ギアシップと島到着
「お嬢ちゃんの知り合いか? あのヒョロっちいのは」
「あー、えーと」
なんて説明したものかな。
知り合いっていえば知り合いなんだけど。
迷う僕を見て、ジャックさんは大袈裟に肩を竦めてみせる。
「まあ、知り合いっていやあ知り合いだわな。で、ナンパでもされてんの?」
「えーと、そのような違うような」
ナンパっていうか勧誘っていうか。
僕が説明に迷っていると、ジャックさんは飄々とした様子で近づいてくる。
よく見ると、その手には何かコロッケみたいなものがある。
どうやら、買い食い中だったみたいだ。
それを一口でパクンと飲み込むと、もぐもぐと口を動かして。
更にゴクンと飲み込んで、取り出した布で手を拭いて。
トドメにげふー、とゲップを一つ。
「あー、食った食った。んじゃ帰るか?」
「ほへ?」
ジャックさんは僕の手を掴んで、ぐいと引っ張る。
引っ張られるまま歩く僕の肩を、アグナムさんが慌てて掴む。
「待て待て! いきなりなんだテメエは! 俺のアリスを何処へ連れていく気だ!」
「何言ってんだ。これは俺のだっての」
……うわあ、もう。
ジャックさんが不用意に名前なんか呼ぶから覚えられちゃったよう。
しかも僕、どっちのでもないんですけど。
ぐいぐい引っ張るジャックさんとアグナムさん。
うーん、どうしたものか。
そんな事を考えていると、パンと手を叩く音が聞こえてくる。
「まあまあまあ。お二方とも落ち着いて。此処は、このシュペル・メディウス・アルステイルが素晴らしい解決策を提案しましょう」
「あ?」
「シュペルって……あの奇人伯爵かよ……実在してたのか」
あ、シュペル伯爵ってそういう都市伝説扱いなんだ。
分かる気もするけど。
「アグナムさんは、かの場所の謎を解きたい。そしてそこの……あー、ジャックさん? は、そこのアリスさんが心配であると」
「お、おう」
「あー、まあな」
シュペル伯爵に頷く二人。
むう、どういう流れに持っていく気なんだろう。
「なら簡単です。四人で仲良く冒険しましょう!」
「あの、僕の意志は?」
「大丈夫。すぐに良くなりますから」
そう言うと、シュペル伯爵は素早い動きで僕を抱え上げ……そのままダッシュで走り出す。
「さあ、そうと決まれば出航の時間ですよ!? 時間は待ってはくれないのです。この一瞬が明日の永遠の航海になるやもしれません! さあさあさあ、冒険です!」
「ええ、ちょ……だから僕の意志は!」
「大丈夫! 私に全て任せて! 怖くないですから!」
物凄いスピードで走るシュペル伯爵を、ハッと気付いたアグナムさんとジャックさんが追いかけてくる。
「ハハハ、楽しいですねえ。そおれ!」
シュペル伯爵は、僕とミケを抱えたまま大ジャンプ。
そのまま、近くにあった真っ赤な船に降り立つ。
「ハハハ、レッドアドベンチャー号、出航準備オーケイ!」
「クリムゾン号じゃありませんでしたっけ。ていうか僕の意志……」
その台詞は、最後まで言わせてもらえない。
船にアグナムさんが飛び乗り、続けてジャックさんが飛び乗ってくる。
「おいコラ! 俺を置いてくつもりじゃねえだろうな!」
「よく分からんが儲け話ってのは分かった! 分け前寄越せよ!」
ええー……。
ジャックさん、何時の間にそっち側なのさ。
「あのー……ジャックさんは僕を連れて帰る側だったんじゃ?」
「ん? ああ、でも儲け話みたいだしなあ。お前がいりゃ、とりあえず死ぬ事はねえだろうし」
「……フリードさんに言いつけてやる」
「さあさあ、それではカーマインクロス号、発進!」
ズン、と。
そんな圧力に似たものがかかる。
どうやら伯爵の……真っ赤な船が急発進した音みたいだけど。
え?
あれ?
でも、この世界の船って帆船だったよね?
「う、うおお!? なんだこの船! 帆もねえのに動いてやがる!」
「ハハハ! 私のレッドサレナ号は古代の技術の結晶! 世界に一隻だけのギアシップなのです!」
ギアシップ。
意味は分かるけど、やっぱり聞いたことが無い。
多分、動力で動く船ってことなんだろうなあ。
小型船程度の大きさのレッドサレナ号(暫定)の上で、僕はそんな事を考える。
ちなみにアグナムさんは慣れた様子で地図なんか見ているし、ジャックさんはわけがわからない、といった顔で近くに捕まっている。
「おやあ!? 驚いていないご様子!」
「うわあっ!?」
気が付けば、シュペル伯爵が僕の顔を覗き込んでいる。
「ちょ、ちょっと! 運転しなくていいんですか!?」
「ああ、ああ。大丈夫ですとも。目的地さえ入力すれば自動操縦されますからね」
「そ、そうなんですか」
「ええ、ええ。まあ、フライヤーの風をきる感覚の方が私は好きですがね」
ああ、なんか分かる気もする。
此処でスチームフライヤーで空を飛んだら、きっと気持ちいだろうなあ。
僕がそれを想像していると、シュペル伯爵はニコリと笑う。
「ふふ、今度一緒にいかがですか? 私も持ってるんですよ」
「ああ、いいかもしれませんねえ」
ハハハ、と僕とシュペル伯爵は笑いあう。
うん、なんかシュペル伯爵って気が合うかも。
「なあ、アリス」
「へ?」
誰も操縦していないのに水の上を走るギアシップに戦々恐々としていたジャックさんが、僕に近づいてくる。
……そんな床を這わなくても、落ちたりしないよ?
