拠点改造
拠点へと帰還した僕は、部屋のベッドで仰向けでグッタリとしていた。
サーファイス王子は振り切ったけど、色々と面倒そうだなあ。
ゲーム時代もいろんなイベントで絡んでくる人だったし……ここは現実だもの。
たぶん、相当しつこいぞ……。
「まあ、王族と会ったのは不幸でしたが……仕方ないでしょう。それよりも、これからどうするかではありませんかな?」
ミケのフォローに、僕は頷く。
そうだよね、会っちゃったものは仕方ないもの。
ああ、でもなあ。
サーファイス王子だけじゃなくてルビリア姫にも会ってるんだよなあ、僕。
サーファイス王子の反応からして、たぶんあの時に会ったのは本物のルビリア姫なんだよなあ。
「むう。まあ、確かに悩んでも仕方ないかあ」
「その通りです。どうせ悩んだって疲れるだけなのですからおやめなさい」
「うん、そうだよね」
「そうですとも」
ミケに言われて、なんだか元気が出てきたかもしれない。
悩んでも仕方ない。
ミケの言うとおり……あれ、なんかさっき違う事言ってた気がする。
「ねえ、ミケ。さっきは悩んでも仕方ないって言ったんだよね?」
「そうですな」
うん、気のせいだったみたいだ。
さて、そうなると……お風呂をどうするかって考えになるよなあ。
これは大問題だぞ。
人の居る場所に近寄らない、という前提がある僕には大問題だ。
川に行ってさっきみたいに誰かに会ったら嫌だしなあ。
うーん、アウグスト火山の中腹には確か温泉があるけど……あそこをウロウロするにはレベルが足りないしなあ。
とはいえ、お風呂に入らないっていう選択肢は今の僕には無い。
お風呂だ。
今の僕には、お風呂が最重要課題なのだ。
「うーん……」
悩んでいる僕を、ミケがじっと見つめている。
「どしたの、ミケ」
まさか悩む僕に渋い魅力があったとか……って顔じゃないな。
あれは僕をバカにしてる顔だ。
ヒゲがヒクヒクしてるから凄いよく分かる。
「……何か知ってるなら教えてほしいんだけど」
「ん? 教えるも何も。増設すればよいではありませんか」
「増設?」
言われて、僕は思い出す。
増設。
拠点の増設。
そういえばゲーム時代、拠点はカスタマイズしたり増設したり出来たけど。
でもあれってゲーム時代の話でしょ?
「出来るの?」
「モニタールームの端末で可能ですが」
……そうなんだ。
むう、知らなかったよ。
僕はミケを抱え上げて、モニタールームへ歩いていく。
司令官席に座って、モニターを見つめる。
「コマンドオープン」
拠点設定
基本メニュー
終了
む、確かにそれっぽいのがあったぞ。
拠点設定、かあ。
僕は早速選択し、更なるメニューを開く。
拠点確認
拠点改造
パーツ一覧
戻る
「んー……なるほど。確かに出来るなあ」
僕がコマンドを弄っていると、ミケが僕を見上げている。
「ふむ……端末を直接弄らずにそんな事が出来るとは。流石にプリンセスギアですなあ」
「ん? ミケにはできないの?」
「できませんな」
む……やっぱりコレって、僕が転生して得た能力なのかな。
あんまり外で音声コマンドは使わない方がいいのかも。
とりあえず僕は、拠点確認のコマンドを選ぶ。
ゲーム時代の拠点改造は、言ってみればギルド拠点の縮小版みたいなものだった。
部屋には一定のコストがあり、拠点には「限界値」が存在していた。
それ以上の部屋の増設は不可能の為、限られた空間をいかに飾るかは永遠のテーマだった。
同時に、個人拠点とは比べ物にならない大改造が可能なギルド拠点は、個人拠点とは違った意味でセンスの問われる場所だった。
とあるギルドは大迷宮を造ったし、とあるギルドは秘密基地を造った。
僕が……じゃなくてメインの機士が所属していた「虹の記憶」も、空中要塞なんて造っていた。
まあ、移動は出来ないし「空中要塞風」なんだけどね。
ともかく、個人拠点にはコストの問題が常に付きまとう。
バスルームを設置できるか否かはそれ次第なんだけど。
細かいデータを見れるリスト表示と、全体的な配置を見れるマップ表示のうち、とりあえずリスト表示を選択。
データがズラリと表示される。
拠点名:アルギオス要塞都市
所有者:アリス
コスト:497886/制限無し
……は?
僕は表示されたものから、ふっと目をそらす。
おかしいな、なんか数値とかが色々おかしかった気がするぞ?
「流石ですな、ご主人。このアルギオス山脈全てを保有しておられるとは」
「うわー!」
僕が目を逸らした現実に、ミケが的確なツッコミを入れてくる。
待ってよ、ちょっと待ってよ!
アルギオス山脈全部って!
アルギオス山脈は単なるフィールドじゃないんだよ?
ダンジョンのアルギオス要塞も含んでるんだよ!?
え、まさかそれも含めてこのコストなの!?
