達に向ける。
そして、響く轟音。
ガトリングが回転しながら、魔法弾を次から次へとフィッシャーマンに叩き込んでいく。
数秒間射撃すると、ガトリングギアは今度は左腕を向けて同様の射撃を開始する。
「う、ひゃあ……すごぉい」
「何を暢気な事を。長くは持ちませんぞ」
「へ?」
僕がそんな声をあげると、ガトリングギアは左腕を下げる。
そしてまた右腕を上げる……ことはない。
「魔力切れですな。送還!」
「ええっ!?」
ガトリングギアが消えると、フィッシャーマン達は再び突っ込んでくる。
「ど、どうするのミケ!?」
「どうもこうも。雑魚と大物、どっちをご主人は担当されますかな?」
「え、えーと……」
突っ込んでくる集団を見てオロオロする僕に、ミケは溜息をつく。
「では、大物をお願いします。我輩にはアレは辛いですからな」
そう言うと、ミケは次の召喚を唱え始める。
「古の盟約を此処に示す。大地の記憶よ蘇れ、忘れられし彼方より出でよ」
現れる魔法円に、また何か出るのかとフィッシャーマン達の顔に怯えが走る。
「汝、切り裂く者。召喚……ソードギア!」
そうして、今度は長剣を持ったギアが出現する。
その肩にヒョイと乗ると、ミケは僕にウインクする。
「ではご主人……ご武運を!」
ミケを載せたソードギアが、剣を構えて回転しながらフィッシャーマンの群れに突っ込んでいく。
えーと……と、いうことは。
「オ、オオオ……」
あのオオ、とか言ってるデカいフィッシャーキングを僕が相手にするっていうことで。
「ええい、もう。やるしかないか!」
叫んで、僕は拳を握り締める。