「ちょっと聞きたいんだけどよ」
「うん」
「……フライヤーって、なんだ?」
……あ。
僕が慌ててシュペル伯爵に視線を戻すと、なんだか凄く満足そうな顔をしている。
ま、まさか! ハメられた!?
「ぼ、ぼぼぼ僕も分かんないや! なんとなく話合わせちゃったけど! あはは!」
「おやおや、照れちゃって。本当は知ってるくせにぃ」
そう言いながら、シュペル伯爵は僕の肩を抱き寄せる。
「もう楽になっちゃいましょうよ。大丈夫、私はこう見えて一途なんですよ?」
「あー、ほら! 島! 島が見えてきましたよ!」
行く手に見える島を見つけて、僕は声を張り上げる。
ああ、もう。
この人、絶対何かに気付いてるよ!
「まあ、いいでしょう。時間はたっぷりありますからね?」
そう言って、シュペル伯爵は船の操縦室に戻っていく。
むう、早くも帰りたい……。
帰還の石で逃げちゃおうかなあ。
でも、なんかよく分かんない追跡技術で追ってきそうな気もする。
うう、どうしよう……。
思わずミケを抱きしめると、耳元でぼそりと小さな声が聞こえてくる。
「……あの伯爵という男は、ご主人が武姫であるというくらいは考えているでしょうな。流石に真実までは気付いていないと信じたいところですが……ここまで来たらやり過ごすしかありません。徹底的にとぼけなさい。得意でしょう? ぼけるのは」
……そんなの、得意じゃないもん。
ミケのバカ。
でも、うーん。
そうだよね。下手に帰還の石で逃げたら、怪しまれるだけだし。
なんとかやり過ごすしかない、かあ。
僕がそんな事を考えている間にも、船は島の港に到着する。
出来たばっかりといった感じの港は、僕にとってはゲームでも見慣れた光景だ。
見慣れた光景なん、だけど。
なんだろう、島を白い壁みたいなのが覆ってるし、あちこちに建物らしきものも見える。
なんていうか……全体的に砦じみてるような。
「ほー、ちっちぇ島だと思ったけど、港はしっかりとあるんだな……で、何処だ此処?」
「ハルクラ島だよ。港は俺等が造ったんだ」
アグナムさんは言いながら、シュペル伯爵と話している男の人を指し示す。
「あいつはマシャ。まあ、うちの海戦団のメンバーだな」
アグナムさん曰く、海底神殿を誰にも触らせない為にアグナム海戦団の拠点として島を整備しちゃったらしい。
領主の人もアグナム海戦団の功績を考慮して、無人島くらいあげるかー……という話になったらしい。
「そ、それでこうなってるんですねー」
「おう。港以外から寄ってこようとしても入れねえようにな」
「って言ってもよう。こんな島なんか拠点にしても不便だろうに」
ジャックさんの言葉に、曖昧に笑うアグナムさん。
……うん、僕は知ってる。
このハルクラ島って、しっかり水場っていうか泉があるんだよね。
詳しい設定は忘れたけど、色々運んだりしなくても人が住める環境だったと思う。
言わないけど。
僕だって、流石にそれ言ったら怪しまれるってのくらいは分かるんだぞ。
「でも、いいんですか? 海底神殿の話バレたら、やっぱり返せってなるんじゃ」
「ん? おう、大丈夫だよ。言ったらお前等からバレたって分かるしな。どっちにしろトボけ倒すし、その間に……なあ?」
「まあ、そんな馬鹿はそうそう居ねえわな!」
何やら気が合ったように笑いあうアグナムさんとジャックさん。
ああ、そういえばジャックさんもシーフだったっけ。
ていうか、何が「なあ」なんだろう。
聞きたいけど聞きたくないような。
「あれは彼等の間の暗黙の了解みたいなものですよ。気にしたら負けです」
「うぎゃあっ!?」
耳にふっと息を吹きかけられて、僕は思いっきり飛び退く。
そこにはいつの間に近寄ってきたのか、シュペル伯爵の姿があった。
「職業柄なのか知りませんが、ああいう思わせぶりな発言がお好きなようで。まあ、七割くらいは意味のない発言ですから」
「何事もなく話を続けないでくださいっ!」
僕が耳を手でガードしていると、シュペル伯爵は首を傾げてみせて。
「……耳が弱いんですか?」
「……僕、シュペル伯爵の発言こそ意味のないものが多いような気もするんですが」
「これは手厳しい。全ての言葉に愛を混ぜるようにしているのですが」
「いらないですから」
「混ぜ物はお嫌い派でしたか」
「違いますから」
「アイラブユー?」
うん、分かった。
相手にしちゃいけない人だ。
僕はシュペル伯爵に背を向けて、アグナムさん達に近寄っていく。
「で、早速行くんですか?」
「ん、ああ。そうしたいとこだが……万全の状態で行きてぇからな。今日は部屋を用意するから休んでくれや」
「え? あ、はい」
アグナムさんの言葉に頷く僕。
まあ、そうだよね。
ロボな僕はともかく、ジャックさんは船のせいで疲れた感じだし。
時刻的にもそろそろ夕方みたいだし、丁度いいのかもしれない。
……こっそりミケとも話し合えるしね。
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