「え……っと……まさか、ねえ……」
表示されているパーツを確認していく。
一番上のは僕の拠点の部屋パーツ。
うん、見覚えあるぞ。
リストを下に下げていく。
岩A(コスト1)
岩B(コスト1)
岩B(コスト1)
岩D(コスト1)
岩F(コスト1)
なんか岩がいっぱいある……。
うーん、リスト表示だと岩を見るだけで疲れちゃうな。
マップ表示に切り替える……と。
「……うわあ」
「ほほう、これはこれは」
アルギオス山脈のマップが全体表示で出ちゃったよ……。
あ、ほんとにアルギオス要塞まで範囲に入ってる……。
うわあ、もう。
どうすんのコレ。
山脈ごと貰っても僕、責任とれないよう。
だって此処、ロックドラゴンとか住んでるんだよ?
「むうー……」
「どうしました。お風呂を設置するのでは?」
呑気な事を言うミケを、僕はぎゅっと抱きしめる。
あったかーい。
癒されるね。
「あのさ、ミケ。こんなモンスター一杯の場所が僕にどうにかできるとは思えないんだけど」
「なら追い出せば宜しいではないですか」
「此処は貴方の本拠地なのです。従わぬ者は追い出せば宜しい」
ん……もしかして。
僕はハッとして、拠点改造の項目を選ぶ。
そう、拠点……個人拠点には無い機能だけど、ギルド拠点には「ガーディアン」という機能がある。
文字通り、拠点の守護者なんだけど。
もしかして……という思いと共に、僕は存在していた「ガーディアン」の項目を選ぶ。
ガーディアン一覧
ガーディアン新規設定
ガーディアン改造
戻る
ガーディアン一覧を選ぶ。
すると、僕の目の前にズラリとリストが出てくる。
ロックドール(制御不能)
ロックワーム(制御不能)
ロックゴーレム(制御不能)
ロックドラゴン(制御不能)
旧型ビットA-002(制御不能)
旧型ビットB-001(制御不能)
試作ソードギア(制御不能)
試作ガンナーギア(制御不能)
試作クラッシャーギア(制御不能)
うん、全部制御不能だね。
制御不能ってことはたぶん、僕の言う事聞かないよね……。
「えーと、ガーディアンから外す……と」
レベル不足により制御不能の為、操作を受け付けません!
「レベル不足って……」
アルギオス山脈の適正レベルは25。
アルギオス要塞の適正レベルは32だ。
で、今の僕のレベルは15。
むう、どうしろって言うのさ。
「修行しかないのではないですかな?」
「まあ、そりゃねえ……」
レベルさえ上げれば、あのロックドラゴンがいう事聞くのかなあ。
僕、ちょっと想像つかないんだけど。
「で、お風呂を設置するのでは?」
「あ、うん。そうだね」
とにかくコストの問題は解決したんだ。
お風呂を設置しないとね。
「んー……お風呂のパーツは……と」
新しい部屋を設置するついでに、モニタールームの位置も移動。
モニタールームを地下三階……もといレベル3区画にして、モニタールームだったレベル2区画の場所にはエントランスホールを設置。
とりあえず僕の部屋もレベル2区画だけど、武姫ルームはレベル3区画に移動。
他に何を設置するかは、あとで考えるとして。
とりあえずレベル2区画に新しくバスルームを増設する。
コストとかデザインの関係で「集めたけど使わなかった」的な小物はたくさんあるので、それも設置。
あ、ついでにエントランスも何か……うーん、後回しでいいか。
レベル1区画も改造したいけど……とりあえずお風呂だよね。
「よし、できたー!」
実行ボタンを押すと、ズン……という音と振動が響く。
「うわお、何の音?」
「区画改造の音ではありませんかな。思い切った改造をされましたし」
「……ちょっと区画を増やしたり移動したりしただけじゃない」
「それを思い切った改造というのですがな」
聞こえないもん。
僕、自重してるもん。
「とにかく、これでお風呂は……ってあ!」
エントランスから直接バスルームになってるよ。
脱衣所がないじゃないか。
これは大問題だよ!
「うーん、脱衣所かあ。そんなパーツは流石にないよなあ」
「必要ですか?」
「必要だよ! お風呂で脱ぐのは論外だし、エントランスでなんてもっとダメだよ! それともミケってば、そういう趣味なの!?」
「何を言っておられるのか……」
そう、脱衣所は絶対に必要だ。
しかし無いとなると……うーん。
適当な小部屋で代用するしかないかな。
とりあえず、一番小さな部屋パーツを設置。
……うん、いい感じ。
あとはこの部屋に脱衣所っぽいカゴとかのパーツを加えて。
「よし、完成!」
「はあ、よかったですな」
「ミケ、反応が薄いよ!」
「吾輩、お風呂はあまり……」
なんてこと言うんだ。
ミケはお風呂の大切さを分かってない。
一日の疲れを癒してくれるお風呂。
この手のファンタジー世界だとお風呂は貴族の嗜みで、皆お湯と布で身体の汚れを拭いたりするんだぞ。
だというのに。
僕達は、こんな簡単にお風呂を設置できるっていうのに。
排水とか湯沸しとか、そもそも給水がどうなってるのか、何も考えなくてもお風呂に入れるっていうのに。
なんてこと言うんだ、この猫は。
許せないぞ。
僕はミケをぎゅっと抱きしめて、宣言する。
「ミケ、お風呂入ろう。洗ってあげるから」
「いや、吾輩は遠慮します」
「ダメ。ミケの汚い身体も心もキレイキレイにしてあげるから」
「尚更必要ありませんが。ご主人には毎日必要かもしれませんが」
ハハハ、面白い事言うね、ミケは。
もう絶対逃がさないぞ。
お風呂の魔力を思い知れ。
お風呂が設置されました。
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